週刊アクセス
 
 
平成17年1月12日 第244号
 
     
  今週のヘッドライン  
 
大阪府の法人2税、3年ぶり4000億円台へ
──今年度収入、製造業の回復効く
国交省2005年度予算案
――土地価格情報収集、任意制度でスタート
借地借家法改正案、次期通常国会に提出
−上限を20年から50年へ延長
青色LED訴訟 6億円であいまい決着
―利益の算定不透明、発明者貢献度『上限5%』浮上
 
     
大阪府の法人2税、3年ぶり4000億円台へ
          ──今年度収入、製造業の回復効く
  (日経ネット関西版 H16.12.29)  
   大阪府は28日、2004年度11月末時点の府税額について、主力の法人2税で前年同期比15%増の3774億円になったことを明らかにした。11月末時点の税額は年度全体の9割程度を占め、2004年度全体では4200億円程度と3年ぶりの4000億円台に回復する見通し。
 府の法人2税は01年度の4120億円から02年度の3554億円、03年度の3802億円と低迷。04年度は銀行税収入の約100億円を差し引いても、12%伸びており、「機械金属をはじめ製造業の税収回復が効いた」としている。

いわせてんか! 法人税収は、景気動向指数の遅行指数の判定に活用されているように、景気の波から若干送れて反応する。法人税収が回復したということは、近年の景気回復傾向の結果が現れているといえる。
 一昨年の半ば頃から続いてきた景気回復の動きであるが、昨年末における月例経済報告等の見解は、回復傾向にあるという位置づけそのものは維持しているものの、下方修正しており、やや、それまでとその傾向を異にしている。また、11日に発表された、平成16年11月分(速報)の景気動向指数では、先行指数で3ヶ月連続、一致指数で4ヶ月連続で50%と報告している。
 これまで見られたほぼ一貫していた景気回復傾向とは、やや異なる趨勢を見せる可能性があり、今後の動向は、微妙な状態にあるようだ。

 
 
国交省2005年度予算案――土地価格情報収集、任意制度でスタート
  (住宅新報 H17.1.4号)  
   国土交通省の2005年度予算案が決まった。国費総額は6兆5656億円で、前年度比3%減となった。住宅・市街地整備では、市町村の提案を生かした個性あふれるまちづくりへの補助金「まちづくり交付金」を前年度比1.45倍に拡充するなど、地方都市再生に力を入れている。
 実際の不動産取引価格情報を収集し、インターネットで公開するため予算として3億3900万円が計上された。一時は法制化も検討されていた制度だが、とりあえず国民の協力を得るかたちの任意制度として始まる。国土交通省では、今年1年かけて価格情報を集め、年度内に1回目を試行的に実施する。
 具体的にはすでに地価公示で実施しているシステムを活用する。法務省の協力を得て取引情報をもらい、不動産鑑定士が買主に対して聞き取り(アンケート)調査する。価格のほか、都市計画上の制限など状況を調査する。
 公開する項目は面積や単価、取引時期、用途区分など。住所は地区単位までにとどめるなど、物件が特定できないように配慮する。現在、プレ調査中で、結果を踏まえて公開項目などの詳細を詰める。
 1回目は首都圏や近畿圏などいくつかの地域に対象を絞って行う予定だ。なお全国の土地取引件数は2003年の1年間で約160万件あり、そのうち首都圏が30%(約45万件)、近畿圏が15%(約23万件)を占める。地価公示と連携するため、情報公開は2006年3月になりそうだ。土地情報センターや土地総合研究所、不動産鑑定協会の協力で実施する。
 同省の調査によると、取引価格情報公開制度導入に対して国民の約6割が賛成と回答している。不動産の売買を現在検討している層では、約75%が賛成と回答するなど、土地に関する詳細な情報が求められている。
 このようなニーズに対応し、市場の透明化や取引の円滑化・活性化を図ることが目的だ。また、2004年3月に閣議決定した「規制改革・民間開放推進3カ年計画」でも、取引価格情報の提供は、早急に実現しなければならない重要な政策課題と指摘されている。

いわせてんか! 「売買を現在検討している層では、約75%が賛成」とのことであるが、他人の売買価格は知りたくても自分の売買価格は人に知られたくないもの。情報「公開」の制度が整備される一方で、今年4月1日に個人情報保護法が施行されるなど、情報「保護」の気運も高まっている。この点、取引価格情報は個人の重要なプライバシーであるため、住所は地区単位までにとどめるなど、物件が特定できないように配慮されるようである。
 ただそうすると、不動産は個々の条件の乖離が大きく、価格形成の要因は様々であるため、かえって誤解や混乱が生じるおそれも出てくる。
 またインターネットで誰にでも無制限に開示することに不安も残る一方、全ての人がインターネットを利用できるとも限らず、公平性の確保が難しい。
 もっとも、不動産取引情報の透明性や公開度を高めることは、不動産市場の活性化・健全化、消費者保護、適正な土地利用の促進等の点で有効で、公益性が高いことは事実である。「公開」と「保護」のバランスが情報公開制度運用上の重要な課題であり、不動産鑑定士としてその適切な運用に資していきたい。

