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平成１６年５月１９日　第２１０号

今週のヘッドライン

近畿の港湾、物流拠点の新増設相次ぐ
──家具小売りや内外物流企業、中国貿易の需要増
二世帯近居、徒歩30分以内が目安。親と子、共に自立志向。
『不動産の鑑定評価に関する基本的考察』の「正常価格」
　　　　　　　-不動産鑑定評価基準・創成期の書物に触れて…

近畿の港湾、物流拠点の新増設相次ぐ
　　　　　　　──家具小売りや内外物流企業、中国貿易の需要増

（日経ネット関西版　H16.4.28）

　神戸港、大阪港など近畿の港湾周辺で、物流拠点の新増設が相次いでいる。今秋、家具チェーンのニトリが神戸港、米国系物流企業のプロロジス（東京・港）が大阪港でそれぞれ大型拠点を開設。大阪府が運営する堺泉北港と阪南港では繊維雑貨輸入の大豊運輸倉庫（岸和田市）などが倉庫を新増設する。中国関連の輸出入が大幅に伸び、既存倉庫では対応できないと判断した。
　神戸港では今年9月にニトリが、大型の物流センターを稼働させる。延べ床面積は約10万平方メートルで同港では最大級となる。主にアジアからの家具やインテリア製品を輸入し、2005年度に約1万7000ＴＥＵ（1ＴＥＵは20フィートコンテナ換算の貨物量）のコンテナを輸入する計画だ。
　神戸港では中古建設機械を取り扱う事業者の進出も増えており、やながわ商事（神戸市）が1.5ヘクタールの敷地を神戸市から賃借し、中古建機の倉庫を開設した。
　大阪港南港（住之江区）近くにプロロジスが建設中の物流施設は7階建てで、延べ床面積は約15万7000平方メートル。日産自動車が所有していた4万6000平方メートルの土地を取得し、事業費は180億円（土地代を含む）。メーカーや物流業者が入居する計画だが、同社では「中国を中心とした輸入貨物の需要が高まる」と大型投資に踏み切った。
　リコーの物流子会社、リコーロジスティクス（東京・品川区）は今年2月、大阪港近くの港区福崎に4階建て（延べ床面積2万6000平方メートル）の新たな物流拠点を着工した。三菱倉庫は昨年11月、此花区内にある医薬品、輸入洋酒などの配送センターを増設した。
　大阪府が管理する堺泉北港助松ふ頭（泉大津市）、阪南港新貝塚ふ頭（貝塚市）でも物流拠点の新増設が相次ぐ。助松ふ頭では三興倉庫（大阪市）が8月に鉄鋼製品などを扱う倉庫（延べ床面積約7000平方メートル）を開設。阪南港では11月に大豊運輸倉庫が雑貨輸入倉庫（延べ床面積2000平方メートル程度）を開設、来年秋には増設を予定している。

いわせてんか！

　記事で取り上げられている港湾のうち、「大阪港」と「神戸港」は、両港の連携の取り組みとして、2004年度から両港に寄港する船舶の入港料の重複徴収をやめ、併せて港湾物流情報を一元化し、長期的な港湾コストの削減へ向けた動きを見せている。これは、国内の他の主要港に対する競争力を高めるためであるとともに、港湾コストの削減を国土交通省がスーパー中枢港湾の目標として掲げていた目標であることから、これを意識したものとも考えられる。
　先日、国土交通省のスーパー中枢港湾選定委員会は、両港連携の「阪神港」を含む3港湾をスーパー中枢港湾指定港に推薦する報告書をまとめ、これを受け、7月中にも阪神港は指定港に選定される見込みとなった。
　近年の大阪港は、輸入コンテナ貨物を中心に取扱量は急増しており、ここ5年間のコンテナ貨物量の伸び率は国内の5大港では1位となるなど国内的には最も勢いのある港湾となっている。また、神戸港については03年のコンテナ貨物取扱量が2年ぶりに増えている。また、記事で紹介されているように、物流施設の新増設が相次いでいる。
　これらは、近年の中国を中心とする輸出入の動きに対応した傾向と考えられるが、両港の近畿地区、全国での位置づけは、上記のような両港連携による取組みや、スーパー中枢港湾の指定など、によっても大きくなっていくようだ。

