週刊アクセス
 
 
平成24年5月30日 第629号
 
     
  今週のヘッドライン  
  最高裁判例は、困難な評価について“幅寄せ”してきている!
 −評価の専門家は、理論のみならず、判例の現実を見よ。
 
     
最高裁判例は、困難な評価について“幅寄せ”してきている!
 −評価の専門家は、理論のみならず、判例の現実を見よ。

  (判例タイムズNo.1369(2012.6.15)P128-)  
  最高裁第三小法廷H24.3.13判決「ライブドア虚偽記載による株式損害額」に関する解説から。
金融商品取引法21条の2第5項にいう「虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下り」の意義の判示

「…本判決は、(金融商品取引法21条の2)1項にいう「損害」が一般不法行為の規定と同様に、虚偽記載等と相当因果関係にある損害を全て含むとの解釈を示した上で、2項にいう「損害」についても、これと同様に虚偽記載等と相当因果関係のある損害を全て含むと解するのが相当であって、これを取得時差額に限定すべき理由はないとした。」(かっこは、筆者。以下、同様。)
「…あわせて、本判決は…2項の推定規定を用いずに、一般不法行為の規定に基づき、あるいは1項に基づき請求する場合についても、取得時差額に限らず虚偽記載等と相当因果関係にある損害の全てについて賠償を受けることができることを述べており、一般不法行為の規定と金商法21条の2各項とを整合的に解釈しようという姿勢がうかがわれる。」


いわせてんか!  

 粉飾決算(虚偽記載)をした株式を買い、そのウソがバレて株価は急落し、仕方なく売った。その損害を賠償しろと訴えたのがライブドア訴訟だ。
 学説・理論として、「取得時差額説」があり、これは、その株の取得時に「虚偽記載がなかったならば成立したであろう理論株価」と購入価額との差額が本来の損失とする。なぜなら、その後は一般的な経済変動や当該会社の個別的事情が加わり、虚偽記載だけの損害ではない、もしくはこれを分解するのが難しいから。
 一方で、実際に売った額がある。この「取得価額−売却価額」(=売却損)が一番わかりやすい損害だ。もうひとつの「相当因果関係説」は、この売却損から、虚偽記載と相当因果関係のある損害だけを抜き出そうとする。反対からいえば、相当因果関係のない値下り(例えば、一般的な経済変動や、業界動向など)は、損害額に含まれないとするのだ。
 この理屈が、金融商品取引法21条の2に書かれてある。同2項では、虚偽記載の公表日以降の下落がこれによる値下りと推定して、公表日前後1ヶ月の平均値の差額をその損害とみなす「推定規定」が置かれている。最高裁は、「相当因果関係説」に立ち、「取得時差額」に限定せず、関係のある損害は全て含むとした。
 これを根拠付ける理由として、一般不法行為(民法709条など)を持ち出して、株価損害という特殊な不法行為責任が、一般的な不法行為より受け取れる損害額が少ないとは立法趣旨を外れるとした。もうひとつ特徴的なことは、「○○説」などという学説を解説に使っていることである。
 これまでは、最高裁でこんな理由で学説が使われることはなかった。いわば最高裁の決め事が一番で、学説は基本的にお構いなし、とすることが多かった。しかし今回は、アメリカの証券取引法とその判例研究(証券取引法、現・金融商品取引法の理論ベースでもある。)をする法学者の論文を中心に、判示を組み立てている。いわば、“数字”“評価”の論拠を明確にした上で、法律解釈をしているのだ。
 ある時点における、ある会社の理論株価を評価することは、不動産の評価よりよほど難しい。DCF法ひとつとっても、事業計画や割引率をどうするのか、非常に曖昧だ。しかし、金商法の損害額は確定しないといけないし、同様の西武鉄道訴訟(最高裁第三小法廷H23.9.13)では、上記の「取得した株式の市場価額(に含まれる)経済情勢、市場動向、当該会社の業績等当該虚偽記載とは無関係な要因」は売却損から除外しなくてはならないけれども、「…算定すべき損害の額の立証は極めて困難であることが予想されるが、そのような場合には民訴法248条により相当な損害額を認定すべきである」として、きっちとした評価を求めている。
 裁判における損害額の認定など、資産評価が必要となる場面で、最近最高裁は、「評価前提」や「評価要因」を寄せていく態度を示している。混乱する経済訴訟、特に困難な評価を伴う訴訟に正面切って判決を出そうとしている。鑑定士や、株価評価を担当する会計士など評価の専門家は、ともすると、理論の上で様々な評価を展開する傾向がある。理屈が付けば、かなり広い幅の評価額が出てくるとなると、裁判で利害対立する当事者を納得させるだけの結果を導き出すことが、困難になる可能性がある。
 評価者は、このような最高裁の動向を注視するとともに、クライアントに対しては、自らの思惑にのみならず、裁判での“幅寄せ”の現状も説明しつつ、適切な評価を心がけないといけなくなったと感ずる。

 
 
 
 
 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

  ―平成24年5月30日号・完―  
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少し、蒸し暑くなってきました。
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