 
 
 
 
借地借家法改正案、次期通常国会に提出−上限を20年から50年へ延長
  (Nikkei Net H17.1.11)  
   政府・与党は一定期間で土地を返還する事業用借地権について、10年以上の契約なら自由に設定できるようにする借地借家法改正案を次期通常国会に提出する方針を固めた。
 現行法では、事業用に限った定期借地権の契約期間は10年以上20年以下。一方、居住用、事業用にかかわらず利用できる一般定期借地権は50年以上の設定が認められている。改正案は事業用定期借地権の契約期間の上限を撤廃し、現行法で空白期間になっている20年超から50年未満の事業用定期借地権も設定できるようにする。経済界には償却期間が30年程度にわたるビルや倉庫などの事業用定期借地権の創設に対するニーズが高い。与党は民主党の協力を得た上で法案を早期成立させ、2006年1月の施行を目指す。政府・与党内では当初、2004年の通常国会への提出も検討したが、法案を付託する法務委員会で裁判員法など重要法案の審議が相次いだことなどから断念した。

いわせてんか! 上記のとおり現行法の事業用定期借地権は、専ら事業用建物の所有を目的とし、契約期間を10年以上20年以下として設定するもので、法定更新・建物再建に伴う存続期間の延長・建物買取請求の規定を適用せず、期間満了時には借地人は建物を収去し、更地にして返還しなければならないというもので、土地を提供する地主と土地の借主双方のメリットを狙って、平成4年8月1日に施行された新借地借家法に盛り込まれた制度である。

 バブル崩壊により、右肩上がりの土地神話も崩れ、地価は大幅減少、資産としての土地の魅力は薄れている。そのため、土地を「所有」することから「利用」する方向へと意識も変化し、定期借地権が注目されるようになった。
 近年、地主自身が所有地の全面的かつ恒久的な利用方法を決定することが当面難しい場合など、土地の暫定的な利用を図る手法として、スーパー・コンビニ・駐車場などに幅広く活用されている。また、事業者にとっても、特に大型商業施設(外資系・アウトレット系)等は、リスク軽減のため初期投資を抑え、短期に資金回収を図れることから、事業用定期借地権の活用ニーズが高まっている。
 ただ、事業者側にとって、上限20年が建物償却期間に満たないため、撤退時期に大きな除却損を計上しなければならず、期間損益の観点から問題視されていた。ここに応えるための改正であろう。

 各地方で商業施設等の集約的な整備や中心市街地活性化方策等が計画されている中、この記事の通り法改正が行われば、事業者の懸念が払拭され、景気回復による資金力の増加・投資の上昇を受けて、ますます事業用定期借地権の需要は高まり、塩漬け不動産(未利用土地)・低利用土地の有効活用、商業施設の拡大のみならず、周辺地域への企業進出の促進等の波及効果が期待される。

 
 
青色LED訴訟 6億円であいまい決着
   ―利益の算定不透明、発明者貢献度『上限5%』浮上
  (日経 H17.1.12)  
   青色発光ダイオード(LED)の発明対価を巡る訴訟は11日、一審判決が決めた発明対価の100分の1に当たる6億円で和解した。対価算定の際の2つの要素のうち「発明者の貢献度」は「上限5%」という目安が見えてきたが、「特許による利益」はまだ算定基準がはっきりせず、裁判になった場合の企業の支払い額はあいまいなまま。

 「知財評価の手段ない」…発明裁判に詳しい渡部俊也東大教授
 『今回の訴訟では原告も被告も監査法人に特許価値の評価を頼んだが両者の数字に差があり、和解額が多いか少ないかの議論は難しい。我々が知的財産を評価する手段を持っていないことがはっきりした。…科学技術や産業構造政策を含む抜本的取り組みが必要だろう。』

(日経、Nikkei Net H17.1.10)
 青色発光ダイオード(LED)の発明対価を巡り、開発者の中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授(50)が、勤務していた日亜化学工業(徳島県阿南市)に対価の支払いを求めた訴訟で、東京高裁(佐藤久夫裁判長)での和解協議が、最大6億円を同社が支払うことで調整が進んでいることが9日、関係者の話で分かった。判決を待たず、和解で決着する可能性が高まっているという。
 同訴訟は、昨年1月の一審・東京地裁判決が中村氏の発明対価を約600億円と認定し、請求した200億円全額の支払いを命じた。東京高裁での控訴審が結審した昨年12月、佐藤裁判長が判決期日を3月28日に指定する一方で、和解を勧告。年末から和解協議が行われており、11日も和解協議が予定されている。
 関係者によると、和解協議では、巨額の支払いは会社の経営を圧迫しかねない点も考慮。中村氏がかかわったすべての青色LEDに関する特許に関し、6億円を支払う案で、和解に向けた調整が進められているという。