二世帯近居、徒歩30分以内が目安。親と子、共に自立志向。

（日経　H16.5.17）

　二世帯近居――。親の世帯と子の世帯が「つかず離れず」の距離で暮らす。住宅メーカーの間で、二世帯同居に代わる新たな商品コンセプトになりつつある。気楽さを求める子世帯に加え、自立した生き方を志向する親世帯が増えてきたことが背景にある。二世帯近居に明確な定義はないが、住宅評論家の加藤憲一郎氏によると「徒歩30分以内の距離が目安」という。いざというとき、すぐに駆けつけることのできる距離だ。「同居による気詰まりはなく、近くに住んでいるから、子育ての相談など頼ることもできる」点が魅力だ。
　見逃せないのが、親世帯の側にも同居を敬遠する意識が強まっていること。東京女学館大学の天野正子教授は「子世帯に自分の生活リズムを崩されるのを好まない傾向が強い団塊世代が高齢化していることが大きい」と指摘する。
　住宅メーカーの販売戦略も変わってきた。購入者に親や子の沿線沿いの物件提案を強化するのは野村不動産。「自社マンション販売の3割近くは親や子の居住地との距離を意識して決められる」とみるからだ。
　二世帯近居希望者を対象にした都市基盤整備公団の「近居優遇制度」も人気だ。昨年度は入居者の12％を占めた。国土交通省が65歳以上に昨年12月実施したアンケートでも、子世帯と近居している（「徒歩10分以内」と「同一区市町村」の合計）割合は26.9％と、「同居」の8.6％を大きく上回った。
　二世帯近居に拍車をかけているのが、最近の住宅価格の急落だ。長谷工総合研究所は「地価やマンション価格が高騰したバブル期には、本当は別居したいのに費用を抑えるため同居を選んだ層が多くいた」とみる。手の届く価格になった戸建て住宅に「二世帯住宅から移ってくる30代も目立つ」（三井ホーム）という。国交省の全世帯調査では、98年に近居志向が同居志向を追い抜いた。
　一方、バブル期から90年代前半にかけて広がった二世帯住宅に売り上げは急失速している。昨年、大手の旭化成ホームズの戸建て売り上げのうち二世帯住宅は2割強どまり。5年前は約3割だった。「90年には千葉県内の自社戸建てのうち4割が二世帯住宅だった」（大手住宅メーカー）勢いは影を潜めた。
　厚生労働省の高齢者世帯調査によると、80年に過半を占めた子世帯との同居割合は2002年にほぼ半減。住宅大手で構成する住宅生産団体連合会の調べでも、新規戸建て住宅に占める二世帯同居比率は2002年度に18.4％と2年で2.3ポイント落ちた。

いわせてんか！

　子世帯、特に共働きの場合は子供の面倒を親に頼ることができ、また親が高齢になってくると何かと心配だということで二世帯住宅は支持されているが、一緒に住むとなるといろいろと気を使うし、いわゆる嫁姑問題などもあって「同居」ではなく「近居」というスタイルが増加しているようだ。実際、あまり意識せずに「近居」になっているケースも多いだろう。これまでは経済的な理由で二世帯住宅に住んでいた人も、地価・住宅価格の下落もあって「二世帯近居」という選択が可能となった。核家族化というとマイナスのイメージがあるが、親世帯と子世帯がお互いに依存・干渉しすぎず、離れすぎずという「程よい距離」のいい関係として「二世帯近居」が増えているのである。
　二世帯住宅が二世帯近居になると、簡単に言うと1戸が2戸になるということなので、今後人口の大幅な増加は見込めない中、住宅メーカーやマンション業者が生き残りをかけた販売戦略として力を入れている。最近、住宅・マンションの販売が好調なようで、地価も下げ止まり（一部では上昇も）の傾向がみられるが、こうしたことも背景にあると思われる。

『不動産の鑑定評価に関する基本的考察』の「正常価格」
　　　　　　　-不動産鑑定評価基準・創成期の書物に触れて…

（表題書・櫛田光男、住宅新報社、1966.3）

　「正常価格とは、不動産が一般の自由市場に相当の期間存在しており、売手と買手とが十分に市場の事情に通じ、しかも特別な動機をもたない場合において成立するとみられる適正な価格をい（う）」（第２、一、（一））（p339）

　『「一般の」

… 公開のもので、通常の人であるならば誰でも市場人として参加できる

　　「自由市場」

… その中で市場人が合理的に行動する、つまり･･極大の原則（最少の費用（犠牲）をもって、最大の効果（満足）をあげる、p34）に従って行動することについて、外部から何らの制限をうけることがない

