週刊アクセス
 
 
平成16年10月20日 第232号
 
     
  今週のヘッドライン  
 
大阪府 工業用水 大幅値下げ
 ―― 来年度 企業負担 最大8億円軽減
合併協議会解散(守口市−門真市)
 〜市町村合併と不動産鑑定士業界〜
あらゆる財産権の“公正価値(Fair Value)”を研究するNPO
  〜テレビでお馴染みの丸山弁護士を迎えて設立記念セミナー
 
     
大阪府 工業用水 大幅値下げ
    ―― 来年度 企業負担 最大8億円軽減
  (読売新聞 H16.10.14)  
   大阪府は14日、府営工業用水道を来年度、実質的に大幅に値下げし、企業の負担を最大で総額約8 億円軽減することを決めた。料金算出のもとになる契約水量を使い切らない企業側に割高感があり、府は今回の措置で、企業の府外流出に歯止めをかけたい考えだ。
 同水道は1962年度から供給を開始。一般家庭などへの上水道のほぼ半額の1トン46 円で、473社と日量30トン〜5万1500トンで契約している。
 企業側の節水対策が進んだことなどから、契約総水量57万トンに対し、実際に使われているのは66%の38万トン足らず。契約水量の半分以下しか使わない企業が52 %にのぼり、企業側から契約水量の見直しを求める声が高まっていた。
 契約水量に応じて設備投資を行ってきた府は「原則、見直しはしない」との立場だが、府南部のタオル製造会社が相汰いで海外へ移転、その理由の一つとして「高い工業用水道」を挙げるなどしたため、これまでにも段階的に一部見直しに応じ、実質的な値下げを進めている。
 工業用水道は他の自治体でも企業ごとの契約水量で料金を算出し、兵庫県の一部では1トン4円30銭、最も高い福岡市は同60円。大阪府では契約企業がピーク時より約100社減少したが、昨年度の工業用水道事業会計は9 億8333万円の黒字を計上している。

いわせてんか! 生活用水は、給水原価を、使用水量に関係なく発生する固定的経費と実使用量によって変わる変動的経費に区分し、前者を基本料金として使用量にかかわらず全契約に課し、後者を使用料金として使用量に応じて徴収する二部料金制を採用している。これに対し、工業用水は、受水者の実使用水量にかかわらず契約給水量に応じて料金を徴収する責任水量制を採用している自治体が多い。
 ただ、現状は、実使用量が契約水量に満たないことから、責任水量制は全国的に問題になっており、事業者の移転・撤退の理由の一つとなっていると考えられている。
 大阪府では、今回は値下げでの対応をすることになるが、これまで契約水量の減量にも段階的に応じてきた。大阪府のほかには、愛知県企業庁や三重県企業庁でも契約水量の減量に応じている。
 責任水量制を採用してきた経緯としては、当初の事業者の需要予測等に基づく運営のための事業費を確保するため、長期にわたって安定した収入を得るためである。にもかかわらず、契約水量の減量等に応じている。事業者の移転に歯止めをかけたいという意向が相当に強いようだ。
 実際には、工業用水は事業者ごとの契約に基づくものであり、また、工業用水料金は各自治体でそれぞれに設定しており、その料金設定にはかなりのバラツキがある。そのため、各事業者の考えは契約内容により個別的なものとなり、契約水量の減量というような措置は全般的な影響とはならないであろう。
 ただ、工業用水を多量に消費する業種に対しては広範に影響が及ぶものと思われる。大阪府では、鉄鋼業、化学工業、石油・石炭製品製造業の上位3業種で、全業種の使用量の約70%のシェアを占めおり、全国では化学工業、鉄鋼業にパルプ・紙・紙加工品製造業を加えて「工業用水多消費3業種」と呼ばれている。これらの業種が集積する工業団地などにおいては、工業用水料金への対応の程度により、撤退・移転を回避できる地域となるかどうかという点で影響が見られることが考えられる。

 
 
合併協議会解散(守口市−門真市)
   〜市町村合併と不動産鑑定士業界〜
  (毎日新聞 2004年10月19日 大阪夕刊)  
   大阪府守口市と門真市の合併協議会が19日開かれ、住民投票で合併反対が多数を占めた守口市の喜多洋三市長が「住民投票の結果を尊重する規定もあり、私としてはこれ以上、合併を進めていくことは難しい」と合併を断念する意向を表明した。これを受け、同協議会は次回で解散する方針。
 両市は合併の是非について、9月19日に住民投票を実施。守口市では、反対が5万1878票で賛成の7565票を大きく上回り、両市の合併は困難な状況になっていた。門真市では成立要件の投票率50%を超えなかったため、開票されなかった。

いわせてんか! 「地域のことは地域で決めていく」という地方分権時代の中、市町村には自らの判断と責任で行政を進めていくために、今まで以上に体制の強化や効率化を図ることが求められている。
 また価値観の多様化、住民の生活サービス需要の細分化・拡大化により、市町村に求められる行政ニーズも、多様化・高度化を増してきている。
 近年、少子・高齢化の進展に伴い、財政規模が縮小する一方で、医療や保健・福祉ニーズが増加し、サービスを円滑に提供できるよう人材の確保や専門性の向上が求められるほか、労働力人口の減少による地域活力の低下、税収の減少なども懸念されている。 そのため行財政の効率化や広域観点からのまちづくりによる有効施策の展開等、さまざまなメリットがあるとして、これまで市町村合併および広域行政が各自治体において進められてきている。

