週刊アクセス
 
 
平成16年2月4日 第195号
 
     
  今週のヘッドライン  
 
マルビル、老朽化・ホテル単価低下響く
──再生機構が支援、収益向上へテナント強化
“公示価格”への提言・2評論
   ― 当初政策目的の終焉とこれからのあるべき姿を探る
 
     
マルビル、老朽化・ホテル単価低下響く
          ──再生機構が支援、収益向上へテナント強化
  (日経ネット関西版 H16.1.29)  
   大阪の玄関口、JR大阪駅前に立つ円筒状のビルとして有名な「大阪マルビル」(正式名称は梅田ダイヤビル)を保有する吉本土地建物(大阪市、吉本晴彦社長)と運営子会社の大阪マルビル(同、吉本晴之社長)が28日、産業再生機構の支援を受けることが決まった。金融機関から総額66億円の債務免除を受けて財務体質を改善。老朽化した館内を改装して再建を目指す。
 28日に記者会見した大阪マルビルの吉本晴之社長は、収益の柱だったホテル部門について「一時はユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)効果があったものの、近年は施設が老朽化して客室単価が最盛期の3割に低下していた」と述べた。宴会部門の婚礼も昨年はピークの4割の約300件に減少したという。
 独特の形状の建物だけに初期投資がかさんで建設効率が悪く、金利負担が重くのしかかり、改装にも踏み切れなかった。1997年には同じ梅田地区にザ・リッツ・カールトン大阪が開業するなど、ホテル間の競争激化も響いた。さらにホテル内に美術館を開設する構想を計画。バブル期に絵画を買い集めたが、この構想は頓挫、結果的に経営を圧迫することになったようだ。
 今後は新たなスポンサーを探して15億円の出資を受け、設備更新で客単価の引き上げを狙う。5カ所ある宴会場の一部も、採算性の高いテナント部門に転用して収益力の向上を図る。
 ただ、大阪マルビル内のホテルは客室単価こそ低下したものの、稼働率は現在も9割を確保、テナントも満室という。「建設投資はかさんだが円筒状の建物は集客には大きな効果があった」(吉本晴之社長)
 大阪マルビル会長でオーナーの吉本晴彦氏は退任し、再建に当たっては私財を提供する考えだという。マルビルは大阪・梅田の名物として長く親しまれてきただけに、今後の再建の行方が注目される。

いわせてんか! 1976年に竣工した、当時は梅田唯一の超高層ビルであったマルビルだが、キタの名物でもあった電光サインが昨年終了しているなど、地味な存在になっていたように思う。現在では回りを超高層ビルに囲まれてあまり見えなくなったのが、その理由のようだ。
 産業再生機構により再建支援を受けることが28日に決定された。再生機構の支援企業は、同日に支援企業に決定された水道・ガスメーター製造最大手の金門製作所と合わせて11社になるという。記事で紹介されているホテルの稼働率やテナントの入居状況からは一定のポテンシャルは依然として認められる。今後、再建策がどのような形で具体化していくか注目される。





“公示価格”への提言・2評論
   ― 当初政策目的の終焉とこれからのあるべき姿を探る
   
  最近表題に関して、以下の2評論が出ている。

 大野喜久之輔(大野都市再生研究所理事長・神戸大学名誉教授)
『転換期 不動産鑑定の課題(上)〜「公示価格の実勢乖離」を巡って』
(「月刊不動産鑑定」2004.2.1、住宅新報社、p39〜)

 森田義男(税理士・不動産鑑定士)
『公示価格の破綻〜驚くべき不動産鑑定の実態』(水曜社、2004.1.28)

いわせてんか! 昭和44年に制定された地価公示法に基づく地価公示制度は、いわば不動産鑑定士という国家資格の “生みの親”であるといえる。
 地価高騰の抑制という法施行当初の政策目的は、バブル崩壊後10有余年を経て終焉を迎えた。依然として“適正な地価形成への寄与”(法1条)という目的は失われてはいないと思われるが、その存在理由が厳しく問われている。特に平成2年の土地基本法制定以降、公的評価(相続税・固定資産税評価)のベースとして機能する意味合いは大きい。

 大野氏は日経記事を端緒として、経済の視点からその原因と解決策を探る。
 森田氏は、長い納税者訴訟の経験からその実態を斬る。

 大野氏のごとく、一般から提起された疑問について専門分野から回答・解説を試みていただくことは、業界には非常に重要である。外部の有識者と大いに議論を持ちつつ、メディア等の投げかけに即時的に対応することが必要だ。

 また、森田氏のごとく、業界内部及びこれをよく知る方からの提案に関しては、“諫言耳に痛い”部分を乗り越えて、業界全体の俎上に載せる必要があろう。
 さらに進んで、森田氏には、業界に関わる者として、内部において積極的に議論活発化・改革推進のリーダーシップをとっていただきたい。“言うは易く行うは難し”であり、意志ある人々が連携してこそ、“大きな流れ”として実行することが可能となるのではないか?

 親に育ててもらい40歳を迎える鑑定士。受け継ぐものと継がないものをしっかりと選別し、さらに、今の社会の負託に十分こたえ成長するために、自らの頭で考え、自らの足で歩く必要がある。









 

 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

           
 
  ―平成16年2月4日号・完―  
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