週刊アクセス
 
 
平成16年2月18日 第197号
 
     
  今週のヘッドライン  
 
警備サービス付き住宅街、首都圏・関西で分譲
工場制限法廃止でも新増設30件どまり──住宅建設進み用地少なく
「不動産の売却に係る会計処理に関する論点の整理」公表
大型店、近畿2府4県 届け出最高92件
公認会計士と不動産鑑定士 合同で協議会設置
     〜減損会計 実務指針作成へ
 
     
警備サービス付き住宅街、首都圏・関西で分譲
  (日経ネット H16.2.14)  
   町ぐるみの安全売ります――。警備員の巡回やインターネットを利用した防犯カメラシステムで守られた住宅地が首都圏や関西で登場してきた。戸建て住宅の購入者らが費用を分担、防犯に役立てる。警察庁によると、住宅を狙った空き巣などの侵入盗は1980年代後半から急増。個人による防犯対策の重要性が増しているのを受けて、住宅地のあり方も変わろうとしているようだ。
 新日鉄都市開発(東京・中央)は綜合警備保障と組み、警備員が常駐する住宅団地「さくらが丘アイザック日吉」(川崎市中原区)を売り出した。警備員が1日二交代制で勤務し、車か徒歩で巡回する。住民は一戸当たり月約8700円の自治会費を支払い、家庭ごとの防犯センサーの設置や、宅地内の清掃や植栽管理なども委託する。新日本製鉄の研究所跡地の約7万平方メートルを開発し、総戸数は346戸。第一回分譲の51戸は即日完売、年内には60―70戸を販売する。

いわせてんか! 天然温泉から果ては豪華クルーザー付きの分譲マンションや大容量の光ケーブルを備えた住宅団地など“付加価値”を付けた住宅の分譲が増えている。フツーのままでは売れないので何らかの「おまけ」を付けて買い手を呼び込もうとする企業側の涙ぐましい努力が見て取れる。
 防犯の面ではマンションより劣るとされる戸建住宅でも“新たな付加価値”として防犯対策を重視した住宅の分譲が増えているとの記事である。
 新規に分譲された開発団地の場合、住民同士がお互いあまり顔を知らないことからコミュニティとしての力が弱く、地域としての防犯対策には限界がある。そこで当初から地域として警備会社と契約しておけばこれらの面での弱点を補えるというわけである。
 ただ、組み込まれた“付加価値”は全くの「サービス」でなくきちんと価格に上乗せされているし、いろいろな設備がついていればいるほどその後のメンテナンス費用が嵩むことも認識しておきたい。





工場制限法廃止でも新増設30件どまり──住宅建設進み用地少なく
  (日経ネット関西版 H16.1.29)  
   京阪神地域の中心市街地で工場や大学の新増設を制限した工場等制限法の廃止(2002年7月)以降、工場を新増設したのは30件程度であることが大阪府などのまとめで分かった。マンションなど住宅建設が進んでいるために新たな工場立地が難しく、既存工場の増設や建て替えにとどまっている。一方、大学では京都外国語大学(京都市)の校舎建て替えなど新増設の動きが出ている。
 大阪府の調べによると、法律の廃止以降、規制があった府内区域の工場新増設は24件。内訳は大阪市が16件と最も多く、堺市と東大阪市が4件。電機関連の工場立地が多い守口市はゼロにとどまった。堺市では北部で阪神高速大和川線の建設工事に伴う繊維工場など工場移転が3件あったが、大半は工場増設とみられる。
 兵庫県内では規制対象だった神戸、芦屋、西宮、尼崎市の4市に聞き取り調査をしたところ、尼崎市が新増設6件、西宮市も数件の増設があった。神戸市と芦屋市では規制対象だった区域で目立った新増設がなかったという。
 新規の工場立地が進まない一方で、京阪神中心部から外への工場移転が続いている。国土交通省などによると、近畿の旧規制区域から域外への工場移転件数は2002年度で11件に上った。2000年度(16件)、2001年度(19件)に比べると減少したが、ゼロになる兆しはまだ見えていない。
 規制区域だった大阪市旭区に工場を持つ化粧品材料メーカーの大東化成工業(大阪市)は4月に稼働する福井工場に本社と研究機能を除いて移転する。同社は「近くにマンションや福祉施設があるので建て増しはできない」(脇幹夫社長)と判断した。
 機械メーカーの坂本造機(大阪市)も手狭になった生野区内の本社工場の移転を検討しているが、「大阪市内では無理」(坂本進社長)という。同法の廃止を要望し続けてきた大阪市などからも「廃止が遅すぎた」との声が目立つ。
 ただ、今後の工場立地に期待する自治体もある。2003年度から民間所有の工場跡地の紹介を始めた尼崎市は、「これまでは大型店やマンションになるケースが多かったが、今後は住環境に配慮した工場になるケースも出る」(同市産業立地課)とみている。

