特集
 
   
  特集 『減損会計と不動産鑑定

    〜まったなし!“売却”か?“有効利用”か?“減損認識”か?〜
 
   
 いよいよ平成16年4月1日より減損会計・早期適用最終期。
 次年度になれば強制適用となり、“ジリ貧”の感が拭えません!
 “売却”か?“有効利用”か?“減損認識”か?
 今期が、十分にその対策を練る最後のチャンスです。

   この半年間、『週刊アクセス』で記載した“減損”に関わる記事を時系列に集めてみました。熟慮のヒントとしてご活用ください。
 また、当ページはこれから、“減損会計”に特化したコラムとして、随時更新していきます。ご期待ください

 
 
H17.5.11
減損処理前倒し3兆円超
 −資産健全化にメド、上場420社、工場・店舗も目立つ
(日経 H17.5.9)

H17.4.20
不動産価値と事業リスクとの関連
 −不動産と事業が一体化している場合の『使用価値』と『正味売却価額』

(リアルエステート・マネージメント・ジャーナル(RMJ)2005.3)

H17.3.2
業種・業態の市場規模から不動産の価格を求める?

H17.2.23
減損鑑定における評価手法適用上の留意事項
       −処分可能性の視点から収益性と市場性を十分に検討する

((社)日本不動産鑑定協会
『固定資産の減損会計における鑑定評価の留意事項』(H16.2)
H17.2.16
米国減損会計基準-時価を求める際に,企業の見積りしかない場合
SFAS144" Accounting for the Impairment or Disposal of Long-Lived Assets"
“ Appendix B: Background Information and Basis for Conclusions”
“Measurement of an Impairment Loss”“Fair Value”
H17.2.9
減損会計に用いる不動産鑑定評価書が表現する“価格”とは?
((社)日本不動産鑑定協会
固定資産の減損会計における鑑定評価の留意事項』(H16.2)
H16.12.22
有価証券報告書訂正 提出企業の1割超す
    〜市場の信頼性確保に向けて…社会的使命と積極的活用〜
(日経 2004.2.21)
H16.11.17
2004年度上半期、上場企業資産売買総額5711億円
    ――リートと一般取引で半々 減損も出物に貢献、しかし・・・
(住宅新報 H16.11.23号)
会計基準の中のさまざまな“時価”―同じ内容になっていないわけ
(「企業会計における時価決定の実務」トーマツより)
H16.10.27
日本におけるコーポレートガバナンスの変化と企業資産の評価
    〜不動産鑑定士と企業の接点…減損会計なら…
(鑑定のひろば 148 2004.10、p30(社)日本不動産鑑定協会・協会誌)
H16.9.8
FASBの『公正価値測定』改正と日本の『知的財産評価・開示』報告
(下記公表物)
H16.9.1
減損早期適用の“余力”――棒鋼高騰で鉄鋼大手の収益急拡大
(日経 H16.8.31)
H16.8.25
三井住友銀行 減損・顧客6000社へのソリューション対応
(リアルエステートマネジメントジャーナル(RMJ) 2004.9月号、p34)
H16.8.4
知的財産会計と全面公正価値会計
    ―新たなバリュードライバーの情報を提供する
(月刊税経通信 2004.8月号)
H16.7.28
知的財産評価で評価人が留意すべき事項
(日本公認会計士協会・研究報告 H16.6.15)
H16.7.7
FASB―会計上のFair Valueは『仮想の』交換取引に基づく、と改訂
(FASB Exposure Draft, June 23, 2004)
H16.6.23
知的資産―評価法の手法の開発が必要
(日経H16.6.21『経済教室』)
H16.6.16
公正価値測定の実際的課題〜投資不動産の場合
(公認会計士協会、内部答申)
H16.6.9
評価の『三手法』を出来る限り併用・斟酌する意味
       ―“公正な評価額”と胸を張っていうためには・・・
(不動産鑑定評価基準、その他評価報告書)
H16.6.2
「不動産」と「特許権」を同様のルールで評価するには?
(特許庁H15.9調査報告より)
H16.5.26
「正常価格」と「公正価値」の接点
       -「fair」「fairly」「壺にはまった」「納得され得る」
(櫛田光男『不動産の鑑定評価に関する基本的考察』住宅新報社、1966.3、p98〜99)
H16.5.19
『不動産の鑑定評価に関する基本的考察』の「正常価格」
       -不動産鑑定評価基準・創成期の書物に触れて…
(表題書・櫛田光男、住宅新報社、1966.3)
H16.5.12
無形固定資産の鑑定評価―あの『青色LED』の鑑定書
(『Evaluation No.13』2004.5)
H16.4.28
企業評価における不動産鑑定士の役割と減損会計−アメリカの場合を参考に
(月刊『不動産鑑定』500、2004.5)
不動産ファンド、首都圏外に照準
(日経 H16.4.28)
H16.4.7 第204号
店舗家賃値下げコンサル
   ―人件費の次に大きな固定費である“家賃”の認識度
(佐藤幸平『家賃値下げ成功法』中央経済社、2003.6)
H16.3.31 第203号
知的財産権訴訟
   最高裁が弁理士など専門知識の「助っ人」140人を任命
(朝日 H16.3.29)
H16.3.24 第202号
プットオプションで家の値下がりリスクを軽減
   〜金融工学理論で住宅市場価格算定ソフトベンチャー起業
(日経 H16.3.24「大学発VBの素顔」)
H16.3.17 第201号
会計上の『資産』の公正な価値とは?
(IVS・国際評価基準より)
H16.3.10 第200号
減損会計 『使用価値』の不動産鑑定は留意が必要
(関連書籍よりの引用)
H16.3.3 第199号
近畿の鑑定士会 鑑定士向け『減損会計セミナー』実施
   〜早期適用直前のビジネス研修会として
((社)日本不動産鑑定協会近畿連絡協議会)
H16.2.25 第198号
株損失、賠償訴訟容易に――投資家救済へ証取法改正
(日経 H16.2.19)

減損会計の“着地点”をしっかり決める
   〜その本当の目的に沿った適用を
(各出版物)
H16.2.18 第197号
「不動産の売却に係る会計処理に関する論点の整理」公表
(日経 H16.2.13)

公認会計士と不動産鑑定士 合同で協議会設置
   〜減損会計 実務指針作成へ
(毎日新聞 H16.2.13)
H16.2.12 第196号
日本駐車場開発とクリード、駐車場買い取り投資ファンド
(日経ネット関西版 H16.2.2)
H16.1.28 第194号
「正常価格」「Market Value」「Fair Value」「Value in use」
(各評価基準)
H16.1.21 第193号
企業会計基準委員会、不動産売却で新基準づくり
   ――「リースバック」の扱い焦点
(日経 H15.12.18)

減損・・・米国・国際基準と日本基準の違い・・その特殊性とは?
(季刊「会計基準」第4号(2003年12月号)p63〜)
H16.1.14 第192号
ミサワのゴルフ場損失 “一気に700億円”
(日経H15.12.27記事に対する
小石川経理研究所『企業財務記事ウオッチャー』から)
H16.1.7 第191号
『固定資産の減損に係る会計基準の適用指針について』
   〜会計基準委員会のセミナー講義録発刊
(2003.12.15(財)財務会計基準機構・企業会計基準委員会事務局)
H15.12.3 第187号
企業再生に果たす会計の役割
   〜不採算部門の把握と成長のための組織再編をアドバイス
((『企業会計』2003.12、Vol.55・12、p17〜))
H15.11.26 第186号
減損会計と時価会計の違いとは?
(辻山栄子編著「逐条解説・減損会計基準」中央経済社、2003.6、p3〜4)
H15.11.19 第185号
FASF 減損会計の最終適用指針 各地でセミナー
((財)財務会計基準機構(FASF))
H15.4.9 第153号
債券含み益2兆5,000億円(3月末)―大手生保、株含み損補なう―
(日経金融新聞 H15.4.4)
H15.2.12 第145号
不良債権残高・産業再生機構・減損会計
(日経 H15.2.8・9)

 
     
  H17.5.11
減損処理前倒し3兆円超
  −資産健全化にメド、上場420社、工場・店舗も目立つ
 
  (日経 H17.5.9)  
   企業が建物や土地、工場施設などの損失処理を加速している。固定資産の価値下落を損失に計上する減損会計を前倒しで採用した上場企業は約420社、損失の合計額は3兆300億円に達した。…早めに資産の健全化にメドを付け、収益性の高い事業に経営資源を集中させるのが目的だ。

 減損会計の前倒し適用期間である04年3月期から06年2月期までについて、日本経済新聞社か上場企業2800社(金融、新興市場を除く)を対象にした。

 最近目立つのが、製造業の生産設備や流通業の店舗など、本業に直接かかわる資産での損失の計上だ。3期連続で営業赤字となった事業分野での設備や店舗が減損処理の候補になる。

 …野村證券金融経済研究所の野村嘉浩ストラテジストは「減損処理のピークは超えたが、前倒しで処理した企業と先送りしたところでは今後、収益力格差が鮮明になる可能性がある」と指摘する。

