特集  
     
  このレポートは、社団法人日本住宅協会「住宅」Vol.48.1999.3に掲載されたものでご紹介します。
 
     
  リバースモーゲージ制度の問題点と解決方法について  
     
  (社)大阪府不動産鑑定士協会
調査研究委員長 松 永  明
 
     
  はじめに
わが国の65歳以上の高齢者人口は、「人口推計」(総務庁)によれば、平成9年6月に14歳以下の年少人口を上回り、10年2月には2千万人を超えるなど増加の一途にある。また、「国民生活基礎調査」(厚生省)をみると、公的年金・恩給受給高齢者世帯のうち、これらの総所得に占める割合が100%となっている世帯は半数を超え、60%以上となっている世帯まで加えると4分の3近くなっている。さらに、「貯蓄動向調査」(総務庁)では、60歳以上の世帯主で3千万円以上の貯蓄を保有する世帯が全体の4分の1を占めている一方で6百万円未満も5分の1を占め、貯蓄現在高の世帯間の散らばりが大きい。 いわゆる"団塊の世代"が高齢者となる2020年代にこれらの数値はピークとなっていくが、少子化・超高齢化社会をむかえていかなる福祉政策がなされていくのか、これまでにない時代を迎えようとしている。
従来の福祉対策だけでは到底対応できないだろうし、対応できるとすれば若い世代の負担が増すばかりとなる。そこで昨今注目されてきたのがリバースモーゲージ制度である。
この制度は、住宅を持つ高齢者にその家を担保に老後の生活費などを借り入れ、死後に不動産を売却して清算する仕組みであり、手持ちのお金が少ないお年寄りでも、家があれば住宅と生活費とが同時に確保できるメリットがある。年金制度改革では公的年金の給付額が減るのは避けられない見通しで、高齢者がその収入減を補うのに有効な制度といえる。
しかし、現在わが国では武蔵野市を皮切り(1981年)に17の地方自治体と民間金融機関が導入しているものの、その利用者は全公的機関で100事例にも達していない。その原因としてこの制度の普及しにくい問題点があるためで、自治体等の融資者側の"リスク"と利用者側の"迷い"が根底にある。
そこで、リバースモーゲージ制度の概要とその導入の必要性、さらに問題点を整理し、その問題点をどうすれば解決し、普及させることができるのかを不動産鑑定士の立場で明らかにしたい。

 
  1.リバースモーゲージ制度の概要
リバースモーゲージとは、高齢の持ち家所有者がゆとりある生活をしていく上での自助努力方法の一つで、現状のまま自宅に住み続け生活環境をかえることなく、その資産価値(ストック)を少しずつ現金(フロー)化していく方法である。原則的には、自己の住居に生涯住み続けることができるが、子孫に住居を残すことはできないことを前提としたものであり、高齢者が、―衢不動産を担保にして、貸付金を定期的に受け取り、B濾婀間終了後、または死亡・転居などで融資が不要となった後、その担保不動産を処分し、売却金によって融資返済を一括して行うというものである。
住宅ローンは、住宅購入を目的とし、契約時に一括融資し、返済は融資期間中に元利合計を分割返済するもので、契約終了時には、負債がなくなり不動産の資産価値が残る。
一方、リバースモーゲージは、月々の収入の増加を目的として月払いで融資を受け、契約終了時に元利合計を一括返済するもので、契約終了時には負債が大きく、不動産の資産価値は無いか著しく低くなる。
住宅ローンがフォワードモーゲージと称するならば、その逆ローンという意味でリバースモーゲージといわれる。図に示すと次のようになる。

日本では、公的機関ではじめて導入した武蔵野市の直接融資方式と世田谷区他の間接融資方式(金融機関に融資をあっせんする)があり、最近では神戸市が住宅再建のためのフォワードモーゲージとのミックス版も導入され現在17の自治体が行っている。 民間では、信託銀行が遺言信託との組み合わせで行っている。
国の機関においてもこの制度について、総務庁は高齢社会対策要綱に〃兮蓋柩儉公的介護リバースモーゲージを掲げ、建設省は住宅生活ビジョン21で、厚生省も年金福祉事業団で研究会を設立して方策を検討している。 諸外国では、最も古くからこの制度があるフランスの"ビアジェ"が有名である。ビアジェとは売り主が死ぬまでその不動産の売買代金を延べ払いで受け取る条件で自分の不動産を売却する契約で、個人間で契約するケースが多く、ローマ時代からあってその普及率も高い。また、ビアジェは、売り主が売った家に死ぬまで住む権利を有するものと買い主に明け渡して自分は老人ホーム等に移る売買形態とがある。
また、アメリカでは、"HUD−HECM"(ハッドヘコム)型と呼ばれる住宅都市開発省が運営するものと"FNMA"(ファニィメイ)型と呼ばれる半官半民の金融機関が行うものとあり、どちらも実際に融資を行うところは民間企業でその不動産の査定のもとに貸し出しを行う。
さらにスペインでは"レンタ ビタリシア"と呼ばれ、保険会社が主体となって行う終身年金制度があり年間20件程度の利用がある。

