I 『海外投資不動産鑑定評価ガイドラインの概要』
国土交通省 土地・水資源局
地価調査課 企画専門官 御手洗 潤 氏
1 海外投資不動産鑑定評価ガイドラインの概要
(1) ガイドライン策定の背景
(2) 世界の不動産投資市場におけるクロスボーダー投資の状況
(3) 世界のリート市場規模比較
(4) 世界各国のリートにおける国外不動産投資の可否
(5) 海外不動産鑑定評価の基本的実施方法
(6) 海外鑑定人の選任
(7) 日本の不動産鑑定士と海外鑑定人との役割分担
(8) 契約(約款)に盛り込むべき事項
(9) 鑑定報告書の記載事項
(10) 海外不動産の鑑定評価を行うことができる要件
(11) ガイドラインと鑑定評価法
2 今後の鑑定評価制度に求められるもの
3 国土交通省の実施する鑑定評価モニタリング
II 『Red Book及び英国不動産法制度の概要』
NPO法人 日本不動産カウンセラー協会
Red Book 翻訳出版特別委員会 委員長
明海大学 不動産学部 中城 康彦 氏
1 Red Bookの解説
(1) レッドブック
(2) 国際評価基準
(3) RICS評価基準の構成
i) 実務規定(Practice statements(PS))
ii) ガイダンス・ノート(Guidance notes(GN))
iii) 英国実務規定(UK practice statements(UKPS))
iv) 英国ガイダンス・ノート(UK guidance notes(UKGN))
v) 実務規定と英国実務規定の関係
(4)多方面との協力・成果の収録
2 英国の不動産の法制度の概説
3 リースホールドの価格
III 『海外不動産の評価・カウンセリング実務上の留意点』
アメリカン・アプレーザル・ジャパン(株)
ヴァイスプレジデント 五十嵐 潤也 氏
1 海外不動産の評価業務
2 USPAP
(1) USPAPとは
(2) 背景、設立の経緯
(3) 構成
3 評価・カウンセリング実務上の留意点
(1) USPAP
(2) 米国の不動産鑑定評価書(抜粋)
(3) その他
国土交通省、平成20年1月25日策定の『海外投資不動産鑑定評価ガイドライン』によれば、海外不動産の鑑定評価は、日本の不動産鑑定士が「海外現地において専門職業家として認定又は公認された不動産鑑定人との連携・共同作業により、海外現地において認定又は公認された不動産の鑑定評価基準に基づき、鑑定評価を行う」とする。ここにおける「海外現地において認定又は公認された不動産の鑑定評価基準」のひとつが、本セミナーの目玉である、RICS(The Royal Institution of Chartered Surveyors、英国王立勅許鑑定士協会)作成の『RICS Valuation Standards』、通称『Red Book』である。もう一つの双璧となる評価基準は、米国鑑定業務統一基準『USPAP(Uniform Standards of Professional Appraisal Practice)』であり、2大評価基準といえる。
さて、J-REITへの海外不動産の取り込みを主たる目的として同ガイドラインが作成されたわけだが、その原則は、取り込む不動産が存する国の評価基準(これがある国に限る。)に従って作成された鑑定書を、日本の不動産鑑定士が、日本の不動産鑑定評価基準に照らして検証する、すなわちレビューすることによる。一応、日本の鑑定士が現地へ行って自ら鑑定書を作成するパターンも容認しているが、国交省の話では、例外的だ。そこで、主要な評価基準への精通が要求されることになる。
また、ガイドラインは「日本の不動産鑑定士が海外不動産の鑑定評価の依頼を受けたときの指導監督基準」と位置づけられており、「不動産の鑑定評価に関する法律」の処分根拠として作用することになる。当然、モニタリングの基準ともなる。
Red Bookの特徴のひとつは、多方面との協力・成果が収録されている点であるという。特に、もともと財務報告の資産評価基準として生まれた関係上、会計基準との整合性は十分にとられており、今般の国際会計基準のコンバージェンスとも相性がいい。国際評価基準にも完全準拠して作成されている。金融機関の融資・担保、公共団体の資産評価とも連携している。
一方、実際の海外不動産の評価実務の面については、やはりレビューがメインであり、それも様々な形式でレポーティングされているとのこと。今後、ガイドラインを契機としてリートや企業からの評価・カウンセリングが増加することが予測されるが、評価関連サービスのフォーマットはまだまだ発展の余地がある。
中城教授が指摘していたが、日本の鑑定基準は「独自性が強い」、悪く言うと、会計や法制度などとのすり合わせが十分にできていないきらいがあるとのこと。価格概念や鑑定業務の範囲、鑑定士の責任範囲などが十分規定されておらず、例えば評価目的は諸制度の一旦として設定されるものであり、今の「正常価格」のみで説明しきれるものではない。その点、Red Bookは時間をかけて諸制度の基準と、文言・定義から適用・非適用の範囲まで協議をして、評価基準内に取り込んでいる。その意味で、「日本の不動産鑑定評価基準に照らして検証する」というよりはむしろ、Red Bookを参考として、評価目的に資するような価格定義や分析、評価手法の説明を十分にする必要もあろう。
国交省によると、ガイドラインによる日本基準の改正はまだ視野に入れていないとのことだが、不動産流通や財務会計のグローバル化に鑑みると、実務指針の早急な策定が必要であり、特に、2大評価基準や国際会計基準とのすりあわせが求められると考える。
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