いわせてんか! 早期適用の全容が明らかになりつつある。
 適用の詳細についても徐々に固まりつつあるようで、体力と相談しつつ実際の特別損失を計上しているのだろう。早期適用による収益力の増加は、実際に市場人の考慮するところとなっていることも見逃せない。
 本業関連施設(不動産)での3期赤字という現象は、分かりやすい投資の失敗を表現している。土地に関しては、地価下落の激しい地域(当然、バブル期など地価の高い時期に取得して、簿価が高く、結果として過剰投資になっている)、建物・設備については収益予測に対して過剰であった(借入余力の過大さから不必要な投資を行っているものを含む)結果が出ていると推測される。
 今後、以前のような不動産の急激な上昇を望むべくもなく、土地の価格もそこから得られる“収益性”をベースに形成される今、この時価ベースまで切り下げて投資の失敗を表現し、償却負担を取り除いた上で新たなスタートを切る。株主等利害関係者へのパフォーマンスを含め、早めにキチットやっておくべきことだろう。





  H17.4.20
不動産価値と事業リスクとの関連
  −不動産と事業が一体化している場合の『使用価値』と『正味売却価額』
 
  (リアルエステート・マネージメント・ジャーナル(RMJ)2005.3)  
   小林秀二氏(不動産金融工学研究所)の『不動産ファイナンス初級』第15回「さまざまなリスクとコントロール」にて。

『…事業リスクは、信用リスクの一部のように扱われ隠れてきたが、不動産賃貸業でなく一般事業としての評価が求められる場合に主役に躍り出る。ゴルフ場、レジャー施設、ホテルなど自らオペレーションする目的で買収したり、減損会計の使用価値を求める場合などである。同業のベータ値を参考にしたCAPM方式によるDCF法、類似の取引案件に個別性を考慮する方法、マルチプルなどがあるが、ブランド力、超過収益力、営業暖簾、シナジー効果、規模の利益(非凸性という市場の失敗)なども含まれるため、企業評価方式に近い評価となる。経営の有機性が強まるほど土地と建物の積算価格とは乖離してゆくのである。』(p86)

いわせてんか! 不動産の今の利用方法を捨て、例えば建物を取り壊して更地にするなら、標準的な利用方法で鑑定すればいい。ただし、昨今のように(昔から賢明な投資家はそうであろうが)投資とリターンを厳密に考えた上で、不動産への投資をする場合は、現状の建物等の利用状態を十分考慮するだろう。特殊な利用形態のゴルフ場やホテルなどは、利用するための初期投資が大きいため、なるべく現存の施設を継続し、ある程度の手直しや資本的支出をして利用しようと考えるだろう。このような業種は、不動産と事業が密接に結びついているといえる。
 小林氏の指摘は、私事だが、鑑定をする場合に非常に気になる視点である。正味の純収益が1億円あるとして、この1億が不動産から出たものか、経営の巧みさから出たものか、はたまたブランドから出たものか定かでない。また、外部環境の変化、例えば競合が1店舗出ただけで半分になるかもしれないし、既存店舗と連携して“囲い込み”により倍になるかもしれない。評価対象でいえば、不動産を評価しているのか、企業価値を評価しているのか不明確になるのである。
 減損会計の『使用価値』は、正に運用主体のシナリオに副った事業価値である。反対に、「正味売却価値」は、市場での不動産価値になる。ただ、上記のようなものは特殊用途ゆえに、現実的に市場での需要者は、同業者になる可能性が高い。“土地・建物を買う”といっても、装置投資額が大きい分、市場価値といえども、事業リスクを考慮しないわけにはいかないだろう。
 不動産と事業、各々の価格形成要因を分解する作業をしなければならない。市場価値の場合は、なるべく業界標準的なオペレーションを見出すことも肝要だ。どこまで土地(立地面)に帰属するかを考えるのも重要。また、これを十分に分析することは、固定資産本来の価値と個別事業価値を峻別することになり、投資成果の測定や、余計な投資をせずにすむのみならず、経営にプラスになることだろう。





  H17.3.2
業種・業態の市場規模から不動産の価格を求める?
 
   
 
いわせてんか! 表題のようなことが、果たして可能か?
 近時の不動産鑑定では、収益還元法が重視されることが以前より多く、その要素である「総収益」「総費用」「純収益」「利回り」をどのように求めるかが問題となる。
 ここ何週か『減損』を取り上げ、その中で企業独自の「使用価値」と、市場価格である「正味売却価格の時価」の比較で、対象となる事業用の固定資産の収益価格を求めるベースとして、今の企業独自のオペレーションか、業界標準のそれかということを考えた。
 さて。業界標準のオペレーションというと、決算データの財務比率などの平均値が考えられる。中小企業などであれば、TKCの「BAST」や、中小企業庁の「中小企業の経営指標」などが挙げられるだろう。「黒字企業平均」「全企業平均」や、資本金・資産・負債総額・従業員数などの規模セグメント別に、平均的割合などが年次で発表される。
 この割合や比率は、例えば売上高比率などがある。賃貸でも「経費率」などは非常に大きい目安となる。事業であれば、売上高に対する営業利益(償却前)などが、有効だろう。この業界平均比率を押さえておくことは重要となる。
 そこで話を戻して減損だが、ある業界の市場規模から、この売上高を出すことが可能だろうか? たとえば小売業の場合なら、非常に大雑把な話だが、市場規模を店舗数で割れば単純に1店舗あたりの総売上が出てくる。これを標準として、個別の事例たる店舗の売上高営業利益率を比較してゆけば、還元すべき純収益の一定の基準ができる。しかし、黒字もあれば赤字もある。なにで差が出ているのか、また、どれを標準とするか?
 流行の“勝ち組・負け組”ではないが、今、売上シェアの争奪戦、コスト削減競争は苛烈である。それゆえ、将来の収益シナリオを描くとき、この競争をどう読むかは非常に重要だ。となると、ある程度安定したシナリオを考えられるぐらいの市場状況であることが前提となろう。逆に“明日をも知れぬ業界”(市場全体であれ、トップ争いであれ)なら、下手に標準を設けること自体、不合理であるかもしれない。
 つまるところ、不動産の価値を出すとき、現在使用されている業種・業態の市場が不安定であると判断されるなら、市場での賃貸想定がより合理的ということになる。時価を求める場合は『誰が借りるか?』をベースに収益価格を考える必要があろう。





  H17.2.23
減損鑑定における評価手法適用上の留意事項
  −処分可能性の視点から収益性と市場性を十分に検討する
 
  ((社)日本不動産鑑定協会
『固定資産の減損会計における鑑定評価の留意事項』(H16.2)
 
   
 9. 正味売却価額における時価を求める鑑定評価上の留意事項
 9-3 手法適用上の留意事項
 (1) 手法適用上の留意事項総論

『…減損の…鑑定評価においては…原価法、取引事例比較法及び収益還元法(による価格を)関連づけて鑑定評価額を決定する。
 このため、価格の三面性(上記の3手法に対応する価格の側面、筆者注)について十分に検討しなければならないことはもとよりであるが、実務上、特定の業務目的に供されている不動産が多いと考えられることから、とくに処分可能性の視点から収益性と市場性についての慎重な検討を要する
 …収益性に関しては、資料の制約等により事業収益による収益還元法の適用が困難な場合においても業界動向等をふまえ収益性を勘案した鑑定評価を行うべき(で)、複合不動産(土地建物一体として効用を発揮している不動産、筆者注)の最有効使用の視点からの処分可能性の検討では、市場性の観点から現況使用に対する用途変更、改造、取壊し更地化とその費用と収益性の比較が重要な役割を果たす。』(p26)

いわせてんか! 先週に引き続き減損会計である。
 『最有効使用』とは、「その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用」(不動産鑑定評価基準・第4章)であり、「現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである」。先々週の「正常価格」を支える概念であり、評価対象不動産をどのように使用することがこれにあたるかを判断することが、鑑定評価額を決定した理由の最も重要な要素のひとつとなる。『果たして、今の使用方法は最有効なのか?』
 減損会計において鑑定するのは「正味売却価額」である。市場においてその不動産を売却処分しようとした場合に、一番高値をつけてくれる人の出す価格である。その人は、誰よりもその不動産を有効に使って、儲けることができる(と考えている)人である。こう使えば、将来これだけ儲かるという目算でお金(投資額)を出すのである。
 企業は通常、自分が使うよりも市場で売ったほうが価値があると判断すれば売る、と減損基準は言う。だから、今現在、持って使っている(売っていない、売る予定がない、もしくは処分・転換する予定がない)という事実は、現況使用が最有効なのだから、使用価値を算定すればよい、と。しかし、その判断は複雑であり、現況企業の主たる目的に資する使用に供されているなら、なかなか思い切りはつけがたい。この判断ギャップが減損であるといえないか?
 これをはっきりさせるのが、鑑定評価だといえる。ありていにいえば、ポンと売りに出して“売れる値段”“買ってくれる値段”でないといけない。留意事項がいうように、企業保有資産ゆえ特定の業務目的に供されている場合が多いため、市場性が計りにくいのも事実だろう。しかし、ここを十分に検討する。その大きなベースが『最有効使用』の検討だ。買ってくれる人の使い道を考える。いろんなことに使えるのなら、競りがおこって価格は高くなるだろう。逆に、ほとんど使い道がないなら、低くならざるを得ないのが道理である。そこでは、使い道を広げるように用途変更、改造、取壊し更地化の可能性とその費用を十分比較する。
 鑑定評価手法を適用する際の留意点としては、この“一番高値で買ってくれる人”の考える使用方法による値付けにあった評価手法を重視し、その資料収集や証拠集めにことに力を注ぐことであると思われる。これを理由として説明できるなら、「正味、売れるわな」と皆、納得してくれるだろう。





  H17.2.16
米国減損会計基準-時価を求める際に,企業の見積りしかない場合
 
  (SFAS144" Accounting for the Impairment or Disposal of Long-Lived Assets"
“ Appendix B: Background Information and Basis for Conclusions”
“Measurement of an Impairment Loss”“Fair Value”)
 