 
  2.リバースモーゲージ導入の必要性
さて、我々が高齢者になって"終の棲家"を求めるとき、いくつかの選択肢がある。もちろん住み慣れた自分の家で家族とともに暮らすことがベストではあるが、いつまでも健康体とは限らず、収入も限られてくると、"家はあっても金がない"状況では介護の問題を含め不安感だけが募ってしまう。
では、今の家を売って老人ホームへ入所すればどうだろう。日常的に介護を受けられるという点では良いが、共同生活的なことが苦手な老人には集団の中の孤独感を味わうことにもなる。それでは最近増えている高級有料老人ホームはどうか。完全個室となって一見ホテル並みのロビーをもつ大阪のある施設の例をあげると、自立生活可能な人を対象にし、1LDKで入居金4350万〜8730万円、管理費と食事代が月約15万円、通常の介護費用は含まれるが、寝たきりになれば別の完全介護の有料老人ホームに移される。ここは平成3年開設し、現在満室で順番待ちの状態である。
また、入居費用は、3000万円前後と比較的安いが、月額30万円を超える生活費と介護費用がかかる有料老人ホームもある。 さらに、公費の補助が受けられる軽費老人ホームもあるが収入により自己負担も異なり、施設数に限りがあって入りたい時に入れない状況である。
その他各種様々な老人ホームがあるが、そのいずれもが費用面、設備面、介護面、戸数等に一長一短があって選択および入居が難しい状況である。
厚生省は平成12年4月より介護保険制度を導入し、認定機関が要介護者を5段階程度に分けてその要介護度を認定し、自宅で必要な介護を受けられるとするものであるが、認定の判断基準が難しく保険適用外の部分は全額自己負担として重くのしかかる。 こういった状況の中で、住み慣れた自宅に住み続けながら、厚生年金等の収入の外に、自宅の資産価値を活用して終身定期金の形で生涯年金を受けることができるリバースモーゲージ制度は選択肢の一つとして大いに活用されるべきで今後ますます必要性は高まっていくと思われる。

 
  3.リバースモーゲージの問題点
リバースモーゲージ制度はこれまでアメリカやフランスでかなり普及しているもののわが国においてはその普及の程度は極めて少ない状況である。
それは欧米では個人主義や合理主義が徹底しており自分の財産は自分で使い、子供に老後の面倒をみてもらうという考え方がそもそもないために、持ち家を現金化して生活費用等を捻出するための一手段としてこの制度を認識しているのに対し、日本では子供が親の面倒をみるのが当然という道徳観があり、その結果、"親の家を継ぐ"ということにもなり、自分のために家を担保に生活資金を調達するという考え方は浸透していない点が根底にある。
しかし、昨今総サラリーマン化傾向になってこの考え方にも変化がみられ、"団塊の世代は、親の面倒をみる最後の世代であり、子供に面倒をみてもらえない最初の親となる"といわれるように"家"が単なる財産の一つという見方が一般的となってきた。
欧米間との精神論の相違はともかく、この制度には、契約当事者双方にとって様々な問題点を抱えている。
  1. 融資者側の問題点
     
    1. 長命リスク
      この制度を利用できる人は65歳以上の人を対象とし、平均余命を前提に終身定額の給付を受けるが、長生きした場合に給付打切りをしなければ債務超過となり担保割れをおこす。  
    2. 金利上昇リスク
      採用される金利は経済情勢の変化とともに常に変動する傾向をもっており、契約後、金利上昇すれば担保割れをおこす。  
    3. 不動産価格下落リスク
      バブル経済崩壊後、不動産価格は7年以上にわたり下落傾向を続け、金融システムが崩壊、不良債権の処理が遅々として進んでおらず予断を許さない状況であり、余命20年を前提とした20年後の不動産価格がどのように推移するのかは誰にもわからないため担保割れをおこす可能性がある。
    4. 資金調達の困難性 利用者が死亡するまで長期間にわたり融資するため、急激に普及した場合、融資機関は資金調達をどうするのか。この場合一つの地方自治体では対応できないであろう。
  2. 利用者側の問題点
    1. 融資打切りのケース
      担保割れが生じた場合、利用者は融資を打ち切られる懸念がある。
    2. 建物価値なし
      20年後の建物価値は一般不動産市場ではほぼ価値なしとなるため、土地の価値のみで利用者はわりきれないものを感じる。
    3. 最低担保額3000万円以上
      利用する担保提供不動産が3000万円以上とハードルが高く、さらに評価額の50%程度の掛目で融資限度額が決まり、マンションは適用外となっており利用できる範囲が限定される。
    4. 早死リスク
      契約後、病気・事故等で早くなくなれば、相続人への清算が問題となる。
    5. 利用者の相続人との関係その他※1
      物件の所有権移転や資金受領権の相続性がない。
 
