週刊アクセス
 
 
平成17年7月27日 第272号
 
     
  今週のヘッドライン  
 
平成15年度宅地供給量推計、民間供給増加で全体の減少量小幅に
継続賃料の鑑定評価をめぐって・賃料改定における最近の裁判の動向
 
     
平成15年度宅地供給量推計、民間供給増加で全体の減少量小幅に
  (R.E.port H17.7.14)  
   国土交通省は13日、平成15年度における全国の宅地供給量の推計結果を発表した。
 同調査は、各分野の事業者の供給実績等に関する調査に基づき、昭和41年から毎年推計を行なっているもの。
 これによると、平成15年度分の全国の宅地供給量は、6,600ha(対前年度比▲1.5%)となり、減少量は小幅だったものの、前年度に引き続き推計開始以来最小となった。内訳は、民間供給が5,200ha(同0%)で横ばい、公的供給が1,400ha(同▲6.7%)。
 また、三大都市圏については、近年減少傾向にあったが、民間供給3,000ha(同7.1%増)、公的供給700ha(同▲12.5%)、全体で3,700ha(同2.8%増)と微増。全国の宅地供給量に占める割合は56.1%と、前年度(53.7%)よりも増加した。

いわせてんか! 宅地供給量推計でいう宅地とは、(1)今まで住宅の敷地となったことがなかった宅地で、当年度に新規にその上で住宅が着工されたもの、(2)当年度に住宅用地として造成が終わり、いつでも使用が可能な状態となったもの、をさす。
 三大都市圏では、民間主体の供給動向が、平成14年度調査で、それまでの減少傾向から横ばいへと変化が見られていた。今回の平成15年度調査では前年度より増加となった。
 全国で見ると、平成15年度については民間主体の宅地供給量が横ばいになった。これは、三大都市圏における新規供給量の増加による部分が多いと思われる。一方、その他地域(地方圏)で既存ストックがある程度消化され、新規供給がなされるような需給バランスに至っていると見ることもできそうだ。
 新設住宅着工戸数が、首都圏では平成15年度の対前年度増加から平成16年度は若干減少に転じた。一方、三大都市圏以外の圏域(その他地域)では、平成15年度の対前年度減少から平成16年度は増加に転じた。(平成17年5月11日 第261号 昨年度の住宅着工1.7%増、2年連続でプラス参照)
 宅地供給量と住宅着工戸数の推移を見るに、平成14年度〜平成15年度にかけて、当初は三大都市圏の中でも首都圏がその供給量を押し上げた可能性が高い。首都圏から中部圏・近畿圏・その他地域へと、新規供給のエリアが移行しつつあると見ることができそうだ。
 その首都圏であるが、国土交通省が行った「経済社会の変化に対応した大都市圏(首都圏)郊外部の整備方策等検討調査」の「首都圏の2000―2020年の人口変動推計」では、都心から75分以上のエリアでは、2000―2020年の20年間で約6万人の減少になると推計している。
 この首都圏での傾向は、中部圏、近畿圏でも当てはまるかもしれない。一方、地方圏や中部圏、近畿圏では、特に郊外エリアにおいて、地縁的選好や産業構造などにより駅勢圏以外の生活圏が形成されている場合も見られ、その場合には首都圏での傾向とは違う人口変動が生じている可能性がある。ただ、通常は駅を中心に生活圏が形成されることから、郊外エリアや地方圏でも、概ね同様の傾向となるのではないか。
 上で述べたような人口の推移やそれに伴う宅地供給・着工戸数の推移、首都圏の動きが他の圏域に波及するという傾向。そして、それら圏域内での市区町村や、より細分された地域においても、一定の波及が見られるという構図は、その地域の特性(例えば、駅勢圏以外の生活圏の形成など)に応じてその影響の仕方は異なるものの、これからもより強まったかたちで、見られることとなるように思われる。

 
 
 
 
継続賃料の鑑定評価をめぐって・賃料改定における最近の裁判の動向
  ((社)大阪府不動産鑑定士協会 H17.7.26研修)  
   大阪府不動産鑑定士協会において、上記表題での研修会が行われ、240名の鑑定士が聴講した。その中での気になる点をピックアップする。(なお、下記は筆者のまとめであり、本来両氏が主張されている点と異なる解釈がある可能性はご容赦いただきたい)

 神戸大学名誉教授(経済学) 大野 喜久之輔 氏
   「継続賃料の鑑定評価をめぐって」

 〜理論として
経済変動(短期・中期・長期)と賃料との相関を、市場分析を通じて十分見る(継続賃料では、もっぱら長期・中期をみなければならない)
継続賃料は、正常価格が想定する「合理的・競争均衡的」な市場ではなく、相対的な要因(契約、経緯など)が強く作用するものである
これを踏まえて、各評価方式の「現実妥当性」(貸し手市場か、借り手市場か?など)を検討し、各試算賃料の算術平均など機械的調整ではなく、各々の説得力を詳述した上で、これに沿って調整する必要がある。(そうしないと、裁判官はもちろんのこと、当事者(貸主・借主)もその鑑定評価額に納得しないことになる)