▼大学は新増設の動き──京都外大、一部を建て替え

 京都外大は工場等制限法廃止を受け、老朽化した校舎の建て替えを始めた。4階建ての1号館を新たに7階建て(延べ床面積6426平方メートル)にし、4月末に完成する予定。以前から建て替え構想はあったが、同法が障害となっていたという。同法廃止後の大学の校舎建て替えは近畿で初めてのケースとなる見込みだ。
 今後、2号館と4号館の建て替えも検討する。容積率を現行の200%から300%に拡大、高さ制限も20メートルから31メートルに緩和してもらうように京都市に要望する。
 今春からイタリア語学科を創設、学生数が増加するため、校舎増設を急いでいた同大学は「限られた敷地を有効活用して都市型大学を目指す」としている。

いわせてんか! 工場等制限法は、同法創設当時の人口増加の主たる要因であった工場労働者や大学就学者の転入に対して一定規模以上の工場及び大学等の新設・増設を制限することにより、大都市中心部への産業及び人口の過度の集中を防止することを目的としていたという社会経済上の背景があった。
 工場等制限法の廃止は、都市再生特別措置法の成立や都市再開発法の改正など「都市再生」に関わる立法措置の一つと捉えることができるが、同法創設時に比べ、製造業からサービス業へのシフト、製造業における海外生産比率の高まりによる産業構造の変化、少子化の進行などの社会経済情勢が著しく変化している中での廃止であり、以前から行政や経済団体などから廃止を要望する声はあったが、その性格は、「廃止≒規制緩和」というよりは法を存続させる理由が薄くなった、制限する必要がなくなったというのが理由の大部分で、都市再生特別措置法などとは位置づけは異なるものと思われる。

 工場等制限法は、今回の廃止に至る前に、平成11年に一部制度が緩和された。国土審議会の報告によると、それにより平成13年3月末までに、知事等の許可なく新増設できた工場31件に対するアンケートでは、「不明」と回答した企業8件を除く23件についてみると、約3分の2の工場は、制限制度の緩和に拘わらず許可申請を行い、計画どおり制限区域内に新増設する意向であったという。一方、残りの約3分の1の工場は、制限制度の緩和の結果、新たな投資及び投資規模の拡大が可能となったという結果が出ており、同法緩和の影響も見られている。この内容からすると同法の廃止にも一定の意義はあるとは思われる。
 しかし、府内では、工場跡地を住宅系の用途地域に変更するケースが見られる(ただし、東大阪市が工場跡地を中心に工業および工業専用地域を増やすなどの用途地域の見直しを検討していることは注目されるが 平成15年11月19日 第185号 東大阪市、工場の街維持へ宅地開発抑える−用途地域を見直し 参照)など、旧規制区域内で工場の立地が促進されるような傾向は見出しにくく、工場等制限法の廃止による工場の立地促進についての直接の影響は当面は限られたものとなりそうだ。





「不動産の売却に係る会計処理に関する論点の整理」公表
  (日経 H16.2.13)  
   企業会計基準委員会は13日、不動産売却の会計処理について論点を公表した。
 不動産取引は企業の収益に与える影響が大きいため、会計基準委が公表した論点を元に産業界や学者などから意見をつのり、具体的な会計基準作りを目指す。
 不動産を売却する条件について考え方をまとめた。不動産の売却後も不動産を賃借するセール・アンド・リースバック取引や証券化の場合、売り手が継続的に関与しているとみなされ、売却益を計上できなくなる可能性がある。
 会計基準委は5月13日まで内外から意見を集めたうえで公開草案を作る。産業界から反対意見が出る可能性もあり「会計基準を設定する具体的な時期は未定」と慎重な姿勢を示した。

いわせてんか! 平成16年1月21日第193号「企業会計基準委員会、不動産売却で新基準づくり――「リースバック」の扱い焦点」でお伝えした「不動産の売却に係る会計処理に関する論点の整理」が2月13日に企業会計基準委員会より公表された。
 基本的な考え方は、売り手が事業投資のリスクから解放されたかどうかで売却と認めるか否かを判断するというもので、論点として、

