週刊アクセス
 
 
平成24年12月5日 第646号
 
     
  今週のヘッドライン  
  契約時点の「力関係」は、主に立地の強さによる
 −家主とテナントの綱引き・・・どっちが“お願い”するか?
 
     
契約時点の「力関係」は、主に立地の強さによる
 −家主とテナントの綱引き・・・どっちが“お願い”するか?

   
 

いわせてんか!  先日、鑑定士会の調査研究で、ショッピングセンター(SC)の運営者の方々のお話を聴く機会があり、これまで議論した「契約当初における契約条件の決定過程」、すなわち、貸主と借主の契約条件交渉のいきさつの現状をちょっと垣間見ることができた。
 要点は、「立地の強さ」である。
 ある運営者の方のお話で、集客力の高い主要駅近くのSCと、郊外で競争の激しいSCを比較した場合、前者と後者の募集条件は異なり、当然のことながら、前者が“強気”、後者が“弱気”となる。契約形態であれば、前者が「定期借家」「最低保証付歩合賃料」であるのに対し、後者は「普通借家」「固定賃料」となる。たとえば、ナショナルチェーンなどの同一テナントが、同一時期に両SCに入るような場合は、テナント業種・業態は全く同一にもかかわらず、賃貸借契約、契約賃料、賃料改定ルールとも全く異なる場合があるのである。
 「立地の強さ」は、物理的な位置のみならず、自ら売上げを創造するSCなど“館”の巧拙にもよる。つまり、多数の業種によるテナントミックスを最適化するリーシング、背後人口の質・量からくる顧客ニーズの変化に柔軟に対応するテナント入替やリニューアルがきちんと実施できているSCなのかどうかも、大きく質的な“立地”に影響を及ぼす。すなわち、テナント企業としては、自社の売上げを“最大化する”立地に出店したいのだ。結果、立地に優るSCは“強気”で、テナントを選別、契約条件もこちらのまま提示できる。一方、立地に劣るSCは“弱気”で、テナントの引きとめ、契約条件も最大限テナント要求を呑まざるを得ない。前者ではテナントが出店を“お願い”し、逆に後者では、SCがテナントに出店・残留を“お願い”することになる。
 先ほどのナショナルチェーンの例では、“江戸の敵は長崎で”とばかり、強いSCに出店させる代わりに、弱いSC2店に出店しろ、などという“バーター契約”もあるという。こうなると、個別の賃貸借契約の契約事情を十分に分析しても足りない…という場合も出てくる!
 前回まで、個別契約の特殊性を明らかにするために、契約もしくは直近合意賃料時点での賃貸借市場や業界市場動向における標準的な契約形態や契約条件をベンチマークとして確定し、これとのかい離や差異を分析する必要があると述べたが、同一時点でも、上記「立地」優位性の多寡、それも、個別のSC等地域・個別要因も含めて分析しないと、これらの標準性を確定できない。その意味で、業界市場分析に加えて、対象不動産(SC)が存する地域の商圏分析、対象SC自体の来客数・総売り上げなどの地域要因や建物個別要因、その中での対象不動産(対象店舗)の個別売上げという背景事情の分析を実施し、当初契約や直近合意賃料時点の契約の個別性・特殊性を判断する必要があるといえる。
 さように、賃貸借契約はダイナミックだ。単純に“高い、安い”と語れないところが、継続賃料の難しさである。
 
 
 
 
 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

  ―平成24年12月5日号・完―  
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