 
B43『…ある状況においては、大きな費用をかけずに時価(fair value)を見積る唯一の情報は、将来キャッシュフローについての当該企業の見積りであるかもしれない。概念ステートメント7(Concepts Statement 7)の38項では、以下のように説明する。』

『実際問題として、ある企業が会計上の測定を行う場合、資産や負債の時価を見積る時に市場参加者が用いるであろう想定に関するいくつかの、もしくはすべての情報が、ほとんどない、もしくは全くないということがある。このような状況では、当該企業は必然的に、大きな費用をかけずにキャッシュフローを見積るための情報を使わざるを得ないことになる。このような企業独自の想定に基づいた将来キャッシュフロー見積りは、それが市場参加者の見積り想定と異なったデータを示していない限り、時価評価の代用となる。もし異なったデータがある場合には、企業はその想定を、市場の情報を盛り込んだものに調整しなければならない。』(p49)

いわせてんか! 先週に引き続き減損会計である。
 上記訳は、米国会計基準(SFAS)144の資産の減損の背景の、減損の測定における『時価』に関する記述である。
 評価すべき資産と類似した資産の取引など、市場の情報がふんだんにあれば、時価は適正に見積もることができる。しかし、企業保有資産は、当該企業が使用して収益をあげるために持っているものであり、独自の利用形態をしているのが常で、類似の資産がない場合も多い。もしこのような資産について市場の情報をとことんまで収集しようとすれば非常にコストがかかり、減損会計の本来の趣旨に反しかねない。
 そこで、米国会計基準は折衷策としてこのような規定をおいた。米国では日本基準と異なり、基本的に市場価値である『時価』を減損測定の基準にしている。つまり、企業独自の使用価値を認めていない。しかし、そのために過大な会計コストを強いることは本意ではないため、このような場合に限り『企業独自の想定に基づく将来キャッシュフローの見積り』を容認した。そこには、一般の市場参加者の想定と矛盾する想定を許さないという縛りを設けた。
 日本や欧州基準では、使用価値と時価を選択性にして測定をする。結果としては米国も同様にみえるが、こうした背景には、企業に課された自主責任の重さが感じられる。つまり米国の場合、企業独自の使用価値を採用可能なのは、時価評価がコストの面で困難な場合の例外であり、その独自想定も市場の目を無視できないとしている点である。ある程度のコストをかければ市場での証拠を得られるのに、安易に独自想定で測定をしている場合には、この基準によって企業の責任が問われることになろう。
 企業が、その資産を使用することにより将来得られるであろう収益の現在価値より市場価値のほうが高ければ、通常売却される。株主から預った資金を資産に投資して、その投資が失敗していることがわかったなら、その時点で損失を計上する。このことに関する企業の意思決定をより公正にするには、やはり“市場の目”を考慮することが適当と思われるが、いかがだろう?





  H17.2.9
減損会計に用いる不動産鑑定評価書が表現する“価格”とは?
 
  ((社)日本不動産鑑定協会
固定資産の減損会計における鑑定評価の留意事項』(H16.2)
 
   
 5 求める価格の種類
 5-1 正味売却価額における時価を求める場合

 『…公正な評価額であり、通常は市場価格に基づく価額であるとされている(「適用指針」第28項(1))ので、不動産鑑定評価上の価格の種類は、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格である、正常価格である。』(p19)

 5-2 使用価値を求める場合
『…「適用指針」に従い、企業の一定期間の収益予測に基づきその現在価値の総和として求めるものであ(り)「特定価格(市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさない場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格)」にあたると考えられる。

[1] 使用価値は企業会計における固定資産の減損会計基準上の価値概念であり、これを可能な限り不動産の鑑定評価で行うことは、適正な会計基準の運用に資するものである。したがって、「法令等による社会的要請を背景とする評価目的の下」に該当する。
[2] 次の点で(正常価格の)条件を満たさない…。
i …予測される将来の収益の現価の総和としての価値であり、市場価値を求めるものではない。
ii …「…会社更生法…の事業の継続を前提とした価格」と同様に、現在の事業(利 用)状況の継続を前提とするので、必ずしも最有効使用を前提としない。
iii 標準的な市場参加者を前提とするのではなく、現在の使用者固有の事情を反映さ せる。』(p19〜20)

いわせてんか! 減損会計基準に従えば、鑑定評価の価格は以上のようになっている。
 正味売却価額の時価を求める場合なら、字の如く“売却”という、市場での交換取引を想定した価格であるため、その価値は不特定多数の市場参加者が集う場における「交換価値(exchange value)」を表現するものでなければならない。
 一方、使用価値は「企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積る」(「減損会計意見書」四2.(4)[1]参照)のであるから、一般の外部市場を想定しない、企業内部において独自に使用を続けた場合のおける固有の「使用価値(use value)」を表現するものである。
 収益還元法のDCF法を適用する場合に、この差異が曖昧になる。
時価算定の収益価格は、まず対象不動産(を含む事業グループ)の最有効使用を判定し、現在事業がそれにあたるなら、現事業に基づく収益のうち対象不動産に帰属する部分を適切に配分して求め、最有効にないなら、転換を想定する。賃貸が想定できるなら、これを適用する(9-3 手法適用上の留意事項(4)収益還元法、p27)。
 ただし、ここにおいて「現事業に基づく収益」は、不特定多数の合理的市場を前提とした「正常価格」であるため、会社の固有の経営状態による影響を考慮外とし、対象不動産の標準的な収益に基づいて適用する(上記 B i賃貸以外の事業収益に基づく収益還元法の適用、p28)。
 例えば、競合店進出により事業収益が落ち込んで、結果としてNOIがマイナスになっているとしても、業界標準的な収益で予測してプラスに転じるなら、これで評価が可能ということができる。いわば、標準的なオペレーションを行なえばどうか、ということが時価算定では問われる。むろん、立地面という不動産のハード部分でその収益を生み出せるという前提と理由が必要だ。また、自らは撤退し、外部賃貸に供すれば、NOIがプラスに転じるなら、この想定で時価を算出すればよい。現状の事業収益のみが時価算定の根拠ではないのだ。
 一方、使用価値は当該企業の収益に基づいて価格を求めるため、収益の予測に関しては、必ずしも標準的ではない現在の所有者を前提とする事業予測に基づくものであることに留意する(10-5 手法適用上の留意事項(1)手法適用上の留意事項総論、p35)。ただし、経済動向や業界動向、対象企業の競争力をふまえ、適切な見積りであるかどうかを確認する必要がある(上記 B1)純収益の把握[1]、p37)。
 似て非なる…この収益価格。評価においては混同しないよう注意する必要がある。また一方で、この違いを明確にすれば、現在の企業固有の将来予測と、現時点で市場で売却した価格との差異が明確になる。事業継続を意思決定した理由を開示するためにも、違った面からこの価格の差異を捉えてはどうか。
 さらに、不動産と事業収益の接点となるため、企業の財務担当者や経理を監査する会計士などと緊密に話し合いを行って、より適切な評価・開示資料としてゆく必要があるだろう。





  H16.12.22
有価証券報告書訂正 提出企業の1割超す 
      〜市場の信頼性確保に向けて…社会的使命と積極的活用〜
 
  (日経 2004.2.21)  
   金融庁による有価証券報告書の再点検要請を受けて、訂正報告書を提出した企業が20日までに480社を上回ったことが日本経済新聞社の調べでわかった。上場企業など有価証券報告書を提出している約4500社の1割を超える水準で、チェックが行き届いていない実態が浮き彫りになった。
 1カ月間の点検期限の最終日に当たる17日までに訂正報告書を提出した企業は456社。20日にも太陽誘電や大阪証券金融など新たに25社が提出。郵送分を含めれば最終的には500社を超えそうだ。
 訂正の種類別では金融機関や外国法人など株主の属性別の所有状況に関する訂正が2割、大株主上位10社についてが4割。役員持ち株の間違いを含めると5割以上が株主関連の記載を訂正した。
 金融庁の五味広文長官も20日の記者会見で、17日までの1カ月間の訂正が456社に上ったことを明らかにし、「(要因が)不注意や軽微なものでも市場全体の信頼度に悪い影響を与えるので、しっかりした対応をお願いしたい」と強調。訂正報告をした企業についての対応策を検討する考えを示した。

いわせてんか! この自主点検は、西武鉄道などによる有価証券報告書の虚偽記載が相次いだのを受けて実施されたものであるが、半数以上が株主関連の訂正で、実際の株主と有価証券報告書の記載が異なる名義貸し等も判明しているという。また訂正内容の中には財務諸表に桁数のズレや計算ミスなど単純な間違いを見つけ訂正した例も多い。
 開示資料の記載ミスなど上場企業のディスクロージャーのあり方に課題を残した。

 先月(11/16)、金融庁は、証券取引法上のこのようなディスクロージャーをめぐる不適正な事例が判明している昨今の状況から、ディスクロージャー制度に対する信頼性の確保に向け、「ディスクロージャー・ホットラインの設置」やEDINET(※1)の機能充実」などの方策を打ち出している。
 ここには、EDINETの見直し(※2)や開示内容の自主的な点検のほか、公認会計士等に対する監督として「開示会社の有価証券報告書等において、監査人の監査体制や監査継続年数についての開示を検討する」とされている。これについては、巷では同じ企業に連続して関与している会計士のあぶり出しであるとも言われているようである。
 また開示制度の整備として、金融審議会第一部会ディスクロージャー・ワーキング・グループにおいて以下の事項が検討項目として挙げられているが、昨今の状況から判断すると、今後ますます厳しい方向で検討されていくことが予想される。