 
※1 このほかに遺留分減殺請求との関係、利用者の身分関係(離婚、単身者の結婚)、利用者の能力喪失(契約後に判断、了解を求める場合、受益権の受領能力)、利用者の破産、資金提供者の破産、公用収用、人災・天災の対応等がある。これらの問題は、利用者と相続人との間でこの制度を利用する場合の阻害要因となっている。

 
  4.普及させるための解決策
このように精神的、社会的、経済的、法的、あるいは税務上の諸問題を克服しないとこの制度はわが国では一般に普及していかないのか。
これらの諸問題に対する解決策について私見を述べたい。
  1. 国家プロジェクトとして推進

    この制度は、当初において多額の事業資金を必要とし、そのための財源として厚生年金・国民年金の積立金(現在約130兆円)を原資として充てる。やがて15年〜20年後には担保不動産が流動化しはじめ融資総額が一定化していくであろう。そうすれば2020年をピークに必要としていた高齢者対策用の公的施設等のハード面にかける拠出金が最小限度で済み、その後それらの諸施設が余ってくるであろう事態を未然に防ぐことができるし、この制度の普及により、高齢者は自立型の暮らしができると同時に若い世代が過負担となるはずの年金が逆に軽くなるかもしれない。
    また、この制度がうまく事業化していけば民間機関へのビジネスチャンスへと移行していく可能性もある。さらに、前述のリスクのうち長命リスクは大数法則の結果、淘汰される。
    なお、この制度は、持ち家者に対する優遇策とされのではないかとの懸念が行政側にあるかもしれない。しかし、短期的にはそういう見方もできるが、中長期的にみればむしろ逆である。国家的プロジェクトとしてリバースモーゲージを推進することでこのような自立型生涯設計が確立してゆけば、高齢者対策資金の一部を福祉対策費用として障害者をもつ家族への施策に応用できる外、働きざかりの年齢層に対してはより安く質の良い特優賃住宅等への提供を促進できるのではないか。

  2. リバースモーゲージ適格住宅の推進

    本制度の仕組みでは、20年後の売却価値を前提に不動産の評価を行うため、20年間使用された時点での建物価値は0とするのは当然かもしれない。
    このことは住宅に対する認識の低さと土地価格の高騰によるもので、平均的サラリーマンが買える住宅の総額が概ね一定しているため、時代とともに土地を狭くし、建物の品等を落として総額を抑えてきた結果、建物については築後10年で半値、20年でほぼ価値0というような不動産市場が形成されてしまった。
    そこで、これからは"リバースモーゲージ適格住宅"なるものを認定し、適格住宅の場合は建物価値を認めるのはどうか。
    この適格住宅は、高齢者や障害者が暮らしやすい住宅を目途として[1]バリアフリー、家庭用エレベーターの設置等の設備完備[2]耐震構造で耐用年数が50年〜100年持ち、[3]さらにリフォームすればそれ以上に使える等の基準を設けて建物価値を認める。無駄な建物取壊しをなくし、材木等の伐採による自然破壊も最小限にくい止めることができるであろう。このような建物は技術的にはもちろん可能であり、違法建築や劣悪住宅を減少させ住宅政策上有効な手段と考える。
    建築コストは通常より高くなるがローンの支払い完了後、この制度を活用すれば住みながら生活資金の提供を受けるため、費用を出すメリットがあるのではないか。
    この場合、利用者は維持管理費を支払い、融資者側が定期的に維持管理修繕を行うという仕組みをつくることも重要であろう。

