週刊アクセス
 
 
平成13年12月12日 第86号
 
     
  今週のヘッドライン  
 
不動産鑑定評価基準骨子案でパブリックコメント 国土交通省
ビル風被害に慰謝料、住民側対策のモデルに 〜事前協議内容 立証に威力
中古マンション一括購入時の土地建物価格按分 国税審判所
マンション管理士試験終わる
 
不動産鑑定評価基準骨子案でパブリックコメント 国土交通省
(住宅新報Housing TIMES 2001・12・11)
 
 国土交通省は、このほど国土審議会不動産鑑定評価部会がまとめた不動産鑑定評価基準改定骨子案に対するパブリックコメント(意見募集)を行う。募集期限は1月11日正午。
 改定骨子案では、収益還元法の手法の整理や、不動産の証券化などで今後飛躍的な増加が想定される物件精査業務への対応などが明記されている。主な重点項目は、

  (1) 価格概念の明確化
  (2) 収益還元法の体系的整理
  (3) 市場分析の重視
  (4) 試算価格の調整の考え方の再検討
  (5) 経済的・法的・物理的な物件精査

―の5点。
 このうち価格概念の明確化については、鑑定評価の中心的な価格概念である「正常価格」を、新たに「市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格」と明確に定義付けた。
 収益性の重視については、収益還元法の具体的手法として、これまでの直接還元法に、投資用不動産の分析ですでに一般化しているDCF(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー)法を加えた。流動化法または投信法に基づく評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価格を表す価格を求める鑑定評価では、DCF法を必ず適用することとしている。
 物的精査(デューデリジェンス)に関しては、不動産証券化の進展に伴う鑑定評価ニーズの高度化、多様化に対応し、複合不動産の評価に対応する建物の構造や仕様に係る詳細事項、土壌汚染、地下埋蔵物に係る事項などを調査項目として整理し、明確化することとしている。
 詳細については、同省のホームページで公開している。

いわせてんか!
 我々不動産鑑定士等にとって拠り所である不動産鑑定評価基準の改定作業が続いている。現行の基準は平成2年以来改定されておらず、現場の鑑定士等は市場ニーズに対応してきたものの、必ずしもバブル崩壊後の経済情勢を反映したものは言い難かった。
 既報平成13年7月11日号にもあるように、不動産鑑定評価基準の見直し作業においては、収益還元法に関することのみがクローズアップされる傾向にあるが、正常価格の再定義・特定価格の細分化(特殊価格の創設)等の価格概念の明確化、市場分析概念の導入、試算価格調整の考え方の再検討、デューデリジェンス等、鑑定評価の手順の各段階において事細かに見直される方向である。
 新基準が施行されるのは来春(2002年4月)の予定である。我々不動産鑑定士等は、対象不動産の確定・確認、価格形成要因の分析、鑑定評価手法の適用、試算価格の調整等手順の各段階について、現実の不動産市場を直視した、よりきめ細やかな鑑定評価の作業を行うことが要求されるとともに、多様化・複雑化したニーズに対応し、さらに鑑定評価の裾野を拡げていかなくてはならないことをも自覚する必要がある。




     
     
ビル風被害に慰謝料、住民側対策のモデルに
     〜事前協議内容 立証に威力

  (日経ネット関西版 13年12月9日)  
 
 先月30日、高層マンション建設に伴う風害に絡んで近隣住民が損害賠償請求した訴訟で、大阪地裁はビル風による被害に対する慰謝料を初めて認める判決を言い渡した。決め手になったのは、マンション建設業者側と近隣自治会が事前に行った協議だった。協議の結果、業者側に工事前から完成後まで付近の風環境を観測させたデータなどが、住民側の立証に威力を発揮。原告代理人は「今後、風害が懸念される高層ビル建設の際、近隣住民側の対応策のモデルケースになるのでは」と話している。
 風害を巡る訴訟では、被害との因果関係を立証するのが難しく、過去の数少ない訴訟例でも原告が敗訴するケースが目立つ。これまで立証には模型を使って状況を再現する風洞実験が用いられてきたが、今回は実際の観測データがあったことで、費用も高額な実験なしで立証に成功した。
 通常、住民側が立証しなければならないマンション建設と風害との因果関係について、自治会と業者側との間で「業者側に立証する義務がある」との協定を交わしていたことも、住民側に有利に働いた。
 観測データからマンション建設前と後では、住宅地としての一般的な風環境から生活に支障のある風環境へ変化したと判決では認定、さらに「立証責任を果たしていない」と業者側の反論も退けた。
 民間の調査研究機関「風工学研究所」(東京)には年間30件ほどのビル風についての相談が寄せられるという。今回のケースは同様の悩みを抱える住民らに影響を与えそうだ。