(1) 財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者による評価と公認会計士等による監査のあり方
(2) 継続開示義務違反に対する課徴金制度のあり方
(3) コーポレート・ガバナンスに係る開示の充実のあり方(内部監査の組織・人員・手続、会計監査人の監査体制・監査継続年数(再掲)等)
(4) 親会社が継続開示会社でない場合の親会社情報の開示の充実のあり方

これにより開示する側(企業)のみならず、監査する側にとっても厳しい状況となることが予想されるが、いずれにせよ、市場の信頼性確保のために、「適正なディスクロージャー」と「コンプライアンス体制の強化」により、社会的信用の回復に努めるとともに、「社会的責任・使命」について再認識してもらいたいものである。

 また、減損会計のついての報告書での開示に関しては、H16.3・早早期適用での注記事項で、各社さまざまな様式で表現をしている。今期末の早期適用、そして来期末の強制適用に向けて、これらの先例の良し悪しを見極めながら、各社の積極的開示を望みたい。
 そこでは、会計基準で定められた最低限の必要記載事項のみならず、投資家の意思決定に有用な自主的情報開示が期待され、具体には、収益グルーピングの範囲と詳細な根拠、使用価値(使い続ける)か正味売却価額(売り飛ばす)かの選定理由、時価算定根拠、採用割引率の選定理由などが挙げられる。
 単に、過去投資の清算という意味ではなく、将来収益獲得への積極的シナリオとして捉えることができれば、減損会計は決して後ろ向きなモノではない。現在自社が持つ事業用資産は、これからいかほどの利益を生むことに貢献するのか? 過去の失敗とこれからの夢を見極める、内部での意思決定であるとともに、これを投資家へ十分伝えることが肝要だ。

 

(※1)EDINET( Electronic Disclosure for Investors' NETwork の略 )
  『証券取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム』 のこと。
金融庁より行政サービスの一環として提供されているもので、EDINETシステムに提出された開示書類について、インターネット上においても閲覧が可能である。
(※2)EDINETの見直し
  XBRL(※3)化に向けた動きを加速する。このため、関係諸団体による「EDINETの高度化に関する協議会」を発足させる。
(※3)XBRL  ( eXtensible usiness eporting anguage の略 )
  財務情報を作成・流通・利用できるように標準化されたコンピュータ言語のこと。

<関連ページ> 
 金融庁 2004/11/16「ディスクロージャー制度の信頼性確保に向けた対応について」
     http://www.fsa.go.jp/news/newsj/16/syouken/f-20041116-1.html
 金融庁ホームページ http://www.fsa.go.jp/
 EDINET http://info.edinet.go.jp/EdiHtml/main.htm





  H16.11.17
2004年度上半期、上場企業資産売買総額5711億円
      ――リートと一般取引で半々 減損も出物に貢献、しかし・・・
 
  (住宅新報 H16.11.23号)  
   東京証券取引所などに上場する企業の2004年度上半期(4〜9月)における主な資産売買は、総額5711億円(データ未公開分を除く、以下同じ)にも及ぶ取引が行われたことが住宅新報社の調べでわかった。Jリート関連の取引金額とそれ以外の一般取引金額がほぼ半々となり、不動産証券化関連の案件が主役の座に躍り出たことを印象付ける結果となった。
 Jリート関連取引は、取引金額が総額2821億7300万円、敷地面積が33万2576m2だった。投資法人別に見てみると、日本ビルファンドは4物件・51億円の運用資産を売却する一方で、投資法人の中で最大規模となる854億円もの運用資産を購入し、資産ポートフォリオの入れ替えを含めた積極的な資産の構築を進めた。日本たばこ産業(JT)を設立母体とし、8月にJリート市場への上場を果たしたフロンティア不動産は、JTの所有していた商業施設6物件を648億円で取得した。
 この他、ジャパンリアルエステイト、日本リテールファンド、日本プライムリアルティも200億円前後の運用資産を取得。地域も東京だけではなく、大阪や福岡などの地方圏にも触手が伸びているのが目立つ。さらにJリート関連以外の一般取引をみても、信託受益権の取引だけで729億円の取引があり、不動産流動化市場が高い水準で活発化していることがうかがえる。
 業界関係者によると、すでに稼動している収益型物件だけでなく、未稼働の用地を収益物件化して流動化させる開発型証券化も多く、投資先を求める金融機関や機関投資家のマネーが積極的に市場の後押しをしているという。なかには専門家の常識をはるかに上回る水準で取引されることもあり、「ある意味で悪しきバブルの再燃」と警鐘を鳴らす声は少なくない。
 Jリート以外の一般取引は、取引金額で2889億3600万円、敷地面積が729万9856m2。上場企業の上半期資産売買は依然ほとんどが資産売却に関するもので、資産取得を行った上場企業は少ない。売却理由としては財務改善のためによるものが引き続き最も多く、資産の効率化や遊休地処分によるものがそれに続いている。
 これまでの買い手の主役として不動産流通市場を牽引してきたディベロッパーによる開発用地取得は、2004年上半期に限っては総額746億円、34万4294m2で、金額ベースでは全取引の1割強を占めるにとどまった。これはマンションの供給過剰感が顕在化してきたことに加え、工場跡地のような企業の売却する用地が一巡してきたこと、流通市場の中心がJリートなどによる大型オフィスや商業施設などになり、金額面でも差が開いてきていることなどが要因に挙げられている。
 また上場企業だけでなく、未上場企業を中心とした取引に参加している買い手の顔ぶれ、取引内容を見てみると、実需に伴う前向きな設備投資が着実に増加してきたことがわかる。今年はじめからの景気回復傾向が、流通市場に反映された様子が伺える。ボリュームとしては決して多くはないが、工場増設、物流拠点整備、店舗開発、賃借していた本社ビルの買取など攻めの姿勢に転ずる企業が増えてきているようだ。

いわせてんか! 証券化関連の取引が不動産流通市場の主役になりつつある一方、実需に伴う設備投資も着実に増加しているとのことである。また、減損会計等の影響から企業の資産売却も依然として高水準である。
 証券化不動産の用途別件数は、依然に比べオフィスビルの割合が低下しているのに対して、賃貸マンションや商業施設などの比率が増加している。また物件の規模についても、大型物件の件数が減少している。つまり収益性の高いAクラスビルなどは既に出尽くした感があるため、まれに優良な出物があると買いが殺到し非常に高値で落札されるという傾向が見られる。いわゆる「リートバブル」という状況にあり、今後の動向が非常に懸念される。
 しかしながら、全ての不動産の価格が上昇している訳ではなく、利便性・収益性等の劣る物件については依然として下落あるいは買い手のつかない状況も続いている。企業の資産売却に関しても、まさに処分価格で取引される例が少なくない。減損会計早期適用をにらんでのオフバランスも、時と場所を選ばないと“とらぬ狸”となる可能性がある。
 本来の事業の上向きが見え始めてきた今こそ、企業資産の有効転換をうまく行うために、先の見極めを真剣にしなければならない。それには、専門家の意見も活用する価値があるだろう。





  会計基準の中のさまざまな“時価”―同じ内容になっていないわけ  
  (「企業会計における時価決定の実務」トーマツより)  
   監査法人トーマツ(阿部他2名)『企業会計における時価決定の実務』(清文社、2004.11)より。

『…会計基準では時価などの用語として次の用語が用いられている。

[1] 時価
[2] 公正な評価額
[3] 市場価格に基づく価額
[4] 合理的に算定された価額
[5] 正味実現可能価額(棚卸資産)
[6] 再調達原価(棚卸資産)
[7] 適正時価(棚卸資産)
[8] 評価モデル(種類株式)
[9] 理論値モデル(金融商品会計)
[10] 正常市価(「原価計算基準」)
[11] 将来キャッシュ・フローの割引現在価値(収益還元価値。使用価値(減損会計基準))
[12] 適正な価額(特別目的会社) 』(p199)

『…合理的に算定された価額とは、市場価格がない場合に、原則として経営者によって合理的に見積もられた価額である。』(p202)

『…合理的に算定された価額の見積方法については各会計基準において規定されているが、必ずしも同一の内容になっていない。これはある会計基準では有用な方法であったとしても、他の会計基準では必ずしも有用とはいえないためと解される。そのため、同じ時価の範疇であるとしても見積方法によっては同一の価格にならない可能性がある。』(p202)

いわせてんか! 減損会計基準の適用指針28項(2)[1]では、正味売却価額における時価において、合理的に算定された価額につき『不動産については「不動産鑑定評価基準」(…)に基づいて算定する』とし、110項で『「不動産鑑定評価基準」において、不動産の鑑定評価によって求める価格のうち、減損処理を行うにあたって時価に対応するものは正常価格(…)である(「不動産鑑定評価基準」第5章 第3節 技仮函法戮筏定する。これは企業会計審議会・固定資産部会の議事録によれば、不動産鑑定協会の要望を受け入れたものであるようだ。引用本いわく、会計基準ごとに時価定義を変えるのは、その基準設定の目的に対する“有用性”ゆえとのこと。今回、減損会計における不動産の時価測定で、「不動産鑑定評価基準」の正常価格は、その目的に整合的であったのだろう。
 しかし、正常価格はあくまで不動産鑑定評価の世界で、その存在意義や定義を形作ってきた。如何せん、減損の適用指針のなかではこの点があいまいである。
 例えば、時価を使う場合というのは、赤字が出ているとか地価が異常に下落しているときである(機嫌よく使用している場合は、原則として算定する必要がない)。また、合理的算定価額として、第三者への売却が決まっている場合はその「契約金額」を採用することがある。その意味でいくと、「処分価格」的なニュアンスが大きい。
 会計基準の意義が、これを利用する利害関係者への適切な情報提供であるなら、「正常価格」という借用概念をもってくるのはいいが、これと基準の目的をちゃんとすり合わせる必要があるだろう。そして、これをよく説明するのは鑑定士と会計士である。
 上記会計審議会では、いわゆる「投資不動産」の時価評価が議論され、測定及び注記が見送られた経緯がある。これは時価評価することで“無用の混乱を招く”といわれた。その理由が「不動産の時価評価が困難である」ということだった。鑑定協会では、そんなことはないと主張したにもかかわらずである。固定資産についても同様のことが言えると思うのだが…
 減損会計という会計基準により評価したという評価目的にそった「正常価格」であり、目的整合的である説明が求められるのではないか。時価定義の抽象論では、納得は得られないだろう。





