週刊アクセス
 
 
平成24年12月26日 第649号
 
     
  今週のヘッドライン  
  様々な要因からなる「株価の値下り」を分解できるか?
 −評価すべき要因・事実は、欠落することなく考慮すべし、と最高裁
 
     
様々な要因からなる「株価の値下り」を分解できるか?
 −評価すべき要因・事実は、欠落することなく考慮すべし、と最高裁

  (最高裁HP、H24.12.21)  
  平成24年12月21日最高裁二小判決
【再生債権査定異議控訴事件】(平成23(受)392)(破棄差戻し)

「…金商法21条の2第4項及び5項にいう『虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り』とは,当該虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりをいうものと解するのが相当である(最高裁平成22年(受)第755号ないし第759号同24年3月13日第三小法廷判決・民集66巻5号1957頁参照)。」
「…これをまず本件公表日後1箇月間のY株の値動きについてみると,本件公表日においては,本件虚偽記載等の事実とともに,本件再生申立ての事実についても公表されていることに照らすと,本件公表日後のY株の値下がりは,上記両事実があいまって生じたものとみるのが相当である。」
「…そして,ほかに本件再生申立てによるY株の値下がりが本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりであると評価すべき事情は見当たらない。」


いわせてんか!  前はライブドア(最判H24.3.13、上記引用判例。)、最近はオリンパスなど、粉飾決算などの財務諸表等の虚偽記載による株価の下落で損害を被った株主からの損害賠償。この21日には、最高裁第二小法廷から、CB発行により調達した資金をスワップ契約という将来変動リスクの高い金融取引に回したにもかかわらず、これを「短期借入金等の債務返済に充てる」とウソの報告をした不動産コンサル会社が、その後すぐに更生申し立てした件に対する判決が出た。最高裁は、控訴審が、当該会社が同日で虚偽記載の事実の公表と更生手続き開始の申立をした以後値下りした株価全てを損害と認定したことを否定し、損害額を算定しなおすように差し戻した。
 要点は、金融商品取引法21条の2・4項及び5項にある。つまり、スワップ契約を隠したという虚偽記載という事実と、更生申立ての事実とが同日で起こっており、後者の事実公表による市場株価の値下りは、同法による損害から控除しなければならない、としたのである。
 これは、資産評価の観点から見ると、大変困難な要因分解を行え、ということだ。資産の価格は大きく3つ、一般的な経済情勢など「一般的要因」、株式市場や個別業界の市場動向など「市場(地域)要因」、そして当該会社の業績等「個別的要因」に影響を受ける。上記判示は、いずれも上記会社の「個別的要因」を取り上げ、その株価に及ぼす影響のウエイトを判定する必要を訴える。
 ちなみに、一般的要因である当時の経済情勢及び金融取引の市場要因については、「…平成19年末頃から継続していた金融機関の融資姿勢の厳格化等に伴う資金繰りの悪化」と述べ、サブプライム後、リーマンショック前までの、特に不動産投資市場についてのマイナス要因を認定している。
 上場株式の市場株価は、刻一刻、上記のような種々の要因によって変動する。株価の値下りが、本件虚偽記載という事実によるのか、更生申立ての事実によるのか、はたまた一般的な経済情勢、すなわち、冷え込みつつあった不動産投資市場の反映であるのか…。評価者は、なやみどころである。
 また、最高裁は金融商品取引法21条の2・2項の適用について、原審が「公表日前」に「公表日」を含んだこと、市場が開かれていない日曜日を含んだことを、明らかな法令違反と咎めた。要因の市場株価反映が「刻一刻」であることを知っていれば、法令解釈で“たった一日”が重大な要因欠落になることを考慮しないはずがない。その意味で、原審の判事は“評価者”の資質として疑問がある。反対に、最高裁は、評価者として全うな判断をしてくれている。
 最後に、「…本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりであると評価すべき事情…」を重視したい。“評価すべき事情(要因及び事実)”は、全て考慮しないといけない。評価をする際、欠落してはいけないということになる。

 
 
 
 
 ※「いわせてんか」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

  ―平成24年12月26日号・完―  
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今年もあと一週間。仕事、お掃除・・・何かと大変ですね。
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