週刊アクセス
 
 
平成24年8月8日 第636号
 
     
  今週のヘッドライン  
  専門的知見を要する訴訟での「専門委員」の活用方法
 −裁判官や当事者を補助し、事案の見通しをつけることに貢献
 
     
専門的知見を要する訴訟での「専門委員」の活用方法
 −裁判官や当事者を補助し、事案の見通しをつけることに貢献

   
 

いわせてんか! 前回、『・・・賃料額決定要素に関する「争いのない事実」を確定する作業が必須となるのである。だから、鑑定士が「専門委員」となる必要性も高いのだ。』と述べたが、これはあくまで、裁判官が「争いのない事実」を心証として確定していく過程を補助していく、ということである。この点につき、以前ご案内した論文、大阪地裁判事・徳岡由美子氏「専門的知見を要する訴訟における専門委員の活用についての考察」(民事訴訟雑誌57号(2011.3)、P197-)から引用してみよう。
 徳岡裁判官は、医事事件における専門委員の活用について、その大部分を占める争点整理段階での専門委員の関与につき「・・・当事者双方の主張が一通り出された段階で、事案の見通しを付け、補充の主張立証や人証の取調べ、さらにその先には鑑定が必要となるのか、あるいは和解の可能性があるのかといった、今後の進行を見極めるための前提となる専門的事項についての助言を得るために、専門委員に説明していただくという活用方法に力を入れて実践している・・・(事案の見通しを付けるための関与)」(P197-198)と総括する。
 まず、専門委員に説明を求める事項の分析として、杉山悦子教授の「民事訴訟と専門家」(有斐閣、2007、P351以下)を引用し、以下の如く整理される。

 I 争いのある事実の推論
   他の事実や証拠調べの結果等から事実を推論するために、裁判所が適用すべき専門的経験則を提供する
  I-1 専門的経験則を一般的・抽象的に提供
  I-2 専門的経験則を事実に適用した推論結果を報告
  I-3 専門知識を用いて実験・調査

 II 専門的経験則の適用
   Iより広い意味での専門的経験則を適用
  II-1 専門用語や当事者の主張の意味の説明(理解補助型)
  II-2 複数の専門家の見解のうちどの見解が広く受け入れられているか、どの見解を採用するといかなる結論に至るか、及び、証拠の証明力についての意見陳述(判断補助型)

 鑑定との違いについては、鑑定が「争点に対する判断(意見)を求め、これによって心証を採る」もので、専門委員制度はあくまで「事案の見通しを付けるための関与」で、「裁判所も当事者双方も専門委員の説明に縛られず、最終的な心証を採ることは想定していない」とする。ただ、専門委員も価値判断の入った「評価的説明」に踏み込む場合はあり、峻別は難しい。
 具体的な関与の実態は、当事者双方が説明して欲しい事項があれば裁判所に文書提出し、協議の上、裁判所が専門委員に送る。委員は、説明の要点を記載した書面を事前に提出し、裁判所は当事者双方へ交付する。その上で、弁論準備手続期日当日には、委員の回答書面を前提に質疑応答や裁判所の補充質問、当事者の意見陳述の機会を設ける、といったものだ。
 また、今後の委員活用の課題として、特殊分野についてポイント的な任命をしたり、説明会方式(知財事件で既に採用。当事者双方にまず技術的事項を説明させ、これに専門委員の疑問を投げかけ、自由に意見交換するもの。)で関与させたりするものがあるという。
 徳岡裁判官は、代理人の専門性や経験不足の例を挙げて、当事者の主張・立証が不十分な場合、専門委員が関与して、裁判所がそれを踏まえて、それまでの主張・立証を再検討したり、補充させたりすることを促すといった、積極的活用も提案される。
 不動産鑑定の継続賃料に当てはめると、当初契約における明確な合意が何だったのか、特に、当初の合意賃料や賃料改定特約を決定した要素(賃料額決定要素)が何だったのかが、それまでの当事者双方の主張・立証では不明確な場合、これを明確にする証拠資料や裏づけを出すよう促す、その時代の賃料相場や一時金相場、標準的な契約形態などとの比較ではどうあったのかの市場根拠を説明するなどの活用法があるだろう。一方で、当事者双方の私的鑑定でも、上記のような「当事者契約事情」を鑑定書の要因分析で、もしくは、別紙で根拠付けるなら、争点がしっかり見えてくるようにも思われる。
 議論の多い継続賃料、特に最高裁まで至るような、特殊な賃貸借契約の場合は、専門委員と鑑定の“折衷的な”専門家(鑑定士)の関与形態があっていいようにも感じられる。また、鑑定基準やガイドラインを充実させ、必須となる「当事者契約事情分析」を必要的記載事項とすることも、一考に価するのではないか。

 
 
 
 
 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

  ―平成24年8月8日号・完―  
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お盆が近くなると、少し、朝夕が涼しくなってきますね。
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