  H16.10.27
日本におけるコーポレートガバナンスの変化と企業資産の評価
      〜不動産鑑定士と企業の接点…減損会計なら…
 
  (鑑定のひろば 148 2004.10、p30(社)日本不動産鑑定協会・協会誌)  
   第22回PPC(汎太平洋不動産鑑定士・カウンセラー会議)台湾大会(10/18〜10/21)における、財団法人日本不動産研究所・菱村千枝氏の表題の講演論文

『…評価案件を受託する際に、具体的な行動規範を共有することで、倫理規範を習慣的に、身近に実践することが今後重要であると考えています。たとえば、「クライアントの財務諸表上の損益調整要望、資金調達スキームの都合等による指値に基づいた評価を行わない。」という行動規範として明示する、というのはどうでしょうか。合い言葉のように行動規範を掲示する(パンフレットに明示、名刺に記載等)といった小さな意識変革も一つのアイデアです。』(p35)

『企業のコーポレートガバナンスが変革され、経営に透明性が求められる時代にあって、私たち鑑定人も、顧客に対しての誠実なベスト・プラクティスの提供と、高い倫理感に基づく説明力の高い、行動規範が求められると考えます。このような実践を通じ、私たち不動産評価専門家の職能が、企業の健全なコーポレートガバナンスの確立、ひいては資本市場の透明性の向上に寄与する一助として発揮されることを心から願います。』 (p35)(下線、筆者)

いわせてんか! 減損会計早期適用で、H17.3期の中間が終わった。今期適用の各社は、すでに概ねの処理を終了させていると思われる。我ら不動産鑑定士においては、回収可能価額のうち正味売却価額における『時価』に関して、不動産についての「合理的な見積り」算定のための評価依頼となっている。
 この受託に基づき出された「鑑定評価額」が使用価値より高い場合(依頼をされているということは、ほぼ高い場合となろう)、当該評価額から処分費用見込額を控除したものが回収可能価額となり、これが簿価より低い場合に、その差額が減損損失として測定され、損益計算書の特別損失として計上される。ほぼ直接的に、鑑定士の評価額が企業損益と貸借対照表価額のベースとなるのである。
 うまく回っているときは、いつの時代もそんなに問題はない。やっかいなのは、止まってしまったときだ。減損認識時点の貸借対照表価額を、鑑定士が決定しているのである。もし、その時点からあまり時間をおかずに当該企業が終わったらどうか。当然、倒産法制のなかで財産評価が行われ、評価した物件も、再評価がなされることとなる。
 株主は、厳しい目で企業と鑑定士を見つめるだろう。少なくとも、当該物件に関する減損額に関しては、不動産評価専門家としての不動産鑑定士の責務が100%とわれることになろう。当然評価額に関して、企業には一切の責任はない(監査法人については微妙である)。
 『高い倫理感に基づく説明力の高い、行動規範が求められる』。ここについては、企業も同様であろう。減損会計は、いままでの会計基準とは異なり、企業独自の“将来判断”が必要であり、制度としては始まったばかりである。利害関係者への、自社判断の適切な開示なくしては理解を得られるものではない。
 まずは、企業と鑑定士の間で十分なコンセンサスが必要だ。そのためには、お互いがお互いのことをもっと知る必要があろう。そしてまず、鑑定士は専門職業家として、行動規範を提示しなければならない。まさに、これが第一の専門家責任であろう。





  H16.9.8
FASBの『公正価値測定』改正と日本の『知的財産評価・開示』報告
 
  (下記公表物)  
 
  ―企業会計・2004.10月号・Vol.56・No10『FASB基準書公開草案「公正価値測定(Fair Value Measurements)」の概要』(公認会計士・荻茂生氏)p70

  『1 公正価値の意義
   公正価値を、「取引の知識がある自発的な非関連当事者間で、現在の取引において資産または負債が交換されるであろう価額」であると定義している。現行の定義と異なる点はないように思われるが、公正価値測定の目的が実際の取引がない状況での資産または負債の交換価格の見積りであるとして、「交換価格の考え方」を強調している。ここでいう交換価格は、通常のビジネス動機による仮定上の交換取引における市場参加者の行動に基づく見積りである。実際の取引が存在しない場合に測定される資産または負債の交換価値を見積もることである。』

  ―経済産業省『知的財産情報開示指針(案)に対する意見募集の結果について』(H16.1.27)3.主な御意見の内容・(2) その他【”床岨愽犬砲弔い董曖4

  『知的財産戦略を量る指標、評価手法について、議論がなされるべきであるとの御意見をいただきました。

  (団体(弁理士)からの御意見)
 前提条件や数量的裏づけのために、一定の先行指標を推奨することが有益であると考えるが、先行指標は実態を反映したものである必要があり、これについても広く意見聴取することを考慮すべきではないか。
(企業(知的財産担当者)からの御意見)
 知財の質が何で評価されるのか、明確にして欲しい。企業の知財戦略の評価が、市場関係者によってなされる前に、むしろマスコミ、報道関係者がどのように表現するかによるところが大きいのではないかと懸念しています。
(個人(機関投資家関係)からの御意見)
 残された課題として、まず、知財の評価に当たっては、企業側の説明努力だけに頼るのではなく、客観的な評価指針の作成や、市場サイドの評価技術の高度化への努力・研鑽を望みます。』

  ―産業構造審議会知的財産政策部会 流通・流動化小委員会『知的財産(権)の価値評価の確立に向けた考え方 中間論点整理』(第5回・配布資料(資料3-1))(H16.6.16)p1

I.知的財産価値評価手法確立の意義
知的財産の活用において、資金調達、事業の売買等の局面では、その価値評価が必要となるが、評価方法が確立していないために、優れた知的財産を持ちながらも適切な評価を受けることができず、これを活用できないとの指摘がある。この背景には、昨今の金融環境の変化に伴う、企業の資金事情の悪化等も関係している。
他方で、知的財産が国家戦略になったことを背景として、一部では、知的財産それ自体を金銭的価値と同一視する誤解も発生しており、「知的財産バブル」との指摘も存在する。
これらを背景に、知的財産戦略本部による「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」(2003年7月決定)では、以下のように記述している。

第3章 活用分野
  1.知的財産の戦略的活用を支援する
(4) 知的財産の価値評価手法を確立する

   知的財産が有する価値に関し客観的に評価できる基準(定量的分析(金額換算値)あるいは定性的分析)の在り方について、各種民間団体調査機関が設ける手法を参考に、知的財産権の種類毎の特性に応じて2004年度までに検討・整理する。また、今後、本格化すると予想される合併・買収における特許等の価値評価事例を整理公開することにより、特許等の譲渡に関する相場確立を目指す。なお、最終的に、価値評価は企業の判断や創意工夫に任せる等フレキシビリティを持たせるべきである。』

いわせてんか! FASBの公正価値測定の公開草案については既報のとおり。この解釈として荻氏は「従来と異なる点はない」と述べるが、どうか。文章の「価額」と「価格」も既に異なっており、前者は"amount"で後者は"price"という単語の違いがある。これまでは、取引事例等「市場での証拠」がある場合も含んでいるようであったが、今回は明確に「取引がない場合」を前提としている。“Fair”加減が問われるのは、正にそういう場合であろう。
 関連しているのかどうか、日本の知的財産価値評価の確立が動いている。企業や機関投資家が、知財の価値の客観的評価基準を欲しており、国は来年3月までに積極的に各諮問委員会などの報告を待つ。
 市場価値(Market Value)での価値評定が困難な知財。これを適切に評価し、経済活性に活用するためには、類似資産のマーケットからの類推や、インカム・アプローチの「期待現在価値法」(Expected Present Value Technique)などの評価技法の発達は必須要件となる。定義を含めて、エキスパートの努力が望まれる。





  H16.9.1
減損早期適用の“余力”――棒鋼高騰で鉄鋼大手の収益急拡大
 
  (日経 H16.8.31)  
   鉄筋用棒鋼の取引価格が大阪市場で一段と上昇した。ベースサイズ(異形19ミリ)の総合建設会社(ゼネコン)向け商社販売価格は30日、1トン当たり6万―6万1000円と前週末比1000円(2%)高くなった。電炉値上げが浸透しているためで、大阪での6万円乗せは1990年代初めのバブル期以来12年半ぶり。
 JFE系のダイワスチール(神戸市)や共英製鋼(大阪市)など関西の電炉各社は商社に対して7月契約分で1000円(2%弱)、8月契約分で3000円(5%)の連続値上げを表明。一層の採算改善を目指す各社は、商社が値上げを受け入れなければ販売中止(契約見送り)も辞さない姿勢で交渉に臨んできた。8月契約分の場合、主原料スクラップの価格が高値修正局面にあることから、3000円は難航しているが、商社間では「2000円は受け入れざるを得ない」との見方が大勢。商社も販売価格が仕入れ価格を下回る逆ザヤ解消のためゼネコンへの転嫁を急いでいる。ゼネコンはこれまで6万円台の棒鋼価格に抵抗を示してきた。ただ、厚鋼板、H形鋼など主要建設用鋼材が1トン7万円以上の高値にあるため、商社の提示価格を受け入れ始めている。
 低迷していた関西地区の棒鋼需要も「最近引き合いが多くなった」(ダイワスチール)との声がでてきた。鉄スクラップ価格も秋口以降は反騰する見通しが多い。