 〜実務として
従来は貸主ベースの積算的手法に比重が高すぎるのでは?(だからといって、借主の収益分析的手法は、(1)経営者の評価(力量、恣意性)が困難、(2)事業収益をどのように配分するかが困難(特に、経営への配分)、(3)契約による相対の拘束が元々あるときに収益の限度を持ち出すこと自体が不合理では、という理由で、手法としてはまだまだクリアしなければならない問題が多い)
まずは、現行(約定)賃料と正常賃料との差額を把握し、当該差額発生要因を分析しないことには始まらない。特に、地価下落期はマイナス差額を当事者にどのように「分担」させるか、その責務の度合いを考慮して適正な賃料を求める必要がある。

 〜提案として
まずは経済現象を立証する「事例」が命
用途として、居住か事業かという区別が必要
地代と家賃を明確に区別する
以上を踏まえて、
(1) 現状に対応できていない不動産鑑定評価基準を改正する。そのスタッフとしては、実務家としての鑑定士だけではなく、現実の市場において総合的な判断を可能とするため、「法律家」と「経済学者」を加え、相互の対話を重ねないといけない
(2) 鑑定基準や実務を理解していない判決が出された場合は、速やかに反論し、逆に否定的な意見を持って排除された鑑定書については、どこがいけなかったかを分析し公表すべきである

 弁護士、関西学院大学ロースクール教授 小山 章松 氏
   「賃料改定における最近の裁判の動向」

新借地借家法改正とバブル崩壊が重なった
バブル前には、弁護士も裁判官も「賃料増額」の思考過程しか存在しなかった
H15の最高裁判例以降、サブリースや継続賃料の判断要素は、借地借家法11条・32条において、以下の2点に尽きる。これを十分審議するために、契約当初の事情や経緯、市場分析の考察が重要となる。

(1) 現行(約定)賃料が不相当か否か?
(2) 相当賃料はいくらか?

鑑定書のことを分かってもらいたいなら、直接裁判官にレクチャーすればいい(法律家は数字に弱いので、数値の羅列では鑑定書を読まない)
そのためには鑑定書をちゃんと書いて欲しい。以下のような点をクリアして欲しい。

(1) 契約の特別事情に踏み込んで、これを十分に反映した評価額が必要(新規・正常賃料では意味がない)
(2) 数値(期待利回り、配分率、調整のウエイトなど)の根拠をわかるように書く

たとえ当事者一方の私的鑑定であっても、上記の点をクリアするなら裁判所鑑定と同等の能力を持つ。裁判所も、わざわざお金のかかる裁判鑑定を頼みたくはない。

いわせてんか! まず大きいのは、当り前だが新規賃料では継続賃料とはならないということ。
 サブリース最高裁判決(H15.10.23、平成14年(受)852)差し戻し審の東京高裁H16.12.22(平成15年(ネ)5399)においては、

(第1審での不動産鑑定士による)鑑定結果は、本件賃貸借契約がサブリース契約でない通常の賃貸借契約であったらと仮定した場合の適正賃料額を示すものであり、(賃料保証などサブリース契約の特別事情があることからすれば)上記鑑定額をもって直ちに本件の相当賃料額であるということはできない』

と判示している。
 そして、特別事情の具体的な考慮としては、以下のように述べる。

本件における相当賃料額を決定するに当たっては、賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情を総合考慮すべきであり、特に本件においては、…賃料保証特約の存在や保証賃料額が決定された事情を考慮しなければならず、とりわけ、(賃貸人)が本件の事業を行うに当たって考慮した予想収支、それに基づく建築資金の返済計画をできるだけ損なわないよう配慮して相当賃料額を決定しなければならないというべきである。』

 契約当初の合意賃料が、当時の周辺相場賃料より高いことについて、特別事情の下に相対的に合理的(本件では、賃貸人が借入を予定していたビル建築費用についての銀行融資の返済等を考慮したため)であるなら、これをベースに継続賃料を考えねばならないのである。ここが従来の判断と決定的に異なる点である。

 次に、ちゃんと説明した鑑定書を作るということ。
 特に、裁判官・弁護士など法律家が数字が苦手で、文章で説明してもらわないと分からないということである。当然、当事者が納得するはずもない。「鑑定評価基準の機械的適用」といい、たとえば差額配分法で1/2法をとる、試算賃料の調整で単純に1/4にするなど、それまで長々と各試算賃料では説明してきたものを、最後に“やっ!”とくっつけたり割ったりする。悪いのは、その説明が十分になされていないことにある。1/2法を否定するのではなく、正常賃料との差額を貸主・借主に等分に配分した理由は当然必要だろう。その部分が、適正な継続賃料がどこにあるか関して、一番重要だからである。
 上記高裁では、約定賃料からの減額(相当賃料額)を判断するとき、賃貸人の収支予測と現実の収支の異なる部分(建築借入の金利軽減額と公租公課負担額の減少)を具体的に算出し、これに相当する金額を減額した。これは『これらの軽減額を超えない限度で従前賃料が減額されたとしても、(賃貸人が)当初、予測した収支内容を損なうことになるものではないということができる』からだという。

 現在の不動産鑑定評価基準の継続賃料評価手法は、今の市場状況である地価下落・混迷期において特に、評価理論と実務指針が未整備であると大野教授は指摘された。教授の提案の如く、鑑定士の業界団体である鑑定士協会が音頭を取って、鑑定士間で大いに議論を交わし、経済・法といった継続賃料に関わる要素のプロとの対話を十分経たうえで、時代に対応したルールを早急に打ち出す必要があるだろう。経済は日々変化するものであり、これに対応する指針があって始めて、的確な鑑定評価が可能となる。

 
 
 
 
 
 
 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

  ―平成17年7月27日号・完―  
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