特集5
 
     
  「鑑定業 守るか?攻めるか?!」
    〜不動産鑑定の“これから”を模索する〜
 
   
(イントロ)

 昨今の経済情勢と情報革命をベースとした変革の流れはとどまることを知らない。
 弁護士、会計士といった、“士(さむらい)業”と呼ばれる専門職業家集団もその例外ではない。今や、説明責任やグローバルスタンダードといった御旗の下、従来「ブラックボックス」化していた部分が徐々に開示され、構造的な問題も含め、その責任に対する厳格な対応を迫られている。
 不動産鑑定士等の“鑑定業”も、その渦中にある。
 そこで、今回は“いわせてんか!”の拡大版として、表題のコラムを特集した。
 鑑定業の“いままで”と“これから”を、各執筆担当者の視点に基づいて探ってみることにする。
 
 
第一弾

鑑定士に求められるフィールドは無限にある

不動産鑑定士の存在意義と今後の歩み

他士業との垣根を低くし、発展的提携を模索する
〜会計業界における“時価会計”の場合〜


 
     
鑑定士に求められるフィールドは無限にある
 
いわせてんか! 当欄既報平成14年3月27日号でもお伝えしたとおり2002年の地価公示価格が3月27日発表となった。
 急速に展開する不動産の金融化に伴い、一部からはキャッシュフローを生み出さない更地の価値はゼロであるとか不動産の価値は収益性によってのみ決定されるものであり、収益還元法による価格のみが適切である云々ということも喧伝され、地価公示についても、土地だけの価値を求めても意味がないとか、官主導の政策地価であるという批判も耳にする。
 しかし、土地が全ての経済活動の礎であり、公的機関が不動産を客体とし課税する以上、何らかの“ものさし”は必要となり、全国30,000ポイント以上を同一時点で定点観測する地価公示制度は必要な制度であり、有益なデータであることを認識すべきである。
 では、鑑定士は役所の御用聞きみたいな評価のみしていたらいいのかといえばそうではない。
 不動産の正常価格を把握する市場代行機能としての役割、もしくは中立な第三者であるjudgeとしての役割は国家資格者たる不動産鑑定士がこれまでも担ってきたし、これからも担っていくべきであるが、「正常価格」という枠や「国家資格者」という枠に囚われているだけではいつまでも単なる鑑定書発行機関のままである。
 鑑定士が必要とされる局面は様々である。生き残るためには、judgeとしての機能以外にも、いくつかの機能を併せ持つ必要がある。また、生きた情報の収集能力及び仕入れた情報を分析・解釈する能力が、必要とされる重要な要素となろう。
 鑑定士に求められるフィールドは無限にあると思う。そしてその要求に応えるためには個々の鑑定士が自己研鑽に励み、能力を高める必要がある。狭い業界内で既得権益を守るだけの姿勢ではただのハンコつき屋で終わってしまう。





不動産鑑定士の存在意義と今後の歩み
 
いわせてんか! NPO 日本建物鑑定協会ホームページ 〜提案より

弁護士のみなさんへ
 協会では、裁判所、税務署等へ提出するための「建物鑑定書」(従来の不 動産鑑定書と同意義とお考えください.建物を重視する結果、このような名 称を使用しています.)を作成しています。建物に関する知識の乏しい不動 産鑑定士には作成できない、協会独自の手法による鑑定書です。地裁ですが、 すでに裁判所により採用された実績があり、不動産の相続税評価額減額につ いて国税当局の説得に成功しています。ご相談は、相談窓口のフォームをご 利用ください。

税理士・公認会計士のみなさんへ
 協会では、時価会計に対応した「建物鑑定書」(従来の不動産鑑定書と同 意義とお考えください.建物を重視する結果、このような名称を使用してい ます.)を作成しています。建物に関する知識の乏しい不動産鑑定士には作 成できない、協会独自の手法による鑑定書です。「建物鑑定」の普及にご協 力ください。ご相談は、相談窓口のフォームをご利用ください。

