週刊アクセス
 
 
平成24年3月7日 第617号
 
     
  今週のヘッドライン  
  株価鑑定は、「所詮、不確実性を免れない」
 −鑑定の目的に「不足のない」やり方を、その専門家が提示せよ
 
     
株価鑑定は、「所詮、不確実性を免れない」
 −鑑定の目的に「不足のない」やり方を、その専門家が提示せよ

   
 

いわせてんか! 今回は少し賃料を離れて、専門的分野に関する「鑑定」の意味合いについて司法の考え方が示された判例があるので紹介しておこう。

 平成24年2月29日最高裁二小決定
【株式買取価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件】(平成23(許)21)

以下は、この決定(株価算定)の裁判官・須藤正彦氏の補足意見である。

「…企業の客観的価値やその増加分を可及的に正確に認識しようとするために、財務数値や経営政策などを手がかりにしつつ様々なシミュレーションや条件を組み合わせることによる評価算定方法がこれまで考案され、また、実際にも用いられているところである。しかしながら、これらの評価算定方法は、いずれも専門的であって、到底平易なものとはいえず、裁判所自らが、上記のうちの何らかの方法を採用するなどして作業を行うことは、裁判所の性質、役割からしてもちろん不適切かつ非現実的であるし、また、専門家の鑑定によるということになればその費用は高額に達し、少なからぬ時間を要することにもなろう。のみならず、これらの評価算定方法も、所詮は不確定的な数値による予測等を基にするという性質は避けられず、不確実性を免れない。これらの点を考慮すると、少なくとも、買取価格の決定において、他に適切な評価方法があり、それで「公正な価格」を形成するに不足ないのであれば、それによることに加えてわざわざ上記の評価算定方法まで用いることは意味あることとは思われない。」(下線は、筆者。)

 株価の算定は、主に公認会計士が担当している。評価費用はかなりの高額であると聞き及んでいるが、以前の類似する「青色発光ダイオード」の特許権評価では、両当事者の私鑑定でマイナスと何十億円という、考えられないような評価差額が出ており、この不確実性(信頼性・適切性と言い換えても良いか。)と鑑定費用を天秤にかけると、須藤裁判官のご意見も出ようというものだ。
 本決定は、上場株式なので参照すべき市場株価が存在する。いつの時点を評価時点とするか、どのような市場株価の変動要因を評価に織り込むかは、ある程度わかりやすい簡易なルールがあったほうがいいのだろう。非上場株式でも、買取交渉の段階で当事者が鑑定を行っているなら、これをベースに裁判所が決定してもいいわけである。
 これらは、専ら「鑑定の目的」に拠っているといっていい。本件なら、適正な買取価格の折り合いがつかないので、裁判所の裁量によりこれを決定するため、費用と時間を節約しつつ、両当事者が折り合う価格を探すことが目的となる。視点を移すと、その目的にかなう鑑定のやり方を、担当する専門家が提示する必要がある。
 壮大な理論を駆使して、膨大な計算を解き、何百ページにわたる鑑定を書いたとしても、「所詮は不確定的な数値による予測等を基にするという性質は避けられず、不確実性を免れない」のである。目的の達成に「不足ないのであれば」、これが一番望まれることなのである。

 
 
 
 
 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

  ―平成24年3月7日号・完―  
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