いわせてんか! 鋼材の国内価格が上昇し、鋼板や棒鋼は十数年ぶりの高値となっている。春先の高騰は中国の需要増加が主な要因であったが、その後中国政府の投資抑制策などもあり五〜六月は比較的落ち着いていた。そして再び上昇局面に転じつつある。電機、自動車、造船などの国内の需要が好調であり、また郊外型店舗の改装といった設備投資関連の需要も堅調なため、先高を見越した買いが活発になり始めた。
 こうした世界的な鋼材需要の拡大を背景に、鉄鋼大手の収益が急拡大している。新日本製鉄の2005年3月期の連結経常利益は、前期比45%増の2500億円に達し、15年ぶりに過去最高益を更新する見通しだ。JFEホールディングスの連結経常利益も83%増の4000億円に拡大し、2年連続で最高益を更新する見込み(日経 H16.8.31)。
 収益が好調なことから、新日鉄は2004年3月期に減損会計を早期適用し、遊休不動産、テーマパークなど固定資産の減損損失を600億円計上した。JFEホールディングスも今期から固定資産に減損会計を適用する。連結対象会社すべてで固定資産の評価を見直し、保有する遊休地や賃貸ビル、ゴルフ場などを対象に、2004年9月中間期に800億円の特別損失を計上する(H16.8.30同社発表)。利益調整のために減損損失を利用している感も否めなくもないが、財務の健全化を進め、市場の評価を高めることが狙いであり、減損会計の趣旨である。
 鉄鋼業界の業績は鋼材価格に左右されるため一般に業績は安定的ではなく、特にバブル崩壊後の平成不況により業績は芳しくなかったが、このところ急速に(減損会計に耐え得る程に)回復している。このことは日本経済全体の回復も示しているのだが、鋼材や原油等の素材価格高騰は景気回復の足かせとなる懸念があり、今後の動向に注目したい。





  H16.8.25
三井住友銀行 減損・顧客6000社へのソリューション対応
 
  (リアルエステートマネジメントジャーナル(RMJ) 2004.9月号、p34)  
   三井住友銀行は、顧客企業の減損会計導入への支援・ソリューションサービスの強化に乗り出した。同行の顧客企業のうち、2005年度から強制適用される減損会計を導入する役6000社に対して、減損会計導入に際しての課題やニーズなどを把握するためのヒアリングを実施。日本総合研究所(日本総研)と組んで顧客へソリューション提案を行なっていく。
(以下は、同行・法人業務部上席部長代理企画開発グループ長、中根宏行氏の発言)

今まさに会計ルール作りを模索している企業。そこは出来たので次のステップとして 資産を動かす必要があり対応を考えなくてはならない企業。すでに導入済みの企業。 それぞれの顧客が今どこのポジションにいるのかをはっきりと把握することが第一の 目的です』
 
情報に飢えているという感じですね。もっと他社の事例はありませんかと聞かれます』
 
割引率を何%にしたらいいのかが難しいというか、決められないという悩みを多くの 顧客が抱えています』


いわせてんか! 中間決算を間近に控え、減損早期対応も本格化している。RMJ9月号では、『減損会計が生み出すソリューションビジネス』と銘打って、ビジネス対応を開始している企業のインタビューを特集している。上記記事は、その中での一節だ。
 去年10月末に適用指針は出たものの、具体例については当初、業種・業態別のものが出るとの話があったが、結局詳しくは掲載されず、Q&Aも出される予定がない。そこで、個別に企業が対応しようとすると、“一からルール作り”ということになってしまう。
 公表財務はIRなど、関係者への説明だ。依るべき基準が明確で、共通認識されているなら、それに従った開示ルールを取ればいい。しかし、今回は諸外国の減損基準適用に先んじて、日本は大々的に導入する。殆ど、適用指針を元に“独自の”ルールで出すしかないという現状ではないか?
 そこで、三井住友銀行のようにファイナンス側という、企業と対等の立場の組織が、多くの企業実例を元に“ルール”を提供することは、有用であろう。これは、監査法人など第三者・中立性を保持しなければならない専門機関が、内部の減損コンサルをしにくいという点がない部分も大きい。
 指針の“強制開示”と、IRとしての“自主開示”。いずれにしても、関係者とのいい関係を保つために、有効に利用しない手はない。ただ、あまり“独自”のルールでは、比較可能性や信頼性に欠ける。一定の共通ルールが望まれるゆえんだ。
 公的にルールが出ないのなら、民がつくるまでである。ビジネスベースではあるが、そこが民間。いい共通認識を醸成していく必要があろう。





  H16.8.4
知的財産会計と全面公正価値会計
    ―新たなバリュードライバーの情報を提供する
 
  (月刊税経通信 2004.8月号)  
   経済産業省企業法制研究会の「ブランド価値評価研究会」の委員長を務めた、早稲田大学教授・広瀬義州氏の『知的財産会計と全面公正価値会計-企業会計制度のリストラクチュアリング-』(p23〜35)より。

『…日本の企業は、長い間、原価(支払対価)−実現主義を基調にする取得原価主義を採用してきた。この取得原価主義は

  (1) 処分可能利益の算定
  (2) 財務監査による信頼性の担保
  (3) 受託責任の遂行状況の報告

という目的に最も適合するところから、日本の企業会計の基本的な計算システムとされてきた。
 しかし、いわゆる会計制度改革、とりわけ1999年の「金融商品に係る会計基準」によって、測定属性を異にする会計数値が財務諸表に混入されることになり、日本の企業会計は処分可能利益をストレートに算定できなくなったばかりではなく、貸借対照表の空洞化ひいては情報提供機能のパラドックス現象などの制度疲労を招いているのも否めない事実であるといえよう。』(p31)

『…さらには、現行企業会計のもとでは、バリュードライバーである知的財産などのインタンジブルはオフバランスのままにされ、簿価と時価総額などにみられる経済的実態からの乖離に加えて、情報の比較可能性をめぐる非対称な処理も顕著になってきている。いいかえれば、このような問題を抱えているにもかかわらず、対処しきれずに、結果的に処分可能利益算定機能も失いかけていることに、現行企業会計がかかえる制度疲労の深さ、問題の複雑さの縮図をみることができよう。』(p32)

『…今日の経済においては、金融資産、土地、設備資産などのタンジブルは、平均投資利益率を生み出すのがやっとの資産になりつつあるのに対し、インタンジブルが重要なバリュードライバーになっている。』(p35、注33)

いわせてんか! 会計基準のグローバリゼーションを主な起因として、金融商品時価会計、減損会計、企業結合会計などが相次いで導入されている。しかし、教授の指摘にあるように“一部のみ”異なった測定方式の会計基準を導入した結果、出てきた利益や財務諸表計上数値が何を表しているのかが曖昧になっている。
 だとすれば、統一基準として“全面公正価値会計”を導入すればよいかというと、問題はそう簡単ではないらしい。商法・法人税法・証券取引法のいわゆる“トライアングル体制”がガッチリ組まれていること、また、特に税法会計ベースで実務が行われていることがネックであるとのこと。例えば、減損会計適用指針に対する企業側の意見として、税法上の損金算入の希望がよく聞かれていることから推察できる。
 しかし、企業価値の重要な一角を占めつつある“知財”を適正に開示できないのも現実。既存の「有形資産」の収益性の頭打ちを考えると、利害関係者が欲する開示事項に対する阻害要因となりつつあるともいえる。
 そこで重要なのは、会計制度の一部導入は仕方ないとして、情報提供・開示の実質的有用性を担保することではないか。そこには、基準とコンセンサスが必要となろう。開示に対する認知・信頼が高まってこそ、的確な判断が可能となる。
 その中に、資産の評価が含まれている。新会計基準で採用された、各々の適用資産の「時価」。評価技術など有用な開示が確保されれば、全面的ではないにしろ、過渡的には投資判断等に有用な情報を提供することにつながると考える。





  H16.7.28
知的財産評価で評価人が留意すべき事項
 
  (日本公認会計士協会・研究報告 H16.6.15)  
   日本公認会計士協会は、H16.6.15付けで、経営研究調査会研究報告第24号『知的財産評価を巡る課題と展望について(中間報告)』を公表した。同報告書は平成13年の第12号報告『知的財産の評価(中間報告)』の内容を受けた形で更に踏み込んだものである。

   『…本中間報告は、「知的財産の活用」という側面から、基本構成を(1)知的財産の会計と開示、(2)知的財産の評価アプローチと評価方法及び(3)評価目的(管理目的、資金調達、実施及び訴訟)ごとの評価方法の三つに分け、現状と課題について調査研究した。』(Press Release)

