週刊アクセス
 
 
平成24年7月20日 第634号
 
     
  今週のヘッドライン  
  医療、建築、知財に続き、不動産鑑定にも「専門委員」制度の活用を!
 −継続賃料や立退料など、相対契約当事者の“利益”を調整する知見として
 
     
医療、建築、知財に続き、不動産鑑定にも「専門委員」制度の活用を!
 −継続賃料や立退料など、相対契約当事者の“利益”を調整する知見として

  (判例タイムズNo.1371、2012.7.15号)  
  「大阪地裁における専門委員と裁判官のパネルディスカッション
  -民事通常事件における専門委員制度の運用状況について-」(P4-)

 1 専門委員分野別員数
  (分野) (員数)
  医事関係   57
  建築関係   39
  知的財産権関係    0
  その他   19
   内訳  
    IT関係    5
    機械等関係    8
    不動産関係    4
    その他    2



いわせてんか! 医療過誤や建築瑕疵、近時の特許権等知的財産権の揉め事はとかく専門的で、鑑定を行っても、主要な争点の設定自体が難しく、訴訟当事者が私的に出した鑑定同士では折り合いが付かず、裁判所が選任する「中立的な」鑑定書でも、収まりが付かないことが多い。そこで、このような「専門的知見を要する訴訟」については、平成15年改正の民事訴訟法で、「専門委員」なる制度が定められた(民訴法92条の2〜7)。この制度は、様々な分野の専門家を訴訟に関与させ、専門的知見に基づく説明を受けることを可能とするもので、争点の整理や専門的事項の説明などを基礎として、裁判官及び訴訟当事者の理解を助け、公平な結果を生み出すツールとして期待されている。
 上記の引用は、大阪地裁の「専門委員検討プロジェクトチーム」が企画したパネルディスカッションの報告からであり、具体的事案と専門委員の関与の状況を説明し、案件に関与した専門委員と意見交換をしたものだ。ここでは、3つの典型的事案(医療、建築及び知財)以外の「民事通常事件」として、「IT関係」、「機械関係」、「土地境界紛争」、「建物賃貸借の原状回復費用関係」及び「建築設計関係」の事案を取り上げて、専門委員制度の広がる現状と内容検討を行っている。
 例えば、「土地境界紛争」では、土地家屋調査士が専門委員となり、筆界特定という難しい争点を処理する際、証拠として双方から出された地図等の図面の合理性、妥当性の検討、その際の作成基準たる座標の誤差の考え方を説明したとの事。また、土地の鑑定で欠かせない「現地検分」をわかりやすくするため、山の模型を作成して審理を進めたことなどが紹介されていた。利点として、「争点が絞られてくること」がメインで挙げられ、困難な点として「説明と意見の境目が難しい」と。
 翻って不動産鑑定の分野ではどうか?
 現在でも不動産鑑定士が、継続賃料や立退料など、相対訴訟当事者の契約上の利益を調整するような、「法」と「経済」が混じる分野では、多少は専門委員が採用されているようであるが、積極的に活用されているほどではない。確かに、上記のような、専門性が“非常に高い”分野とまではいかないので、鑑定で済んでいるとも考えられる。しかし、これまでもご紹介してきたように、継続賃料の「当事者契約事情」を総合的に考慮した「賃料増減額請求の当否」や「相当賃料額」をださねばならない裁判官としては、単に「適正賃料額」という、個別相対契約及びその事情経緯を全く考慮しない「市場賃料」やこれと折半したような「継続賃料」を鑑定されても、十分ではないという問題が出てきた。立退料も、「正当事由」の補完的要素として位置づけられ、単に立ち退きに伴う不随意の損失補填のみで判決が決まっていない現状からすると、立退料の鑑定だけで、うまいぐあいに訴訟が収まるのか(逆に、対立軸を増やしてしまわないのか?)という不安がある。
 これまで不動産鑑定士は、裁判から「適正賃料額(立退料)を鑑定せよ。」という、なんとも単純な鑑定事項のみで、“自由に”“身離れのいい”鑑定を出してきた。しかし、裁判での証拠能力が低い鑑定を出したのでは意味がない(必要がない)。不動産鑑定士も、専門委員の制度の中に積極的に入っていき、「法」と「経済」を峻別、融合するやり方を、裁判所の方々と作り上げていくことが求められていると感じる。

なお、専門委員制度については、同じく大阪地裁のプロジェクトメンバーが執筆した、林圭介「専門委員の関与のあり方-理論的考察と関与モデルの紹介-」(判例タイムズNo.1351(2011.9.15)、P4-)、徳岡由美子「専門的知見を要する訴訟における専門委員の活用についての考察」(民事訴訟雑誌57号(2011.3)、P197-)に詳しい。

 
 
 
 
 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

  ―平成24年7月25日号・完―  
 戻る  
     
 
アクセス鑑定『今日のおやつ
毎日、暑い日が続きます。熱中症には、くれぐれもお気をつけて。
毎日、暑い日が続きます。熱中症には、くれぐれもお気をつけて。