 上記記事の如く、遅ればせながら、他業種からの不動産鑑定業界への圧力が強くなり、不動産鑑定士自体の存在意義が問われている。
 不動産鑑定士って一体なに?
 不動産鑑定士は不動産の専門家?
 これらの質問は現状ではかなりタイトな質問である。上記記事も不動産鑑定士に対する強い要望の裏返しととらえるべきであろう。
 そこで、不動産とは何か、不動産鑑定士は不動産の専門家であるのか、との疑問に関し、原点に立ち戻ってみる。

 いわゆる不動産鑑定評価基準によれば、「不動産は、通常、土地とその定着物をいう」と定義され、「不動産の鑑定評価とは、不動産の価格に関する専門家の判断であり、意見であるといってよいであろう」、と記されている。また、「不動産鑑定士等は、不動産の鑑定評価を担当する者として、十分に能力のある専門家としての地位を不動産の鑑定評価に関する法律によって認められ付与されるものである」と明記され、法律上、その地位を保護されている。
 要するに、不動産鑑定士は不動産(当然土地のみではない)の価格に関する専門家と位置づけされているにすぎず、従来は価格を求めることが主な業務となっていたのである。
 しかし、上記記事の如く、その存在意義に警鐘が鳴らされている。
 そこで、不動産鑑定士は不動産の価格の専門家ゆえ、今後守るべきかまたは攻めるべきか模索する。

守る!
 守るとは不動産の価格に関する専門家を追求することである。
 いわゆる公的評価とされる、地価公示、都道府県地価調査、相続税路線価等の土地評価がメインとなる。たしかに、情報公開を初めとする規制緩和、インターネットの発達等により、土地等の価格の情報は、巷に溢れ、専門家でなくても、ある程度の価格予想が可能になっているのも事実であろう。しかし、市場参加者が、指標にするであろう何か(例えば相続税路線価等)は不動産の鑑定評価額をベースとしていることも事実で、これをなくしては、土地等の適正な価格の形成はあり得ない。
 また、土地等の取引価格等にはあらゆる事情が内包されており、相対的に価格が定まるものであり、時代背景にながされず、利害関係がない第三者的な立場で公平に土地等を評価するいというの不動産鑑定士等にしか成し得ないことである。
 したがって、今後は、既存の公的評価の精度を高め、さらにプラスして、民間市場を新規開拓し、上記の立場だから可能な鑑定評価のケースを、模索し、アピールして行くことになるであろう。

攻める!
 攻めるとは不動産の専門家となることである。
 たしかに、不動産という範疇はあまりにも広域的で、多種多様で、全てを網羅することは、おおよそ不可能である。また、建築ひとつとっても然りである。
 しかし、不動産業界の中で、最も、不動産を肌で感じ、網羅的に一定以上の知識を有する者は消去法的に考えれば、不動産鑑定士以外にあり得ない。さらに、建築の知識に長けた不動産鑑定士、元ディベロッパーの不動産鑑定士、税務・会計に精通した不動産鑑定士、バイリンガルの不動産鑑定士など、さらなる専門領域を広げれば、鬼に金棒である。まさに鑑定評価ベースの眼と思考を備えた種々業界人こそが、複雑な社会的需要に応じ得るのである。

結局!
 不動産鑑定士の歩む道は、守りながら攻めることではなかろうか。
 不動産という範疇の中で、網羅的な知識をベースに、さらに専門の守備範囲を広げ、固めるべきである。しかも、それは、従来型の士業スタイルではなく、サービス業に徹せざるを得ないと時代は要求している。
 2、3年後すら先の読めないこのご時世で、不動産鑑定士に要求されることは限りなく広大なだけに、その存在意義が問われ続けている。





他士業との垣根を低くし、発展的提携を模索する
  〜会計業界における“時価会計”の場合〜

いわせてんか!
 政府の「規制改革推進3ヵ年計画 6.都市再生 (1)不動産市場の透明性の確保 イ 不動産鑑定評価の適正化」では次のように謳われている。

 不動産の証券化、企業会計における時価評価の導入等の不動産をめぐる構造変化の下、不動産の鑑定評価に対するニーズが多様化・高度化している。このようなニーズに的確に対応できるよう、収益性を重視した、より精緻な手法や、より詳細な調査等を位置付けた不動産鑑定評価基準への見直しを行うことにより、不動産鑑定士等が依頼者に対するより一層の説明責任を果たすことができるようにするべきである。また、実務レベルにおいて、その基準に基づいた不動産鑑定評価の普及・定着を図るべきである。