　　「相当の期間存在しており」

… 物件の現状とか、用途などについて、つまり現在何に用いられており、今後何に用いられるか、最有効使用の現状と将来などについて十分にこれを確認検討する時間的余裕がたっぷりとある

　　「売手と買手」

… 集合名詞として理解する

　　「十分に市場の事情に通じ」

… 市場の動向、その背後にある需給の関係、一般的要因の変化や推移移動などについて、十分に事情を弁まえて（いる）ことで、市場についての十分な知識と情報をもっているということ

　　「特別の動機をもたない」

… たとえば、売り急ぎ、買い急ぎなど、売手、買手の合理的な活動を制約し、売りまたは買いを強制する特別の内部的な事情が売手及び買手のいずれにも存しない。つまり自由であるという意味』（p41）

『…正常価格というものは、売手、買手の双方が、いずれも得はしませんけれども、同時にいずれも損をしないような価格として、したがって、誰にでも通用し、誰もが納得する価格として市場という仕組みをとおして、社会一般が認めるものであるということが出来ましょう。』（p42）

いわせてんか！　櫛田氏は、宅地制度審議会のメンバーとして元祖・不動産鑑定評価基準の取りまとめをされた方であり、その「前文」と「基本的考察」を書き下ろされた起草者である。この本を書かれた理由は、『まえがき』で『（編集の）最後の段階において、…草案に大斧鉞を加えたのでありますが、あるいは加えすぎたかもしれません。その結果、論旨の展開に断落らしいものを生じて、判り難い個所が出来た…それで、この基本的考察はどのような発想に基づいてそれが展開されたものであるか、そしてその行文の行間をどのように填めたらよいのであるか、ということについての私の考え方を、この際ご披露することが必要なのではないか、これがいわば罪滅しとも申すべきものであって、私の責務なのではないかと思い直したのであります。』（p.zC）と述べられ、説明を試みておられる。

　　ちなみに、現在の正常価格の定義は以下の如くである。

　『正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう』（第３節、Ⅰ、１）

　　市場の条件がこの後続くが、正直よくわからない。
　今の文言は、数次の変遷の後のものであり、最近では平成14年に改定された。『現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす』という文言が付加されたのだが、その意味について「要説不動産鑑定評価基準」では、『…社会経済情勢を与件として扱い、（そ）の一部を捨象したり理想的な条件に置換したりしないことを要請しているのである。すなわち、不動産鑑定評価で求めるべき正常価格は、現実の社会経済情勢を所与とした上での市場及び市場参加者の合理性を前提とした市場で成立する価格であり、「あるべき価格」ではなく「ある価格」であるといえる。』（p94）と述べられている。
　それと比べると、元祖の文言は明快である。これは国際評価基準（IVS）や国際会計基準（IAS）のそれと類似している。元々、日本の基準自体がアメリカの鑑定基準を参考にしており、概念的な部分で共通のものがあっておかしくない。
　櫛田氏の説明の中で、一番得心が行くのは、「誰にでも通用し、誰もが納得する価格として市場という仕組みをとおして、社会一般が認めるものである」という段である。「あるべき価格」だろうと「ある価格」だろうと、関係者や社会一般が納得したり認めたりできないものは、適正な価格とはいえないだろう。
　また、文言は非常に大切だとおもう。日本語で記載する限り、その使用された日本語の意味は、一般的であれ、特殊であれ、その文書全体の意味を拘束する。そうすると、曖昧で多義的な意味を多く含む語を使用する場合は、細心の注意が必要であり、極力避けるべきである。定義ならなおさらだ。現基準の『市場性』『現実』『社会経済情勢』『合理的』『市場価値』という文言は、多義的で、悪く言えば“どうとでもとれる”。
　現実的には、法律や会計制度において、利害が対立する関係者の不動産の価値・価格を評価する際、「不動産鑑定評価基準」や「正常価格」が借用される場合がある。その場面で、なるべく紛争を解決し、当事者双方が「納得する価格」を鑑定士が評価することが期待されている。しかし、上記のような曖昧さが、逆に混乱を招いていることも見聞きする。早急に整理されなければならない問題である。

　私事だが、この基準が出され、不動産鑑定評価制度が公のものとなった昭和40年に私は生まれた。いま、鑑定士として、その起草時の中心的存在たる方の「当初の意思」を読んで、その不思議さと意気込みを感じている。不動産を含め、混乱する資産の価値を整理するため、もう一度この原点を見つめなおす必要があると感じた。

※「いわせてんか」は、（株）アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

―平成１６年５月１９日号・完―

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