 (1)事業投資のリスクからの解放の認識時点
 (2)売買単位
 (3)代金の回収可能性
 (4)売却後の継続的関与
 (5)買手との関係

の5点を挙げ、パブリックコメントを募集するとともに、この他にも重要な事項があれば意見を募りたいとしている。
 記事では、「産業界から反対意見が出る可能性もあり」と述べているが、例えば、過去にオフバランスした不動産の扱いなどの具体的な事項については、論点整理ではまだ記述されていない。過去の取引まで否定してB/S、P/Lを修正することは現実的でないが、かといって、適用指針等が作成され施行されるまでに駆け込みでオフバランスしてしまえ、といったモラルハザードが起きても問題である。特に減損会計の適用対象となるような不動産を有する企業にとっては大きな関心事となろう。
 論点整理では、実現主義・取得原価主義の原則に基づいているため、不動産の評価については触れられていない。しかし今後時価会計の進展にともなって、例えば、オフバランスできなかった(所有権は移転したが会計上は売却と認められず、バランスシートに残っている)不動産の評価の依頼を受けることも考えられる。しかもそれが減損会計の適用対象ということもあり得る。
 このような会計制度の変化に対して、鑑定士個人としてだけでなく、鑑定業界全体としても対応していく必要がある。

詳細は、以下を参照。

   企業会計基準委員会ホームページ
   「不動産の売却に係る会計処理に関する論点の整理」の公表





大型店、近畿2府4県 届け出最高92件
  (日経 H16.2.18)  
   近畿で大型店の出店ラッシュが続いている。イオングループやヤマダ電機など流通大手の出店攻勢により、昨年の2府4県の新規出店届け出数は過去最高の92件となった。一方で、ホームセンターなど近畿に本社を持つ企業同士の共同出店も急増しており、今後、大型SC(ショッピングセンター)と地元の複合専門店による集客競争が激化しそうだ。
 大規模小売店舗立地法(大店立地法)に基づく届け出は府県(大阪、京都、神戸の三政令指定都市は各市)に提出する。経済産業省によると、2003年の近畿の大型店(売り場面積1,000m2超)新設届け出数は92件で、前年(91件)に続く高水準となった。
 神戸市では前年比2倍以上の18件。阪神大震災の再開発事業に関連し再開発ビル内への新設届け出ラッシュが起きている。和歌山県も3件増の10件となる一方、奈良県と滋賀県は減少した。大阪府は前年と同じ20件、兵庫県もほぼ横ばいの20件と高水準のまま。兵庫県ではマンションの建設ラッシュが進む西宮市や尼崎市など阪神間地域での届け出が目立った。出店地域の内容をみると、工場跡地など敷地面積10,000m2以上の大型物件を利用した大手流通業の進出が加速している。イオングループは「ダイヤモンドシティ堺北花田ショッピングセンター」(仮称、大阪府堺市)など8件を届け出た。
 家電量販店では引き続き関東勢の進出が目立つ。ヤマダ電機は「テックランド京都吉祥院店」(京都市)など6件の出店を予定、関西圏の店舗網を拡大する。コジマも「NEW寝屋川店」(仮称、大阪府寝屋川市)を届け出た。
 これら関東勢の攻勢に対し、地元量販店は昨年にマツヤデンキと和光電気が民事再生法の適用申請に追い込まれるなど苦戦が続いている。

いわせてんか! 中小小売業の保護を目的とした大規模小売店舗法の廃止により法規制が緩和されたことに加えリストラで企業が次々と保有地を放出したことが、昨今の大型店出店進出攻勢に拍車をかけた。特に、阪神間は激戦区となっており、一昨年あたりから外資系も交えて大型商業施設の出店が続いた。今後も「阪神パーク」、「宝塚ファミリーランド」、「西宮スタジアム」の閉鎖跡地にショッピングセンターの新設が計画されている。
 地元のスーパー・ドラッグストア・ホームセンター等々が共同出店しているのをよく見かけるが、集客の相乗効果をねらったものであるという。個人消費が依然低迷を続ける中、競争は一層激化しており、既存店は大型店との差別化が必須となる。





公認会計士と不動産鑑定士 合同で協議会設置
  (毎日新聞 H16.2.13)  
   日本公認会計士協会近畿会と日本不動産鑑定協会近畿連絡協議会は12日、06年3月期以降から企業決算に強制適用される減損会計の事例集を盛り込んだ実務ガイドラインを作成するための協議会を設置すると発表した。不動産評価と会計監査の専門家集団が合同で協議会を設置するのは初めて。
 国内にはバブル期に購入した土地の価格が下落したのに、帳簿上の価格を是正せずに含み損を抱えたままにしている企業も多く、「会計基準の国際化」の動きから、企業の財務内容を正確に反映する減損会計の導入が決まった。06年3月期以降に強制適用となるが、早期適用が認められる04年3月期から、事業用資産に多額の含み損を抱える企業を中心に導入が本格化するとみられている。
 昨年10月末に民間組織の財務会計基準機構の企業会計基準委員会が減損会計適用指針を公表している。両会はこの指針が「実務上の疑問に答えきれていない」とみて、より具体的な「Q&A形式の実務指針を公表したい」としている。
 3月19日には企業の財務担当者などを対象に「減損会計セミナー」を日本公認会計士協会近畿会(大阪市)で開催する。

