週刊アクセス
 
 
平成21年5月6日 第469号
 
     
  今週のヘッドライン  
  裁判における鑑定評価を実効性のあるものとするために
 ―改正・民事訴訟規則における「三者協議」の活用
 
     
裁判における鑑定評価を実効性のあるものとするために
 ―改正・民事訴訟規則における「三者協議」の活用

  (民事訴訟規則129条の2)
 
  [民事訴訟規則](平成八年十二月十七日公布最高裁判所規則第五号)
第一編 総則  第三章 証拠  第四節 鑑定
(鑑定事項)
第百二十九条 鑑定の申出をするときは、同時に、鑑定を求める事項を記載した書面を提出しなければならない。ただし、やむを得ない事由があるときは、裁判長の定める期間内に提出すれば足りる。
2 前項の申出をする当事者は、同項の書面について直送をしなければならない。
3 相手方は、第一項の書面について意見があるときは、意見を記載した書面を裁判所に提出しなければならない。
4 裁判所は、第一項の書面に基づき、前項の意見も考慮して、鑑定事項を定める。この場合においては、鑑定事項を記載した書面を鑑定人に送付しなければならない。
(鑑定のために必要な事項についての協議)
第百二十九条の二 裁判所は、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日又は進行協議期日において、鑑定事項の内容、鑑定に必要な資料その他鑑定のために必要な事項について、当事者及び鑑定人と協議をすることができる。書面による準備手続においても、同様とする。
(平一五最裁規一九・追加)(下線、筆者。)


いわせてんか! 表題の「三者協議」とは、裁判所、当事者及び鑑定人が、鑑定を当該訴訟において実効性のあるものとするために、鑑定の基礎・前提となる要素である「鑑定事項」の内容と必要資料について協議をするものである。
 従来は、鑑定人は受動的に、裁判所が決めて依頼される鑑定事項に従って鑑定を行うだけだった。鑑定事項は評価前提であり、これ以外のことを鑑定に含めると依頼の範囲を超えてしまうことになる。しかし、裁判所が鑑定人に鑑定を依頼する意味は、自己の専門的知見の欠如を補う意味であり、本来、「何が専門的な問題点なのか?」を裁判所が的確に判断できるという前提に疑問がある。
 そこで平成15年の民事訴訟規則の改正で導入されたのが「三者協議」だ。評価前提となる鑑定事項を協議する。争点を絞るという最初の大きな役割も含む。両当事者の主張や提出証拠を吟味、これに基づき、協議において専門家がヒアリング等を行って、何が争点なのか、その争点の解決のためにどのような専門的知見が必要とされるのか。これを、鑑定を行う鑑定人がアドバイスしながら三者で協議をして、最終的に「鑑定事項」を決定する。鑑定人は、それを評価対象・評価前提として粛々と鑑定を行う。
 改正の視点は、鑑定という証拠手続きを効率化(争点をぼやかさない、何度も補充鑑定しない、鑑定人質問において争点以外で鑑定人を責めないなど)して、訴訟経済と実効性を担保するものだ。しかし、不動産鑑定においてはあまり有効に活用されていないとも聞く。
 例えば、賃料増減額訴訟は、改定すべき「適正賃料額」というひとつの賃料だけ鑑定士が鑑定すればいいように考えられ、医療過誤などと異なってあまり鑑定事項の協議は必要ないと考えられていた。しかし、当事者の契約締結事情や改定経緯の分析、これを裏付ける経済事情や賃料相場の変動などは、単に当事者の主張を足して2で割ったりする解決法以上に専門的知見を必要とするものである。賃料訴訟が手を変え品を変え、同一の当事者で繰り返される現実を考えると、当事者は賃料増減額訴訟の結果に納得していないし、鑑定が有効に利用されているとも考えにくい。
 ぜひ、「三者協議」を行って、まずは争点整理と鑑定事項の明確化・精緻化を図らなければならないのではなかろうか?
 
 
 
 
 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

  ―平成21年5月6日号・完―  
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さて! 英気を養った後は、お仕事がんばりましょう!
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