週刊アクセス
 
 
平成17年1月19日 第245号
 
     
  今週のヘッドライン  
 
中央三井信託と三井住友海上、持ち家担保に老後資金融資
震災から10年 〜復興状況に地域格差〜
土壌汚染の不動産価格への反映は、どの時点でいくらするのか?
 −米国会計における負債測定のルールより考える
 
     
中央三井信託と三井住友海上、持ち家担保に老後資金融資
  (日経ネット H17.1.11)  
   中央三井信託銀行は三井住友海上火災保険と組み、戸建て住宅を担保に高齢者に老後資金を融資する「リバースモーゲージ」の取り扱いを3月から始める。当初は毎年一定額を貸し出し、80歳以降は終身年金保険に切り替えられる銀行・保険の融合商品。従来は地方自治体などが低所得層向けに手掛けていたが、同行は富裕層向けから始め、その後に対象を拡大することも視野に入れる。
 リバースモーゲージは自宅を担保に定期的に融資し、利用者の死後に売却して一括返済を受ける仕組み。似たような制度は厚生労働省や地方自治体が低所得者層向けに2003年度から導入したが利用は伸び悩み、80年代に商品を開発した民間金融機関も90年代にはほぼ撤退していた。中央三井信託は公的年金不信や少子高齢化で高齢者のニーズが高まってきたと判断。まず東京、大阪、名古屋の3大都市圏に土地付き一戸建て住宅を持つ富裕層を対象に取り扱いを開始する。

いわせてんか! 記事にあるように、90年代に金融機関がほぼ撤退したリバースモーゲージ。今では、ハウスメーカーが販促の一環として活用している程度で、民間での取組みはほとんどなされていない状態にあった。
 金融機関にとって、あまり割のいい商品ではなかったようだが、各金融機関が撤退した当時とは、その取り巻く環境が異なる。
 まず、当時は、地価下落傾向が続いていたのに対し、現在では、下落幅が縮小、特に、都心部では据置・上昇といった地点も出てきており、今回、参入した背景となっているように思われる。
 そして、もっと大きいのが、国会審議などで見られる、年金制度に対する不安であろう。今回提供されるサービスの内容であるが、年金制度に近いという印象を受ける、貸付方法が年1回の当座貸付方式(1回当たりの貸出金額は100万円以上)となっている。(この点、リバースモーゲージが発達しているアメリカでは、貸付枠を設定し希望するときに希望する額を引き出せるといった貸付枠型などもあり、商品内容が充実している。)
 年金制度の将来が見えない中、金融機関にとって推進しやすい商品となった。年金制度の不備に入り込む余地があったと見ることもできる。
 とすると、国としても、政策的に後押ししたいところではないだろうか。今回の中央三井信託銀行の参入が、政策面でリバースモーゲージを促進させるための環境づくりとして、例えば、よく問題にされる中古住宅市場の活性化といった策を推し進めるインセンティブとなるような気もする。
 ところで、銀行として気になるのは「担保割れ」。いわゆる“長生きされて割に合わない”リスクをどう回避するか。また、死亡時に家を売却する前提のため、残された配偶者や相続人への配慮も欠かせない。そこで以下のような対策で回避している。

(1) 土地担保評価額が1億円以上
(2) 融資総額は担保評価額の5割以内
(3) 年間最低融資額は100万円
(4) 65〜75歳までは保険料の支払いがある
(5) 80歳以降は年金保険で受け取り
(6) 被保険者死亡時の融資返済で、同居配偶者がいる場合は、売却を2年間猶予
(7) 相続人がいる場合は、売却額が融資額を上回る残額を相続人へ返還

 都心の中高級住宅では、関西圏でも地価上昇が聞かれるようになっている今。銀行・保険会社の目論見がどれだけ当るか…。これからの運用が注目される。

 
 