  …具体的な会計・ディスクロージャー、評価方法の調査研究を次のとおり行った。
(1) 知的財産の会計とディスクロージャー
(2) 知的財産の評価アプローチと評価方法
(3) 非財務データによる知的財産評価方法
(4) 資金調達のための財産評価の課題と展望
(5) 実施料率決定における知的財産評価の課題と展望
(6) 知的財産訴訟における損害額算定の課題と展望
(7) 資本コスト算定法』』(Press Release)

以下は、(2)知的財産評価の留意点(p3〜4)の項目と一部抜粋である。

  (1) 評価人が留意すべき事項
機密性、批判性、価値相対性、不偏性、限定性
Ex)批判性
現実には多くの場合、依頼人から入手する情報に依存する。将来予測も含んでい る。依頼人は対象とする知的財産に対して、一定の主観、期待、先入観がある(例 えば、「評価額が高いはずである。」あるいは「高く評価してほしい。」)。こ ういった者からの情報を無批判に使用するのではなく、自分の経験や専門的知識、 さらには、自ら入手した情報と比較検討した上で使用する必要がある。』
  (2) 評価対象を識別する場合に留意すべき事項 分離・識別可能性、法的権利性、予測可能性、測定可能性、提示可能性 Ex)提示可能性
 『依頼人は評価人に対して必要な情報をすべて提供できなければならない。…』
  (3) 評価方法を選択・実施する場合に留意すべき事項 目的適合性、信頼性、相互補完性、確実性、検証可能性 Ex) 信頼性
一般に認知された評価方法を採用しなければならない。新しい評価理論を採用す る場合、その評価方法の認知度、信頼性、理論構築の正確性を適正に判断する必 要がある。依頼人に有利な結果をもたらすような評価方法を恣意的に選択するこ とも避けなければならない。また、依頼人に理解困難な評価方法も避ける必要が ある。』
Ex) 相互補完性
唯一絶対の評価方法はない。それぞれ長所と短所がある。ある評価方法に短所が ある場合、それを補完する評価方法を併用したり、あるいは、補完的に採用した 評価方法の評価結果を補足情報として提示するなど相互の補完関係を確保しな ければならない。』

いわせてんか! 詳細な報告書である。
 記事で引用した箇所は、評価における“基礎的なモラル”である。バイアスのない的確な情報を十分に収集した上で、評価目的に応じた適切な手法を適用して評価を行う。特に知財は、価値のある資産として発展途上のため確立した評価方法がなく、その公正性を担保するためには、専門性を遺憾なく発揮する必要があるといえる。そこでは、評価の恣意性を排除するために、評価人に対して強いモラルが求められる。
 これは何も、知財に特有のものではない。既存の資産であっても、新たな視点で取引が行われるなら、新たなアプローチが必要とされるし、資料収集が困難なら、公正性を担保するために、理論的正確性が強く求められる。
 会計に限っていうなら、適正な開示が行われ、これを利用するステークホルダーと企業の良好なコミュニケーションが確保できればいいのであるから、基本的な評価ルールのコンセンサスを得られればいい。その意味で、このような報告書が公表されるのは好ましいことであるし、分かり易い基準が求められているとおもう。





  H16.7.7
FASB―会計上のFair Valueは『仮想の』交換取引に基づく、と改訂
 
  (FASB Exposure Draft, June 23, 2004)  
   FASB(米国・財務会計基準審議会)の公開草案、Exposure Draft of a proposed Statementof Financial Accounting Standards, "Fair Value Measurements"(公正価値測定に関する財務会計基準提案)が6月23日に出された。コメント期日は、9月7日である。

 公正価値の定義
 4. 公正価値は、資産又は負債が、取引の知識がある、無関係の自発的な当事者間で行われる、現在の取引において交換されるであろう価格(price)である。 "Fair Value is the price at which an asset or liability could be exchanged in a current transaction between knowledgeable, unrelated willing parties."  

旧定義:『資産(負債)の公正価値とは、自発的な当事者間で行われる、現在の取引において売買(発生・決済)される量(amount)をいい、その取引は、強制及び清算売買以外の取引におけるものである。』 "The fair value of an asset (liability) is the amount at which that asset (liability) could be bought (incurred) or sold (settled) in a current transaction between willing parties, that is, other than in a forced or liquidation sale.")

 5. 公正価値測定の目的は、資産又は負債の現実の取引がない場合に、そのひとつの交換価格(an exchange price)を見積もる(estimate)ことである。それゆえ、当該見積りは、自発的な当事者間で行われる、現在の仮想の取引(a current hypothetical transaction)を参考にして決定されることになる。自発的な当事者は、無関係の売り手と買い手を代表とする市場参加者であると仮定され、彼らは、(a)取引の知識がある、つまり、資産又は負債及び取引に関連する要因について、一般的レベルの理解があり、(b)同じ市場で取引することを望み、かつ、それが可能である、つまり、取引を行う法的及び経済的能力を有している。公正価値は、強制(強要)がないことを前提としている。したがって、当該見積りのベースとなる(amount)は、強制的な清算取引や投売りではない取引において観察されるところの価格(price)である。すべてのケースにおいて、当該価格は、現在、上記のような取引へ参加しようとしている事業体の意図(an entity's intent)にかかわりなく見積もられるべきである。

いわせてんか! アメリカの会計基準で、「公正価値」の定義が変更される。基準の該当個所の改定も同時に行われる。大きな改訂点は、現実の取引がない場合に、交換価格を見積もることであり、現在の仮想の(hypothetical)取引を参考にして決定されることである。これまでは、資産の売買(be bought or sold)と負債の発生・決済(be incurred or settled)とされていたものを、仮想の取引における交換価格とした。
 FASBは改訂の背景として、測定すべき資産・負債に関して、現実の取引がない場合に、仮想の交換取引概念(a hypothetical exchange transaction notion)は、資産・負債のある一つの交換価格を複製(replicating)するために欠くべからざる概念であることを強調している。
 また、公正価値を(amount)から価格(price)へ変えたことは、仮想の交換取引と呼応しているとおもわれる。前者は、価値という抽象概念も含み、“一点の”具体的数値というには忍びない。一方、後者は具体的結果である。仮想の市場を描くなら、当該(あるべき)市場での理想的交換価格は“一点”であろう。その仮想価格こそが「公正価値」というわけだ。
 国際会計において、開示面での改革が急速に進行し、財務諸表計上数値の信憑性が問われている。特に、市場での証拠が十分得られない、または、全くないもの、つまり「市場価値(Market Value)」測定が困難な資産・負債の価値が問題になっている。そこに対応するための改訂であろうし、だから、『仮想取引』が持ち出されているのだろう。
 公開草案では、このような場合の市場想定や評価手法についても言及している。証拠がないところに“理想の一点”を求めるのだから、なるべく“それっぽい”理論を駆使するほかはない。さすがに、ここは資産価値(価格)評定のプロが必要とされるところだろう。
 日本の減損会計における『時価』も、同じような問題を抱えているといえる。制度の本旨としては、不動産から知的資産まで、減損認識時点での、様々な固定資産の“理想の一点”を要求されているにもかかわらず、金融資産の時価会計における市場ヒエラルキーや代替的評定手法のような指針は、十分に提供されているとはいえない。





  H16.6.23
知的資産―評価法の手法の開発が必要
 
  (日経H16.6.21『経済教室』)  
  奥野正寛氏(東京大学教授・理論経済)、西山圭太氏(経済産業省情報調査課長)

『知的資産の評価・開示には大きく分けて二つのアプローチがある。一つは、知的資産をブランド、人的資本など個別の資産に分け、その価値を数値化するアプローチである。もう一つは、知的資産を充実するための経営課題を定性的に記述し、投資家がその進ちょくを確認できるような定量的指標をあわせて示すアプローチである。』

『…事業再生、ベンチャー、SRI(社会責任投資)など様々なファンドの主な役割は、価値創造という視点からの企業評価にあるといって良い。』

『…企業にとって、経営のプロに加えて、評価のプロが不可欠になるという意味で、二十一世紀は「所有と経営と評価の分離」の時代かもしれない。』

いわせてんか! 経済産業省は、H14.6.24に『ブランド価値評価研究会報告』(企業法制研究会)を出し、アンケートを下に、企業価値の決定要因としての“ブランド”を取り上げた。その中で『土地等の有形の経営資源(「タンジブルス」)』…から知的財産、研究開発費、ノウハウなどの無形の経営資源(「インタンジブルス」)…へと大きくパラダイム・シフトしつつある』(p6)と述べている。
 この記事では題目で「評価・開示」と書かれてあるように、評価手法の定立もさることながら、その過程を開示してゆくことに重きを置いている。単純に例えば、土地→知的財産権→知的資産と比較すると、いずれも企業の資産として重要な項目であり、企業の価値を創造しているものなのだが、評価して“定量化・数値化”するのは、後ほど困難である。それを担保するのが開示というわけだ。記事内ではその例として英国を挙げ、『英国の企業活動財務報告書は、CSR(企業の社会的責任)の評価を知的資産の評価と連続的にとらえ、CSR評価も記載事項に含んでいる』と紹介する。上記にある後者のアプローチは、知的資産充実の進み具合を開示することで、間接的に評価責任を果たしていこうとしている。
 資産の評価は、これだけで別分野である。有形・無形を問わず、共通の評価モデルは存在する。特に企業価値の場合、ステークホルダーに対する責任を果たす意味で、早期に研究・開発が望まれていると思う。
 片手間ではなく、『評価のプロ』が必要なのである。





  H16.6.16
公正価値測定の実際的課題〜投資不動産の場合
 
  (公認会計士協会、内部答申)  
  日本公認会計士協会東京会・答申「企業会計における時価について検討されたい」
(H13.6.14、公認会計士業務資料集第41号)