(共同通信 H17.1.8)
 …日亜側が5億―15億円を支払うことなどを軸に、東京高裁(佐藤久夫裁判長)で和解協議が進んでいることが、7日分かった。
 佐藤裁判長は昨年末の控訴審結審後「主張に大きな隔たりがあるが、円満解決が望ましい」と職権で和解を勧告。裁判所が示した案に基づく協議が続いている。
 関係者の話を総合すると、巨額の支払いが日亜化学の経営に与える影響などへの配慮から、和解金額は一審東京地裁が支払いを命じた200億円を大幅に下回る額で協議。今後双方が歩み寄れるか詰めの交渉が続く見込み。

いわせてんか! 昨日記事を書いた後、即決で和解した。
 そのままの額だったが、やりとりはかなり詰まっていたようだ。今回は記事紹介にとどめて、来週、和解内容を詳しく吟味してみようと思う。以下は、昨日の内容である。

 平成16年5月12日・第209号『無形固定資産の鑑定評価―あの『青色LED』の鑑定書』平成16年9月1日・第225号『青色LED訴訟―日亜化学工業の“真実”』、そして、減損会計のコーナーでも度々取り上げてきた青色LED訴訟が、和解で決着する動きが出てきたという。
 弊社は、価格がわかりにくい資産について、その“公正価値”を求めようという趣旨に賛同して、NPO法人・公正価値研究機構に参画している。その関連で、弁理士の方々とお話をさせていただく機会を得て、この訴訟の見方もお聞きすることができた。やはり、その対価の計算根拠を明確に示すことは困難であるとのこと。その中のある弁理士さんは、同様な職務発明対価訴訟を現在もたれているとのことで、LEDでの地裁提示額の巨額さ加減と、高裁での相当な減額を指摘されていた。
 ある“種”となる発明があって、それから派生した商品で会社が利益を得る。単純に、その発明と、製品化しえたその他多くの発明(技術)の二つがあってこその結果である。種(技術者の発想・発明)がないとできなかったとも言えるし、これを生み出させてあげた環境(会社が投資する研究施設や研究費など)とその後のその他の製品化技術(製品化関連発明や特許群)がなかったら単なる種でしかなかったとも言える。いずれも真なりである。
 そして、企業は“ゴーイングコンサーン”であり、明日をもわからぬ技術競争の中で、その商品だけで食っていけるはずもなく、儲けは次の利益を生み出す糧として、技術・研究のための再投資にまわすことも、これまた当然である。
 ただ、発明者たる従業員にしてみれば、結果として巨額な利益を生み出しているもととなった技術の価値を、あまりに過小に評価されたのでは、やってられない。
 本訴訟では上記のお互いの主張が鮮明に出た。会社はこれまでの投資コストを積算して、かつ“種”の価値はほとんど見ないで、マイナス評価。技術者は、この発明による将来の売り上げの現在価値の総和に、“種”の貢献度を大きくとって、莫大な評価…泥仕合である。
 商売のうまい人間は、観光客などの一見さんには、まず仕入れた原価の10倍ぐらい吹っかけるという。客がその商品の適正値を知らないし、後に知ったとしても継続客ではないから痛くないからだ。客もおおよそ事情はわかっているから、値切る。折り合ったところで取引価格が決まる。この訴訟も、適正な価値の算出が困難だから、両当事者は、“吹っかけ”“値切り”という手段に出ているようだ。少なくとも、地裁判断価額(及び根拠)では、いずれも納得しなかった。
 昨日、この話を弊社の鑑定士同士で議論した。『地裁で200億、和解提示が6億で、どうするね?』『6億でも、通常のサラリーマンの生涯賃金が2〜3億だから、ずいぶんいいんじゃないの?』『でも、会社は何千億と儲けてますよ。LEDの将来性もかなり有りそうだし。』『でも、これで何百億も出したら、会社はおちおち開発もできないね。人を雇うのもヒヤヒヤものだ。』『“種”がどこまでも関わってるというのも、おかしい話ですよね。』『まあ、とことんやって、最高裁まで見てみたい…という興味はあるね…』
 ある資産について、市場の認知を得た値付け方法に立脚する価値評価手法が確立していて、これを裏付ける資料が市場に十分あるなら、その価格についてあまりもめることはないだろう。不動産評価に関しても、純粋な住宅地についての評価でもめることはあまりない。しかし、東京の一等地の高層ビルや、取引のほとんどない寂れた工業地帯の広大な工場地などに関しては、その出した価格に説得力を持たせるためには、さまざまな資料や手法・理論が必要となる。
 あまりに証拠が少ない場合は、理論の精緻さに頼らざるを得ないが、そこでは、もっと大きな経済感覚・相場観・上限下限といったものでの調整が必要となるだろう。いずれにしろ、何らかの値付けのガイドラインがないと、泥仕合は避けられそうもない。
 今、官庁を含め模索中であり、上記NPO法人など民間パワーも期待されるところである。

 
 
 
 
 
 
 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

  ―平成17年1月12日号・完―  
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