震災から10年 〜復興状況に地域格差〜
  (朝日 H17.1.15)  
   死者6433人、全半壊25万棟。戦後最悪の被害をもたらした95年1月の阪神・淡路大震災から、17日でまる10年を迎える。被災地の人口や住宅戸数はすでに震災前を上回り、街の復興は進んだ。だが、地元経済は苦境を脱しきれず、回復には地域差がある。復興関連支出による自治体財政の悪化や、災害復興公営住宅に入居する高齢者のケアのあり方など、課題はなお残されている。
 死者4564人と、最も大きな被害を受けた神戸市は、95年10月の国勢調査で約10万人の人口減が確認された。それが昨年11月、同市の人口推計で震災前の152万人台に戻った。
 兵庫県内で被災した10市10町(現在は合併で11市6町)でみると、人口は震災直後に14万人以上減ったが、01年に震災前年を上回る計358万人台に回復。その後も緩やかな伸びを続けている。
 県内で24万棟が全半壊した被災建築物の建て直しも進んだ。新設住宅着工戸数は95、96の両年度にそれぞれ10万戸を超え、03年度までに累計で60万戸を超えた。県住宅宅地課によると、被災地域の住宅ストックも震災前の93年を100として、03年には115.7にまで増加している。
 県教委によると、震災後、心のケアが必要と判断された児童・生徒数は96〜99年まで4000人前後いたが、00年から大きく減り始め、03年には約1900人と半減した。
 一方、被災地域の市町総生産を93年度を100とした指数でみると、94年度に95.6にまで下落したが、復興需要の影響で95〜97年度には100を超えた。だが、その後は景気低迷の中で、100を割り込んでいる。
 さらに地域差もある。全体では回復した神戸市の人口も、西区では震災前を2割上回ったのに対し、大規模な火災に見舞われた長田区では逆に2割減ったままだ。同区の中でも、被災率が9割を超えた御菅東地区では震災前の4割程度の人口にとどまっている。
 復興のために巨額の投資を必要とした自治体の財政悪化も深刻だ。
 県内の被災市町は95年度、震災前年の93年度の4倍以上、96年度にも震災前年の3倍近い地方債をそれぞれ発行した。この結果、返済のための公債費が財政を圧迫。20%を超えると発行が制限される起債制限比率は、03年度の決算見込みで平均19.3%。神戸市では25.8%、芦屋市では21.4%に達している。

いわせてんか! 阪神大震災から丸10年が経過した。
私自身も神戸に住んでおり、当時は受験生(大学)であった。  1月17日は、センター試験が終わり、予備校で自己採点を終えた次の日で、これから2次試験という時期だった。JR復興の目処が立たず、神戸−大阪間は不通。私大受験に京都の親戚を訪ねていったことを覚えている。

 倒壊したビルや家屋、火災による戦争直後のような焼け野原、なぎ倒された高速道路といった被災地の姿から一新、被災者自身の懸命な努力はもとより、政府・自治体をはじめ、様々な支援が相俟って、被災地の「まち」は震災前の水準以上に復興を成し遂げているように見える。
 兵庫県も、被災地全体としては、人口や鉱工業生産指数、観光入込客数、求人倍率等の主な経済指標が概ね震災前の水準にまで回復していることから、被災地域の復興は着実に進んできたとしている。

 しかし、上記記事の人口推移のみならず、住宅着工(供給)面から復興を見たときに、地域間において復興状況の格差が生じている。住宅着工(供給)については、兵庫県の復興計画の目標値をクリアしているが、供給された住宅の立地が被災地域と大きくズレているのである。
 住宅着工数の格差が生じたのは、被害に応じて同地域内で供給されたのではなく、供給しやすい地域で供給された結果、生じたものと考えられる。震災がまとまった土地の取得を可能にし、これまで供給がされなかった地域(芦屋市など)でも供給が行われた一方で、基盤が未整備で復興後の基盤整備の進捗が遅い地域(特に長田区)では供給ができず、地域によって需要と供給の乖離が発生した結果、格差が発生しているのだ。
 また、公的賃貸住宅供給面から見ても、灘区・中央区の臨海部では公営住宅、東灘区と灘区の区境には特定目的賃貸住宅・特定優良賃貸住宅、兵庫区・長田区には再開発系、といったように地域性が現れている。震災前は住宅地でなかった地域や郊外に大規模な住宅(団地)が多く供給され、垂水区・西区・北区の郊外部だけで全体の3割以上を占めているといった状況で、被災者の要望とかけ離れた結果になった。この結果、余剰住宅の増加問題や人口推移の問題が浮上してきたのである。結果論になるが、「地域性を特に考慮」に入れた「住民の声を反映」した住宅供給がなされるべきであったのだろう。

 復興再開発事業の遅れも気にかかる長田区は、若年人口の減少や高齢化などのインナーシティ特有の問題も抱えており、地場産業であるケミカルシューズ業界にとっても依然厳しい状況にある。
 震災後10年が経ち、一見、復興したかのように思える被災地であるが、長田区のように大きな課題を残したままの地域もある。地方分権にむけ、いち早い復興と活力ある「まち」づくりに期待したい。

