週刊アクセス
 
 
平成24年6月27日 第633号
 
     
  今週のヘッドライン  
  公共用地買収に関する最高裁判例で不動産鑑定が取り上げられる
 −ひとつの土地に、4人の鑑定士が出す鑑定評価額のレンジが10倍!?
 
     
公共用地買収に関する最高裁判例で不動産鑑定が取り上げられる
 −ひとつの土地に、4人の鑑定士が出す鑑定評価額のレンジが10倍!?

  (判例時報No.2148、H24.7.1号)  
  【最高裁判例要旨】(平成24年4月分)
 ◆ 公金違法支出損害賠償事件
   (平22(行ヒ)136号、平24・4・23二小判)
  【判決要旨】
「…(2)上記土地の売主が高額な代金額を要求した根拠は町の依頼した不動産鑑定士による鑑定評価額であり、町において中立的な専門家の関与なしに限られた期間内の当事者同士の交渉よって上記売主から代金額の大幅な引下げという譲歩を引き出すことができたか否かは必ずしも明らかではなく、町長と上記売主との交渉の具体的な内容や状況等の事情も原審では明らかにされていない。」(P145)



いわせてんか! 公共用地買収の際に町が発注した不動産鑑定に係る最高裁判例である。
 直接は、町長が浄水場用地を不当に高く購入し、町に適正価格との差額の損害を与えたとして町の住民が住民訴訟を起こしたものである。その購入価格の根拠が、町長が友人を介して町に紹介した不動産鑑定士の鑑定評価額であった。売主たる所有者は、当該土地を競売で落とした不動産業者であり、鑑定が出る以前に鑑定額の3分の1の価格で、町に買取を打診していたという、不思議な過程である。
 その後地裁は、住民側から雇われた鑑定士が書いた鑑定評価額を適正価格と認定し、これと売買価格との差額について、町長に対する損害賠償が認めたが、町長は控訴。その最終弁論直前に、町議会は、町の町長に対する損害賠償請求権を放棄する旨の決議をする(住民は、この決議の無効も訴えている。)。その根拠は、対象不動産の前面に付されている固定資産税の評価に利用する「路線価」であった。固定資産税の路線価からみれば、売買価格が適正価格であり、住民側の鑑定評価額のほうが著しく低額だというのである。
 本最高裁判決は、売買契約が締結された経緯などの事情について審理を尽くさせるべく、本件を原審に差し戻した。上記の過程の中で、公共用地買収の鑑定を行った不動産鑑定士の責任は重い。さらに、競売評価人、固定資産税評価人、住民側・私的鑑定人という合計4人の鑑定士が出現し、各々が専門家の意見・判断として決定した鑑定評価額は10倍もかい離しているという現実がある。最高裁が、その本文の中で「…一般に不動産鑑定の適否の判定は中立的な専門家の関与なしには困難である…」といわねばならなかった真意に、思いをいたさないといけない。
 なぜ、このようなかい離が生じているのか?
 不動産鑑定士は、土地評価の専門家・国家資格者として、裁判所並びに訴訟当事者に対して、また広く国民や企業に対して、納得のいく説明をしなければならない。
 
 
 
 
 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

  ―平成24年6月27日号・完―  
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