 この市町村合併は不動産鑑定業界にも多大な影響を与えると考える。
合併による人口移動・集中。新市庁移転等による市街地の移動・拡大縮小。公共施設・交通施設といった都市施設の利便性の変化等が、価格を形成する要因に少なからず影響を及ぼす。
 これらは、不動産鑑定評価において『価格形成要因』と呼ばれ、一般的要因、地域要因、個別的要因と大別されるが、この合併によりすべての要因が影響を受ける可能性もある。
 今後、限定的ではあるが増えていくであろう市町村合併により、不動産鑑定士の活躍するフィールドがさらに拡大し、例えば「市町村合併等が及ぼす地価への影響」といったテーマ等で各市町村向けに考察論文やコメントを出すなど幅広く活躍できるものと期待したい。

 
 
あらゆる財産権の“公正価値(Fair Value)”を研究するNPO
  〜テレビでお馴染みの丸山弁護士を迎えて設立記念セミナー
  (2004.11.2(火)大阪市中央区『ヴィアーレ大阪』にて)  
 
いわせてんか! 弊社が協力する『NPO法人 公正価値研究機構』が設立を記念して『企業戦略と価値評価〜知的財産と不動産』と題してセミナーを開催する。
 同機構は不動産鑑定士が掛け声をかけ、公認会計士、行政書士、税理士、弁護士などの専門職業家があつまり、主に企業価値に代表されるような、様々な財産権・資産の公正価値を求めるべく、各資産に共通の価値評価モデルや評価技術の研究・開発をしていこうというNPO(特定非営利活動)法人である。
 最近では、本HPでも取り上げているように、『青色発光ダイオード』の職務発明対価訴訟や、国際間の特許ライセンス訴訟での巨額な実施料など知的財産に関わる評価が紙面を賑わし、不動産に関しては、H16.3の減損会計早期適用会社の、本社や遊休施設などの“時価”への減損処理といった評価問題が取りざたされている。いずれにしても、従来と比べて額が大きく、社会的な影響が少なくない。これらの評価(判決対価や減損損失計上額)は、その財産権の利害関係者に直接ひびいてくるものである。
 しかし、日本の資産評価の現状は未だ定まったものがない。売買、担保、資金調達、ディスクロージャー、ライセンス契約…様々な経済活動の場面で、新興のまたは評価がしずらい個別性の強い資産の価値が問題となっている。ここを何とかできないものか…と、不動産の適正な価値評価を生業とする不動産鑑定士があつまって、この法人の種ができた。
 しかし、様々な財産権があり、不動産鑑定士はまさしく不動産という資産に特化しているため、その他の財産に不案内だ。また、不動産自体も、REITに象徴されるように金融資産としての性格を強く持つものが登場し、さらに、減損会計のグルーピングに代表されるように、企業価値の中に組みこまれた不動産は、その他資産との連携のなかでグループとしてのキャッシュフローから、その価値が出てくる。そのため、各財産権に精通している専門職業家の協力が欠かせない。
 そして、これらの財産権を内部に多く抱える企業としては、適正なディスクローズや国際会計へのコンバージェンスが強く意識される中、より適切な保有資産評価を模索し始めており、“実”の伴った実証研究には、これら企業内実務専門家の協力が必要となる。
 これらの連携がうまく機能すれば、様々な経済活動に従事する人々の“ためになる”一定の基準ができはしまいか? 裁判の中においても、まだまだ倣うべき評価基準は出ていない日本の現状で、大変な困難が伴うことはわかっている。しかし、中長期的なスパンでは経済発展のために必要だろうし、短期的には、忙しく変わる法・経済制度へ適切にキャッチアップする布石となるだろう。
 夢のある企画だと思う。その一歩として、今回のセミナーでは、テレビでは『行列のできる・・・』でお馴染みの丸山和也弁護士にお越しいただいた。あのキャラクターで有名だが、実務では国際法務を専門とされ、弁理士としても特許の交渉をされている。
 また、辻本一義弁理士は関西では良く知られた方であり、あの“ヨシモト”へ出演されたこともある異色の弁理士である。現在、職務発明に関する訴訟を担当されており、また、山口大学の知財学部創設において、その教科書執筆に多大な貢献をされている論客である。お話の面白さだけではなく、知財訴訟の最先端のお話しを聞けることは有益であろう。

 この法人の立ち上げに協力する中、様々な方のご意見・叱咤激励を聞き、鑑定士が果たせる役割の広さと大きさを感じている。困難なテーマではあるが、各々の実務エキスパートが協力・連携して、有効な成果を出していくことを期待している。
 興味をもたれた方は、ぜひ参加されていただきたい。

 
 
 
 
 
 
 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

  ―平成16年10月20日号・完―  
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