いわせてんか! 近畿発信の専門家協力が実現した。
 本HPでも提言していたように、今回の減損会計制度導入は、企業の事業用資産たる固定資産の評価という点で会計士と鑑定士の英知を集めることが欠かせない。早期適用に切羽詰った時期とはいえ、東京でも発信がなされていない現状を見ると、意義は大きいといえる。

 分野は違うが、改正会社更生法の「時価」に言及した冊子『新しい会社更生手続きの「時価」マニュアル』(事業再生研究機構 財産評定委員会編、商事法務2003.6)のなかで、東京大学法学部の伊藤眞教授いわく(pii〜iii)、

「評価についての従来からの見解の対立は、ともすれば論者が立脚する立場の違いがそのまま持ち込まれ、建設的相互批判が不十分であったところにその一因があった」 「法及び規則の立案担当者が制度の趣旨を明らかにし、それを前提として、実務法律家、 公認会計士、不動産鑑定士及び税理士という評価作業に関わる専門家がそれぞれの知見を踏まえて、資産の種類などに応じた評価の基準を研究し、さらに金融機関や商社の法務担当者が担保権者などの立場を踏まえた分析を行い、加えて研究者がそれらの研究や分析に対して理論的検証を行」

なうことが重要であると指摘している。減損に置き換えれば、この制度会計の趣旨を明らかにしたうえで、評価に関わる専門家がこれに沿った評価基準を研究し、適用する企業の立場を踏まえた分析の上に、学者の理論的フォローを加えるということである。

 実務適用の先には、株主・債権者等利害関係者の厳しい目が待っている。公認会計士法及び不動産の鑑定評価に関する法律には以下の同様な規定が存する。

公認会計士法
(昭和二十三年七月六日法律第百三号)

(信用失墜行為の禁止)
第二十六条  公認会計士又は会計士補は、公認会計士若しくは会計士補の信用を傷つけ、又は公認会計士及び会計士補全体の不名誉となるような行為をしてはならない。

(虚偽又は不当の証明についての懲戒)
第三十条  公認会計士が、故意に、虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類を虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして証明した場合には、内閣総理大臣は、一年以内の業務の停止又は登録の抹消の処分をすることができる。
2  公認会計士が、相当の注意を怠り、重大な虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類を重大な虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして証明した場合には、内閣総理大臣は、戒告又は一年以内の業務の停止の処分をすることができる。
3  監査法人が虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類を虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして証明した場合において、当該証明に係る業務を執行した社員である公認会計士に故意又は相当の注意を怠つた事実があるときは、当該公認会計士について前二項の規定を準用する。

不動産の鑑定評価に関する法律
(昭和三十八年七月十六日法律第百五十二号)

(不動産鑑定士等の責務)
第三十七条  不動産鑑定業者の業務に従事する不動産鑑定士及び不動産鑑定士補は、良心に従い、誠実に不動産の鑑定評価を行なうとともに、不動産鑑定士及び不動産鑑定士補の信用を傷つけるような行為をしてはならない。

(不当な鑑定評価等についての懲戒処分)
第四十条  国土交通大臣は、不動産鑑定士又は不動産鑑定士補が、不動産鑑定業者の業務に関し、故意に、不当な不動産の鑑定評価を行なつたときは、懲戒処分として、一年以内の期間を定めて、不動産鑑定業者の業務に関し不動産の鑑定評価を行なうことを禁止し、又はその不動産鑑定士若しくは不動産鑑定士補の登録を消除することができる。不動産鑑定士又は不動産鑑定士補が、第三十三条又は第三十八条の規定に違反したときも、同様とする。
2  国土交通大臣は、不動産鑑定士又は不動産鑑定士補が、不動産鑑定業者の業務に関し、相当の注意を怠り、不当な不動産の鑑定評価を行なつたときは、懲戒処分として、一年以内の期間を定めて、不動産鑑定業者の業務に関し不動産の鑑定評価を行なうことを禁止することができる。
3  国土交通大臣は、不動産鑑定士又は不動産鑑定士補が、前二項の規定による禁止の処分に違反したときは、その不動産鑑定士又は不動産鑑定士補の登録を消除することができる。

今回、公正・中立の立場を前面に出した専門家としての役割を果たすことが求められており、その社会的責務は重い。









 

 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

           
 
  ―平成16年2月18日号・完―  
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