 また、日経新聞H14.4.19では、一面に大きく「減損会計2005年全面導入」の文字が並んだ。

  「土地や工場などの固定資産の価値が著しく下がった場合に企業に損失処理を義務づける「減損会計」が2006年3月期(2005年度)から全面導入される見通しだ。企業の自主判断で2年間早めた適用も認める。業績への影響を懸念する産業界に配慮し、導入時期に幅を持たせた。日本の会計基準を国際水準に合わせる会計ビックバンの総仕上げとなり、企業はバブル期の負の遺産の最終処分を迫られる。

  ・・・減損会計は、企業の業績悪化や地価下落などで固定資産の資産価値が大幅に下落した場合、価値の下落分だけ資産の帳簿価格を引き下げ、差損を特別損失として計上する会計処理。土地や工場、賃貸ビル、借地権などが対象となる。米国会計基準や欧州連合(EU)が2005年から導入を決めた国際会計基準ではすでに導入している。

  ・・・減損会計が導入されると、バブル期に土地を取得したゼネコンや不動産会社だけでなく、過去に過剰な設備投資をした製造業への影響も避けられない。

 週刊アクセスでも長年取り上げてきた「減損会計」の最終日取りが決定された。

 国際会計基準(IAS)の各国導入が進む中、海外市場からそっぽを向かれないためにも、日本だけ遅れをとるわけにはいかない。しかし、特別損益への計上となると、相当の“痛み”を生じ、最悪の事態も招きかねない・・・。ギリギリの選択として、2006年3月期が選択された。

 これに先立つ棚卸資産たる「販売用不動産」の強制評価減については、一旦決着がついているが、鑑定業界と会計業界の採用“時価”についてのやりとりは疑問だ。事実、前者の対応が後者に遅れた。事業用の資産評価で、販売コスト等会計的要素の強い項目を考慮する必要はわかるのだが、“不動産”である以上、当該市場の洗礼を受けずして価値を判断することはできない。たとえば、土地について公示・路線価をそのまま採用するという選択は、いくら大量・迅速・安価評価といえども、当該土地の個別的要因、特にその市場性を大きく左右するもの(広大地、不整形など)がある場合は、適切であるとはいいがたい。

 それぞれの業界が持つ、他業界への“固定観念”や“プライド”は、時として業界自身の発展を妨げている場合がある。上記の例において、会計側では鑑定に対し「対応し切れない」と踏み、鑑定側では「その時価ではおかしい」とコメントを出すだけで一方通行だ。もっとも、早い段階で会計側は鑑定に対し“コメント”を要求しており、この対応や更なる話し合いがあまりもたれなかったことは遺憾だ。

 専門家は、その専門性が存在理由である。その原点に立ち返って、当該専門性をより深化させ、これを顧客に対して提供できるレベルになるまで高める必要がある。なるほど、鑑定には鑑定の、会計には会計の、“時価”評価に対する優位な専門性をそれぞれ有してはいる。しかし、これが発展的な融合を遂げれば、更にいいものができるのである。

 今回の「減損会計」について、鑑定と会計は相互に協力し、より適正な“時価”について大いに議論する必要があると感じる。タタキ台として「販売用不動産」があるので、これについてのお互いの疑問を素直にぶつけることからはじめたらどうだろう。日本の会計や鑑定、不動産の価格形成の歴史と現状に鑑みると、単純にIAS(これが批准するIVS(国際評価基準)を含めて)を挿入することもできないだろう。総論から各論まで、詰めることはたくさんある。もちろん、実務の時間的スケジュールも厳然と存在する。

 鑑定業界は、その憲法たる“基準(不動産鑑定評価基準)”の大幅改正をもって、今日の状況に対応しようとしている。他士業の意図を充分に取り込み、現実の鑑定需要を包摂し、かつ、即座に応えられるような改定をおこない、新たなサービスモデルを早急に構築する“攻め”の姿勢をとる必要がある。

 もはや、時代は、旧態のシステムを“守る”ことを許してはくれない。

 
 
 

 ※「特集コラム」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

           
 
  戻る