週刊アクセス
 
 
平成19年10月31日 第390号
 
     
  今週のヘッドライン  
 
鑑定協会『倒産手続における不動産の鑑定評価上の留意事項』における「時価」とは?
−「正常価格」と法令の中の「時価」との関連
 
     
鑑定協会『倒産手続における不動産の鑑定評価上の留意事項』における「時価」とは?−「正常価格」と法令の中の「時価」との関連
  (『倒産手続における不動産の鑑定評価上の留意事項』H19.9)  
   以下は、(社)日本不動産鑑定協会・法務鑑定委員会・倒産法専門委員会(委員長:奥田かつ枝氏)がH19.9に鑑定士向けに発刊した、表題の留意事項における「価格の種類」の注釈である。

『 「時価」は多くの法令にみられる用語であり、「時価」の語は、一般に認識されているその大枠の意の範囲内において、法の運用に当たって、それぞれの法令と当該法令に係る事案に即した内容を持つものと解される。しかし、不動産の鑑定評価に当たっては、まず、価格概念を明確にすることが必要である。よって、本鑑定評価においては、「時価」に関連する鑑定評価を行うとき、求めるべき価格の種類を正常価格であるとした。
 不動産について、「時価」を正常価格とした趣旨を(会社、注筆者)更生法改正の趣旨から考察する。
 更生法改正にあたり、旧法の問題点として、次のような点が指摘された。

(1) 旧法にある「会社の事業が継続するものとして」評定した価額(事業継続価値)の実務的な評価方法にあいまいさがあり、管財人側と債権者等の側との見解の相違が生じる原因となった。
(2) 収益価格に基づいて事業継続価値を求める場合に必要な、事業収益予測の中心となるべき更生計画案の作成に時間を要するため、財産評定自体が遅れる理由になった。

 このような問題意識を踏まえ、構成手続開始時における財産評定の趣旨を、再出発する企業(会社)の財産的基礎を明らかにし、適正な資産状態を表示する、という目的と整理したうえで、更生手続開始時の財産評定において求める価格は個別財産の価額を明らかにするためのものとして、評価基準を実務的な評価方法を含め判断基準がより明確で、会社の事業収益予測を必ずしも必要としない「時価」に変更したものと考えられる。
 したがって、個別財産の価額を明確な基準で求めるためには、対象不動産の価値判断として基本となる正常価格として求めることが妥当である。』(p24、脚注16)


いわせてんか! 鑑定協会は、更生法の趣旨に合うよう、同法の「時価」を「正常価格」とした、とする。
 従来は、不動産を含めた会社保有資産は“一体として”事業収益を生んでいるとして、事業継続価値を配分していた。DCFで求める収益還元価値である。そのためには、更生計画案により将来収益の予測をしなければならない。なおかつ、収益を還元する利回りを推定しなければならない。しかし、これは、将来リスクの見方によってかなりの“幅”が生じる。また、もともと立ち行かなくなった企業が倒産法制にかかるのだから、正の収益を見込むこと自体が困難といえる。これが、旧法で管財人と更生担保権者との争いを生み、倒産法制を非効率にしていたのだ。
 そこで、財産評定を新しいスタートとなる新生貸借対照表への適正な計上価格と考え、個別資産の「時価」とした。“個別”の理由は、一体とせず…という意味である。不動産の場合、あくまで単体の市場価値を出すのだ。
 この流れは、国際的な会計基準(IFRSやFAS)における公正価値(fair value)の概念と軌を一にするものと考えられ、単体の市場価値を原則とし、保有企業の見積りは極力排除し、一体としての価値が最有効使用であるとしても例外にとどめる、という価値概念である。近時は、公正価値を仮想の「出口価格」(Exit price)に統一しようとする動きが本格化しており、保有企業の実際の取得価額(入口価格)でさえ排除し、あくまで評価時点の市場価格に徹しようとしている。
 法の趣旨に資する財産価値判定の基礎となるためには、いずれの利害関係者にも左右されない、公平・適正な判断基準が必要だ。法の「時価」を鑑定評価基準の「正常価格」と結び付け、さらにその理由を説明する本留意事項は、意義のあるものだ。鑑定書を関係者が活用する際、このルール(判断基準)が明確にされていなければ、いいもわるいもわからない。
 以前も論じたが、鑑定書が有効に活用されるためには、利用者による比較可能性や検証可能性がないといけない。特に、法が要請する価格概念については、今回のような留意事項で、より詳細に定義づけてゆく必要があるだろう。

 
 
 
 
 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

  ―平成19年10月31日号・完―  
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