  3. 不動産の適正な評価システムの確立

    不動産は生命の次に大切な財産であり、リスクの問題や利用者の意志決定も適正な不動産価格に委ねられているといっても過言ではない。
    日本では不動産鑑定士による適正評価に基づいているが、問題はその評価額に対して融資限度(掛目)が50%とか、新築間もない建物でも価値0とみられるのが利用者側には納得しにくいし、融資者側も十分な説明ができていない。たとえば、契約時点の適正な土地価格が5000万円とすれば、月々13.7万円の持家年金額が給付されるケースと先ほどの適格建物認定のケースを考える。
    <20年後の土地売却価値の現在価値と手取額の算定>
    土地: 現在価値5000万円、平均年間1%の地価上昇とし、20年後の価格を求める。
      5000万円×(1+0.01)20=6100万円
    20年後の売却価格の現在価値(長期金利平均4%とする)
      6100万円×1/(1+0.04)20=2780万円 (55.6%)
    建物: 現在価値3000万円、残存期間25年とし、定額法で20年後の価格を求める。
      3000万円×5/25=600万円
    20年後の売却価格の現在価値(長期金利平均4%とする)
      600万円×1/(1+0.04)20=274万円 (9.1%)
    ただし、適切な維持管理を行っていることが前提で、実際は市場価値なし
    手取り: 上記資産に対してこの制度を利用し、土地の手取額を求める。
    償還基金率適用
    6100万円×0.04/((1+0.04)20-1)=205万円(月額17.1万円)
    これに、手数料、税額、リスクヘッジに対する保険料その他控除すべき費用項目を20%程度と査定すれば、164万円(月額13.7万円)となる。
    <適格建物認定の場合の手取額の算定>
    建物: 現在価値3000万円、残存期間60年とし、定額法で20年後の価格を求める。
      3000万円×40/60=2000万円
    20年後の売却価格の現在価値(長期金利平均4%とする)
      2000万円×1/(1+0.04)20=913万円 (30.4%)
    手取り: 上記資産に対してこの制度を利用し、建物価値に対する手取額を求める。
    償還基金率適用
          2000万円×0.04/((1+0.04)20―1)=67万円(月額5.6万円)
    これに、手数料、維持管理費、税額、リスクヘッジに対する保険料その他控除すべき費用項目を25%程度と査定すれば、50万円(月額4.2万円)となる。

    変数は経済情勢とともに変化し予測しにくいが、基本的には上記のようになるであろう。また、リバースモーゲージ適格住宅の場合、資産価値が認められるため、手取額は相当上積みされる。
    今後、双方が納得いく評価スキーム※2を確立していくことが必要である。
    ※2 評価スキームについては、(社)大阪府不動産鑑定士協会 調査研究委員会第3小委員会で現在検討中で、平成11年5月を目途に報告書をまとめる予定です。

  4. リスク保険の設置

    アメリカでは長命リスクだけは、ある程度の母集団が集まれば保険の論理で回避していけるため、これを民間の保険会社に引き受けさせている。不動産下落リスクと金利リスクは民間では無理な部分があるためFNMAが負う仕組みをとっている。
    日本も導入にあたっては、国と保険会社がバックアップしてこの制度のリスクヘッジをすべきであり、利用者が月々受け取る生活資金の中から保険料を支払う仕組みをつくる。
    不動産下落リスクと金利リスクについては、この制度の中の問題だけではなくわが国の経済政策の結果であり、やはり国の機関にてカバーすべきであろう。

 
  終わりに
これまでは平均的なサラリーマンのライフサイクルは、20歳前後から社会に出て、40歳代後半から50歳代で子供を社会に送り出し、住宅を取得したものはローンの支払いを済ませ、60歳から65歳で定年を迎える。子供の養育費・教育費・住宅ローンの支払いなどで定年後は"家はあるが金がない"状態である。今後は年金受取額も減少することがわかっており、老後への不安は募るばかりである。
しかし、この制度普及後のライフサイクルを考えると、たとえば働いている期間は公営や民間の賃貸住宅を借り、定年前後にリバースモーゲージ適格住宅をそれまで貯めてきた預貯金で一括購入し、リバースモーゲージ制度を活用して年金の割増しを受け、充実した老後を送るライフプランも登場するであろう。
この制度が普及するためには融資機関と利用者とのコンセンサスを十分得る必要があり、制度そのものは良くても個々の認識の違いでトラブルが発生することも考えられる。しかしながら欧米で数多くの実績があり、わが国においても積極的に推進すべき制度で、年金制度改革、介護保険制度、成年後見制度、不動産証券化、情報通信の発達等、このリバースモーゲージ制度に向け追い風となっている今、広く普及しなければならない時代に入ったといえるのではないだろうか。
 
     
 
参考図書: 「リバースモーゲージ」 日経BP社
「日本版リバースモーゲージの実際知識」  東洋経済新報社
「高齢社会における資産活用の方向(平成8年4月)」 (財)日本住宅総合センター
「不動産鑑定1999 2月号」  住宅新報社
 
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