週刊アクセス
 
 
平成13年7月11日 第64号
 
     
  今週のヘッドライン  
 
国土交通省 不動産鑑定評価基準を11年ぶりに見直し
オフィス賃料、大阪で最低更新──4−6月期
悪条件の土地に工夫した建築 トータルで発想
    たかが賃貸マンション、されど賃貸マンション
大阪府庁舎建替え PFIで負担抑制
 
     
     
  国土交通省 不動産鑑定評価基準を11年ぶりに見直し  
  (日経 H13.7.6)  
 
 国土交通省は不動産鑑定士が土地や建物の価格を算定する際の基準を11年ぶりに見直し、来年度に新基準を導入する。現在は土地だけの評価が中心だが、新基準では商業用不動産などを対象に土地と建物を一体とみなし、賃料などでどの程度の収益が見込めるかによって評価する方式に転換する。同省では不動産の収益性が明確になることで物件の売買や証券化がしやすくなり、不動産市場の活性化につながると見ている。


いわせてんか! 不動産鑑定士が鑑定評価を行う場合の規範となるものが、"不動産鑑定評価基準"で、昭和44年にはじまり、平成2年に全面改正され、続いて今回3度目の一部見直しとなる。
 地価の右肩上がりの終焉により、資産保有から資産活用へと不動産の位置づけが変化し、価格のありどころも、売り手の論理よりも買い手サイドにシフトしている。特に収益ビル等についてはその傾向が強い。したがって、収益還元法が重視されるのは当然のことであろう。
 鑑定評価では、従来から、売り手サイドの原価法、買い手サイドの収益還元法、市場サイドの取引事例比較法を適用して価格3面性から不動産の正常価格を求めてきたが、東京都心区等を中心とする収益ビルの証券化においては、投資利回りを軸に収益性で不動産を購入、証券化していくため、収益還元法が中心となっていることは、基準の見直しの背景としては当然のことである。
 ただ、記事の中で、オフィスビルの評価において、これまでは、土地建物を別々に出してそれを合計していた評価のやり方から、収益性に基づいた欧米流の収益還元法で評価するやり方へ基準の見直しが変わるような記載があるが、これはどうか。
 これまでも、オフィスビルなどの収益物件については、実際実質賃料に基づく収益還元法を軸において鑑定評価を行ってきているし、DCF法をはじめとする有期還元は(社)日本不動産鑑定協会主催の研修会などで、収益還元法の精緻化に向けて多くの不動産鑑定士が情報の収集と知識の更新をおこなってきており、鑑定士の評価手法が遅れているようなことは決してないといえる。
 一方で、収益還元法も実証的な賃料や費用項目、割引率の求め方、不動産に関する様々なリスクをどう数値化していくかなど、解決していく問題点も多く、まだまだ収益還元法一本やりでは精度の高い不動産価格が求まるかは議論の余地があるのではないか。
 欧米流の収益還元というが、アメリカなどでは、収益物件の賃料等の賃貸条件はほぼ公開されているため、精度の高い収益還元ができる反面、日本では、賃料等の賃貸条件は相対(あいたい)的で非公開がほとんどで、"基準"や鑑定士だけの問題ではなく、プライバシーと情報公開の綱引きという社会的な問題もあることを理解する必要があるのではないか。
 最後に、我々の業界に関する記事が、業界紙とはいえ日経のトップ記事に記載されたことは結構なことではある。

 




オフィス賃料、大阪で最低更新──4−6月期
(日経近畿経済欄H13.7.6)
 
 近畿のオフィスビル賃料が一段と下落している。不動産調査会社、生駒データサービスシステム(東京・港)が5日発表した4―6月期のオフィス賃料は、大阪市内が4・四半期連続で過去最低を更新。神戸市内も2期ぶりに下落したほか京都市内も横ばいにとどまった。オフィス需要が低迷し、ビルのオーナーがテナント確保に躍起になっているためで、一部では前年比で1割程度の下げもみられる。
 大阪市内の平均募集賃料は3.3平方メートル当たり1万500円。前期比2.2%、前年同期比では6.7%それぞれ下落した。テナント確保を優先させて賃料交渉に臨むオーナーが目立つ。特にテナント流出が相次ぐ四つ橋筋沿いの区域では賃料下げが著しく、前期比3―7%下落している。それでも空室が埋まらないケースが多く、同区域では空室率は同1ポイント以上上昇し13%前後に達した。
 高賃料のオフィスが埋まって募集をやめたことも平均募集賃料を下げた要因で、淀屋橋周辺と大阪ビジネスパーク(OBP)一帯では金融機関などのコールセンターが高賃料オフィスに入居したため、平均募集賃料はそれぞれ11.7%、6.3%の大幅下落となった。
 神戸市内の平均賃料も3.3平方メートル当たり1万1410円と前期比0.8%、前年同期比1%下落した。ビルの地上1階と地下では飲食店、衣料品店などテナント需要が増えているが、全体の需要を押し上げるには至らない。特に元町では築年数の長いビルが多いこともあり三宮への流出が相次いで、空室率は20%を超えた。区域別では西日本で最高水準となった。
 一方、京都市内は3.3平方メートル当たり1万1010円。前期比0.1%高にとどまり、前年同期比では4%下落した。6月に「日本興亜京都ビル」(下京区)など中小型のビルが2棟開業し賃料水準を小幅引き上げたが、「周辺のビルでは入居面積の縮小やテナント撤退が目立つ」(生駒データ)という。