いわせてんか! 最近のマンションブームを反映して、都心部では高層マンションの建設が行われているが、業者にとってこの判決は痛手になるだろう。さまざまなトラブルマニュアルや法廷出廷の予行演習などで準備万全の業者に対し、地道な努力で勝訴を勝ち取った住民側に拍手を送りたい。ちなみに私が住んでいる近辺でも超高層マンション「ジーニス大阪」が建設されているので、ビル風を肌で感じてみたいと思います。





中古マンション一括購入時の土地建物価格按分 国税審判所
(税務通信 H13.11.29)
 
 中古マンションなどで、建物部分の減価償却費算定基礎となる"取得価額"をどのように見積もるかに関し、国税不服審判所がこのほど明らかにした裁決では「固定資産税評価額をベースに一括購入対価を按分すべき」との判断が示されている。ただし、譲渡所得計算上の取得価額=原価の算定に当たっては、建物の"標準建築単価"などにより求める手法も認められそうだ。
 「建物の取得価額=一括購入額−(相続税路線価により算出した土地の価額+建物附属設備の価額)」と計算した納税者にたいし、「売買契約書等により建物の購入代価等が明らかな場合には、通常、その価額となるが、それが明らかでない場合には、購入代価等の総額を何らかの合理的な方法により土地及び建物に区分して、建物の取得価額を算出することが必要となる」とした上で、以下のような判断をした。
 まず、土地、建物を一括購入したが、建物の購入代価等が明らかでないときには、

(1)  過去の売買価額が土地及び建物に区分されている場合は、その価額を基礎とする方法、
(2)  類似物件の売買実例があり、その売買価額が土地及び建物に区分されている場合に、その価額を基礎とする方法、
(3)  相続税評価額や固定資産税評価等で、当該物件の土地及び建物につき合理的と認められる価額を見積もることが可能な場合に、その価額を基礎とする方法があるとした。

(1)、(2)は今回、建物の購入代金等が不明なために、用いることができない。そのうえで、(3)の方法につき検討したが、相続税路線価と比較した上で、「本件では、土地及び建物の双方を同一の機関で定めている固定資産税評価額を基礎とする方がより合理的である」とし、固定資産税評価額を基準とすべきとした。
 さらに、「本件物件においては、請求人が主張する差引法に比較してあん分法の方が、より実態に近似するがい然性が高く合理的である」として、「あん分法」(基礎とする土地及び建物の価額の比を、当該物件の全体の取得価額に乗じて当該建物の取得価額を算出する方法)を選択した。

いわせてんか!
 譲渡所得の特例適用や、個人の不動産・事業所得、また法人税について、土地建物を一括購入して固定資産に計上する場合に建物を減価償却するため、取得価額を按分する必要がある。本審判はこの「合理的な方法」につき判示したものだが、この内訳はそう単純にはいかない。
 昨今の景気後退は新築の総額を下落させ、これに押されて中古は特に下落圧力が強い。この下方圧力は、土地建物をそれぞれ積み上げた価格の頭を押さえており、中古の場合さらに内訳の算定を困難にしている。
 今回の審判は一定の「妥協点」を示しており、固定資産税評価額は入手しやすいデータでもある。しかし、固定の建物評価は一種独特であり、実勢をどこまで表現しているかは検証の余地がある。総額が大きい場合は、特に注意する必要があるだろう。





マンション管理士試験終わる
(参加レポート)
 
 H13.12.9日曜日、マンション管理士第1回試験
 (財)マンション管理センター (http://www.mankan.org/siken/shiken_sokuho/shikennbetu_sokuho.htm)

いわせてんか!
 とうとうマンション管理士試験が終わった。不動産業界の多くの人は受験したであろうこの試験であるが、上記結果によれば9割近い受験数になっており、欠席者は少なかったようである。試験会場では、宅建等の他資格の試験に比べ受験年齢層が高いというのが感想である。また、試験のレベルは比較的オーソドックスな問題が多かったため、合格ラインはかなり高くなるのでは、というのが巷の噂である。受験勉強に多くの時間を費やした方も、一夜漬の方もとりあえずお疲れさまである。

 



 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

           
 
  ―平成13年12月12日号・完―  
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