週刊アクセス
 
 
平成23年4月27日 第572号
 
     
  今週のヘッドライン  
  過去の住宅地図は、土地のいろいろなことを教えてくれる
 −土壌汚染調査から派生した、地域の将来を予測する重要な証拠として

 
     
過去の住宅地図は、土地のいろいろなことを教えてくれる
 −土壌汚染調査から派生した、地域の将来を予測する重要な証拠として

   
 

いわせてんか! 不動産鑑定士は、鑑定評価を行う際、対象土地に関する土壌汚染の有無に関する調査を行わなければならず、その有無や程度が、不動産の価格に影響を及ぼすほど大きいと判断したときは、これを鑑定評価額に反映させる必要がある。しかし、鑑定士は地質調査のプロではなく、実際知識を持っていたとしても、ちゃんとした調査を実施するには、地質調査会社による大掛かりな調査・分析が必要で、かつ、現状建物が土地上に載っている場合には、物理的に調査が不可能、ということも多い。そこで、鑑定基準では、土壌汚染の“端緒(てがかり、いとぐち)”を発見するため、鑑定士が実地調査などでできることをしなさい、と以下の如く規定している。(下線は、筆者。)

  不動産鑑定評価基準運用上の留意事項(平成22年3月31日一部改正、国土交通省)
II「総論第3章不動産の価格を形成する要因」について
1.土地に関する個別的要因について
(2)土壌汚染の有無及びその状態について
     土壌汚染が存する場合には、当該汚染の除去、当該汚染の拡散の防止その他の措置(以下「汚染の除去等の措置」という。)に要する費用の発生や土地利用上の制約により、価格形成に重大な影響を与えることがある。土壌汚染対策法に規定する土壌の特定有害物質による汚染に関して、同法に基づく手続に応じて次に掲げる事項に特に留意する必要がある。
      <1>  対象不動産が、土壌汚染対策法に規定する有害物質使用特定施設に係る工場若しくは事業場の敷地又はこれらの敷地であった履歴を有する土地を含むか否か。なお、これらの土地に該当しないものであっても、土壌汚染対策法に規定する土壌の特定有害物質による汚染が存する可能性があることに留意する必要がある。
      <2>  対象不動産について、土壌汚染対策法の規定による土壌汚染状況調査を行う義務が発生している土地を含むか否か。
      <3>  対象不動産について、土壌汚染対策法の規定による要措置区域の指定若しくは形質変更時要届出区域の指定がなされている土地を含むか否か(要措置区域の指定がなされている土地を含む場合にあっては、講ずべき汚染の除去等の措置の内容を含む。)、又は過去においてこれらの指定若しくは土壌汚染対策法の一部を改正する法律(平成21年法律第23号)による改正前の土壌汚染対策法の規定による指定区域の指定の解除がなされた履歴がある土地を含むか否か。

 上記の<1>の下線部、いわゆる「地歴」を調べる手段として、過去の住宅地図を取得して、対象土地にどんな建物が建っていたか、を観察するものがある。この副産物が非常にいい。
 大阪であれば、中之島の府立図書館に大阪府下の市区町村の過去の住宅地図が保管されており、古いもので昭和20年代からある。存在する最古の地図から現在まで、数年おきに該当ページをコピーして、対象地の状況を見ていく。そのとき、周りの“風景”が鑑定に非常に役立つ。
 大阪市内の中心地を例に挙げると、戦後すぐの密集住宅や歓楽街、道路が通って区画整理、バブル期には土地が集約されオフィスビルや店舗ビルとなり、バブルがはじけると集約された土地が未利用地として空白として残る。平成18年ごろから、そんな空き地に高層マンションが建ち始め、最近ではやたらとコインパーキングが増えている…。地価を考える場合、住宅地であれば、地場の人が買うことが多いため、その土地の歴史はかなり影響がある。取引価格にはしっかりとその事実が織り込まれており、これを異にするその他の地域との安易な比較は出来ない。
 近時の都心部におけるコインパーキングなどの“未利用地”の増加、外縁部新興住宅地の造成後未利用の空白が気にかかる。一時的なモラトリアムで、時がたてばまた「建物名前」が刻まれていくのか、はたまた、このまま空白が続くのか…。
 鑑定評価基準には、以下のような文言がある。

   「不動産の属する地域は固定的なものではなくて、常に拡大縮小、集中拡散、発展衰退等の変化の過程にあるものであるから、不動産の利用形態が最適なものであるかどうか、仮に現在最適なものであっても、時の経過に伴ってこれを持続できるかどうか、これらは常に検討されなければならない。したがって、不動産の価格(又は賃料)は、通常、過去と将来とにわたる長期的な考慮の下に形成される。今日の価格(又は賃料)は、昨日の展開であり、明日を反映するものであって常に変化の過程にあるものである。」(総論第1章 不動産の鑑定評価に関する基本的考察)

 地域の力や発展・衰退度合いは、土壌汚染調査の“副産物”としてではなく、将来を予測する重要な証拠として、鑑定評価書の中で検証されなければならないだろう。

 
 
 
 
 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

  ―平成23年4月27日号・完―  
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