いわせてんか! 近畿圏のオフィスビルの需給状況について当HPでもたびたびお伝えしているが、同エリアの景気低迷を反映して、依然としてオフィス賃料の下落が続いている。大阪では、本社機能の東京移転等によりオフィス需要が減退する一方でオフィスビルは供給過多の状況にあり、需要と供給がアンバランスな状態が続いている。大阪市中心部の再開発で、ある不動産会社が20階建のオフィスビルと28階建のマンションを建設したところ、マンションの方は売れ行き好調であったが、オフィスビルの方は今だに閑古鳥が鳴いている状態だという。既報6月27日号でお伝えした通り、船場オフィス街のど真ん中に超高層マンションの建設が計画されるなど、大阪でも都心回帰現象は着実に進行している。鑑定士が鑑定評価を行う際に「最有効使用の判定」という作業を行うのであるが、大阪の高度商業地では、いくら高容積率だからといって、単純に最有効使用を「高層の店舗・事務所ビルの敷地」と判定するわけにはいかなくなるのかもしれない。





悪条件の土地に工夫した建築 トータルで発想
(住宅新報 2001.7.13号)

 稲葉なおと氏「気になる業界話(252)」より。

「条件の良い土地を他社(いわゆる大手)と競りあい泣く泣く高値で買うのではなく、条件が悪く、他のものが見向きもしない土地を叩きに叩いて買い求める。土地を格段に安く仕入れた分、建物に一工夫も二工夫もすることで、多少工事費がアップしてもその上昇分を吸収してしまおう・・・」

「その昔、建築家の清家清氏は、『規制が厳しいところほど、よい家が建つ』と主張していた。商売の効率の悪さを心から楽しむ。そんな気構えを持った優秀な建築家と、土地所得の段階から組むことで、他の業者が見向きもしない外れの土地が、格安の当たり物件へと様変わりすることもあるのだ。」
(かっこ内は筆者。)

いわせてんか!
 
 景気が冷え込む中、駅近などでの立地条件のいい土地はマンション・戸建住宅分譲業者に引く手あまたであり、新規分譲も以前ほどではないにしろ底堅く推移している。大手企業の資産整理が進行中で、さらに政府の不良債権処理が断行されれば、福利厚生施設等の優良土地がまだ出てくる。
 しかし、これも資金力のある大手が開発してしまう可能性が強いわけで、中小の建築会社などは記事のような発想を必要とされているのだろう。
 土地取得、建物建設、売買、利用、そして評価も、土地建物「トータル」の発想が大切になってきている。





たかが賃貸マンション、されど賃貸マンション
(大阪市内賃貸マンション・需給実態ヒアリングより)

 特徴としては、以下のような点が挙げられる。
・ 空室率は高く、総じて空き物件が多い。
・ 価格帯、延べ床面積によって、物件自体の総数が異なる。
・ いわゆる賃料の遅効性のためか、土地の下落率と比較して、それほど賃
 料の値下がりが少ないことが多い。
・ 個人オーナーが多く、賃貸条件、管理等にオーナーの個性が反映される
 ことが多い。


いわせてんか! 昨今、このご時世で、大阪市内中心部でも地価は下落し続けて久しいが、いざ賃貸物件を探してみると、意外と賃料水準は高いというのが実感である。とくに、市内中心部の利便性の高い地域は、根強い人気に加え、個人オーナーの場合バブルの水準を引きずり、空室が出ても賃料は下げない場合もあるという。
 さて、ここでひとつ注意してほしいのは、たとえ賃貸借契約であっても、対象のマンションの登記簿を閲覧してほしいということである。もし対象マンションに抵当権が多く設定され、差し押さえられているような場合は、要注意である。なぜなら、大家の経営状態によっては、保証金が返還されない場合や、競売により、裁判所の執行官が賃借している我が家に調査にくることがあり、無用の混乱が生じるからである。立場の弱い借主といえども、大家を審査して賃貸借契約を締結する時代になっているのである。





大阪府庁舎建替え PFIで負担抑制
(日経 H13.7.5)
 財政難を理由に1996年から計画を凍結していた大阪府の庁舎(行政棟、議会棟)建替え問題で、府は4日までに新計画案の概要をまとめた。PFI(民間資金を活用した社会資本の整備)を導入し、今年1月に提示した試案より規模を縮小するなど財政負担を抑制、議会棟については3つの案に絞った内容。府は府議会に新計画案の承認を求める考えだが、凍結を解除しない方針を固めている最大会派・自民党などからの反発も予想される。


いわせてんか! 凍結中の原案の建設費は、行政棟のみで1,100億円と巨額であったが今回の3つの計画ではPFIを導入することもあって400億円以内と大幅に縮小されている。財政難の大阪では府民の強い批判も予想されるが、現在の府庁は各課が周辺地域に分散しあまりにも不便である。PFIなどを積極的に導入した今回の計画は、1つの行政努力と言える。行政の効率化のために今後もさらなる検討が必要となる。

 



 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

           
 
  ―平成13年7月11日号・完―  
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