 
 
 
 
土壌汚染の不動産価格への反映は、どの時点でいくらするのか?
 −米国会計における負債測定のルールより考える
  (K・G・パレプ他『企業分析入門(第2版)』より)  
   上記著書(斉藤静樹(監訳)東京大学出版会、2001年)5章「負債及び持分の分析」1「負債の定義と財務報告上の問題点」課題2「測定できる債務なのか?」例「環境に関する負債」(p109〜111)では、米国での1980年、危険物処分場跡地を浄化するための「スーパーファンド法」(Comprehensive Environmental Response, Compensation and Liability Act: CERCLA)施行に伴う、企業の浄化及び環境修復費用負担債務に関する負債の財務諸表計上のための測定に関して、以下のように記載する。

『…浄化費用を推定する際に2つの難問がある。1つは、誰が破壊と浄化の責任を持つのかが不明確なことで…2つめの問題は、実際の浄化費用がいくらになるか、なかなか分からないということである。』

『…浄化費用の見積もりが困難である結果、廃棄物の浄化に責任を持つ企業が負債を計上すべき時期が不明確になる。』

『浄化費用の測定という難題を前に、浄化費用の額がほぼ確実になり、企業の負担が決まるまで、環境費用のために負債を計上する時期を繰り延べることを会計ルールは企業に認めている。SFAS5号とSOP(Statement of Position)96-1号は、以下の条件を満たした時点で債務を計上することを要求している。

1. 企業が潜在的な負担者として特定されている。
2. 企業が環境修復のフィージビリティ・スタディ(remedial feasibility study)に参加している。
3. 環境修復のフィージビリティ・スタディが完了している。
4. 浄化方法ならびに浄化費用の見積もりに関する決定がなされている。
5. 企業が汚染場所を浄化するように命じられている。』


いわせてんか! 不動産鑑定評価では、土壌汚染及びその可能性が不動産の価格に影響を及ぼしていると鑑定士によって判断される場合には、これを価格に反映しなければならないことになっている。鑑定士内部の研究でも、一定の鑑定士の独自調査(公的ヒアリング、地歴調査など)を経て“端緒”があれば、これ以上のことは不明事項としながらも、一定の価格反映が要求されるとしている。
 しかし、なかなか難しい。これは、上記米国会計においても悩まれていた。財務諸表へ負債計上するための認識・測定で、時期と金額(timing and amount)が不明確な浄化費用について、会計基準で一定の計上時期の繰り延べを認めているのである。
 結果、上記5つの条件を満たせば、計上のための確実性要件をクリアするとみなした。汚染責任の所在の特定、浄化・修復プランの青写真の完了、浄化方法・費用見積の決定、負担者への浄化命令といった確実な要件である。
 汚染の有無が不明なことにはじまり、判明後の浄化命令の有無、浄化方法の如何、その費用と、現状の日本の法律・条例や市場では、分からないことだらけである。単純に、汚染のない価格から、浄化費用を控除すればいいとするが、まったくといって、そこへ至る実務デファクトは確立していない。たとえば、浄化方法ひとつをとっても、汚染浄化ビジネスが大きくなりつつある今、技術革新や過当競争のため、どの方法を選択するか、どの浄化会社を選択するかによって、金額は何十倍と異なってくるかも知れない。
 会計士が財務諸表に負債として計上するのと同様に、鑑定評価額を浄化費用控除後にすることに対する鑑定士の責任は重い。あってもなくても、その額による被害は生じる。であるなら、現状の日本における法や経済の実務慣行を十分に考慮に入れて、浄化責任と費用を相当程度確実に確定できるまで、鑑定評価額への反映とその責任は“繰り延べられる”べきではないか? 鑑定士の能力の範囲内における物的調査などの詳細・精緻性や、市場実態の把握・アップデートを、業界団体である鑑定協会などが調査・研究・周知することは必須であるとしても、価格への反映は慎重にすべきであると思料するが、いかがだろう?

(『青色LED』については、もう少し検討しております。しかし、1/12の中村教授の記者会見は圧巻でした。本当に怒り心頭な人を久しぶりに見たような気がしました。)

 
 
 
 
 
 
 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

  ―平成17年1月19日号・完―  
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