第3章 金融商品以外の資産の論点
  3.投資不動産
  (4)投資不動産の公正価値(時価)
  [2]公正価値測定の実際的課題

『…投資不動産の公正価値の測定にあたっては、不動産鑑定士による鑑定評価の利用も考えられる。…英国では、上場会社に関しては認められた専門的資格を有し、且つ評価対象不動産の属する地区において同種の不動産について実務経験のある外部の鑑定人による評価が必要とされ、評価をした者を注記により開示することとされている。現行の日本の制度では、例えば販売用不動産の評価等について不動産鑑定士による鑑定評価は強制されていない。また、販売用不動産に関連して平成12年7月に公表された「販売用不動産等の強制評価減の要否の判断に関する監査上の取扱い」では販売用不動産の強制評価減の際の評価額の例示が示されており投資不動産の公正価値の把握にあたっても参考になろう。但し、ここでは鑑定評価額、公示価額、路線価による相続税評価額等、その方法により金額に違いが生ずるであろう例示が併記されており、公正価値モデルでは評価益も生じうる投資不動産の評価にあたって、この点を如何に考慮するかも検討が必要と思われる。』(下線、筆者)(p67〜68)

[3]投資用不動産の予測キャッシュ・フローの割引現在価値の計算
   c.割引率

『割引率については、投資不動産の市場の収益率によること等が考えられるが、現状ではそのようなデータが整備、公表されているわけでもない。また、IASでは回収に伴う不確実性を加味した割引率を用いることとしているが、その数値的見積りの具体的手法を示していない。こうしたことから具体的に適用する割引率の決定は困難なものと考えられる。これは割引率だけの問題ではないが、予測値の決定にあたっては恣意的な判断がなされるおそれが強いことから考えると、割引現在価値の測定にあたって何らかの参考となるべき基準が示される必要があるのではないだろうか。或いは画一的な基準の制定が困難であれば、情報を利用する投資家が評価の信憑性を判断する情報として、見積期間の決定方法、キャッシュ・フロー見積りの方法・前提、割引率の決定方法等についても開示をすることが検討される必要があろう。』(下線、筆者)(p69)



いわせてんか! 不確実な事項をある利用者に信じてもらう、いわゆる信憑性を担保するためには、出来るだけそのことを確実に実行できる手段を講じておくことと、その過程と結果を、きちんと全て『開示』することが早道だろう。
 上記イギリスの制度は、その点で押さえがきいてきる。

  [1] (公に)認められた専門的資格を有していること
[2] 評価対象不動産の属する地区において同種の不動産について実務経験があること
[3] (当該企業の)外部の鑑定人であること
[4] 評価をした者を注記により開示すること

特に、[2]の条件は実質的だ。評価対象不動産がある地域をよく知り、かつ、その用途の不動産の鑑定経験があれば、より適正な評価を実施することができるだろう。反対に、これがないとすると、いくら鑑定の専門的資格があっても、評価書の信憑性は落ちる。さらに、財務諸表に注記することで、その評価責務から“逃れることは出来ない”。
 これに比べて日本の制度はいかがか。上記答申の段階では「減損」は出ていないが、これも多くの部分で、主に実務的負担への配慮から、“担保”に必要となる実質要件が緩和(しり抜け)されている。
 まず、兆候把握の段階では『一定の評価額や適切に市場を反映していると考えられる指標(公示価格や路線価など、筆者註)』(減損適用指針90項)の利用を容認し、測定の段階でも『現在時点の正味売却価額を算定する場合には、…代替的な手法(上記のような指標、筆者註)は適当ではない』(111項)としつつも、不動産に関しては、『「不動産鑑定評価基準」に基づいて算定する(下線、筆者)』(28項(2)[1])として、評価に関する公的資格を有していない自社(内部)評価を原則としている。また、評価責任主体の開示も要件とはなっていない(58項(5))。果たして、このような制度内容で、投資家などに信頼される評価を実施することができるだろうか?
 「割引率」などは、恣意性の最たるものだろう。減損では、不動産なら時価算定で不動産鑑定評価基準の「収益還元法・DCF法」(28項(2)[1])、また、企業特有の「使用価値算定」(43〜47項)において、その決定が必要となる。上記答申では、第5章(4)『時価の課題−見積りの信頼性について−』において以下のように記述する。

  『…FASBでは、(企業特有の価値ではなく測定を実行する経済主体から中立の)公正 価値としての現在価値の測定を原則としていながら、「現在価値測定の目的として公正 価値を採用するからといって、企業の期待に基づいた情報と仮定の使用を妨げるもので はない。」(FASB概念書7号 パラグラフ38)として経営者の見積りを完全に排除して いるわけではない。』(p81)

『…減損会計の割引率(米国基準)は、当該資産の固有のリスクに見合った市場の収 益率によるとしているが、割引率にリスクを反映させるのであれば、いかなるリスクを 反映させるのか、割引率は、貸借対照表日現在のカレントレート、それぞれの資産負債 に組込まれているヒストリカルレートもしくは、ある一定の長期平均レートのうちどれ を反映すべきかという問題がある。』(p82)

 先駆としてのアメリカでも、市場収益率一本では無理と判断しているように、割引率には苦慮しており、その明確なガイドラインは定められていない。そのため、次善の策として『開示』が重視される。

  『…見積りの信頼性は、計算技法の指針の作成以外に、見積りの仮定や方法などを開示することによって高めることができると考えられる。例えば、米国では退職給付会計の割引率について、証券取引委員会(SEC)やアナリスト達の厳しい目が光っているため、各企業の選択幅は一定の方向に収斂する傾向にあるという。こうした各企業の会計情報を評価し監視するネットワークの形成が、経営者の恣意的な見積りに対して抑制する機能を果たすのではないかと思われる。』(p82)

 評価が専門の鑑定士、監査が専門の会計士といっても、例えば『減損』という会計制度が十分にその制度趣旨を全うするよう機能しようとすると、その働き自体、一般的な専門職業家としての責任の上に、制度趣旨に則った“実質的信憑性”を担保する努力が望まれる。例えば、現行の減損会計基準やその適用指針の中に、この“実質的信憑性”を担保する規定がない、もしくは、要件緩和されているとすれば、自主的にこれを“強化”する手立てをすれば信頼性は高まるし、各専門家は、これを積極的にアドバイスする必要があるのではなかろうか?
 “基準があるから、これだけでいい”では、法や制度の“責任”は果たしていても、専門職業家としての“責務”は全うしていないといわざるを得ない。





  H16.6.9
評価の『三手法』を出来る限り併用・斟酌する意味
  ―“公正な評価額”と胸を張っていうためには・・・
 
  (不動産鑑定評価基準、その他評価報告書)  
   不動産鑑定評価基準(平成14年7月3日全部改正、国土交通省)

  総 論
第8章 鑑定評価の手順
第6節 鑑定評価方式の適用
鑑定評価方式の適用に当たっては、鑑定評価方式を当該案件に即して適切に適用すべきである。この場合、原則として、原価方式、比較方式及び収益方式の三方式を併用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により三方式の併用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである。

第9章 鑑定評価報告書
第2節 記載事項
此ヾ嫩衂床然曚侶萃蠅陵由の要旨
3.鑑定評価方式の適用に関する事項
鑑定評価の三方式を併用することが困難な場合にはその理由を記載するものとする。

『特許流通市場における特許価値評価システムに関する調査』(平成15年3月、特許庁、(社)発明協会・特許流通促進センター報告)

  『知的資産の評価については、特別な評価システムが存在するわけではなく、通常は企業価値や事業評価の算定に用いられるDCF法(インカム・アプローチ)や類似企業比較法(マーケット・アプローチ)などが用いられる。…多くの場合はインカム・アプローチが適していると言われるが、マーケット・アプローチやコスト・アプローチも利用される。』

経営研究調査会研究報告第12号
『知的財産の評価(中間報告)』(平成13年7月16日、日本公認会計士協会)

  II    知的財産評価の基本的な考え方
1 . 知的財産の評価方法
『…以上より、いずれの方法も絶対的に優れているとはいえない。評価を行う状況や評価の目的などに応じて、各方法を使い分けたり、いくつかの方法を併用することとなろう。』


いわせてんか! 前回からの続きである。
 特許庁や、公認会計士の『知財』に関する評価の報告書の中で記載されている評価ルールと、不動産鑑定評価基準のそれとを比較すると、各評価手法の“相互関係”が異なっている。前二者はいずれも、ニュートラルに目的等で手法を使い分けたり併用したりする、という観点しか述べられていないが、不動産…の方では、併用が困難でも出来る限り斟酌せよ、と念を押している。その違いの意味するところはいずれにあるのか?
 また、櫛田先生に登場してもらおう。(『不動産の鑑定評価に関する基本的考察』(櫛田光男、住宅新報社、1966.3)

  『…三価格、すなわち、(1)その不動産自体の効用に相応する価格(収益価格)、(2)その不動産と同じような効用をもつ不動産を新たに造る場合に必要とする費用から割り出した価格(復成原価(=積算価格))、および(3)その不動産と同じような効用をもつ不動産を別個に手に入れる場合に必要とするであろう対価から割り出した価格(比準価格)、の三者は、市場人が市場において行動する場合に、必ず考えるであろう価格であるといってよろしいでしょう。市場人は、この三価格を考えて、ある価格を採用し、それを市場において表示します。この表示された諸価格が、市場という仕組みの中で揉まれ、淘汰されて、一個の正常価格が成立するのであります。』(p147)

『…出来れば三方式をどの場合にも適用して三価格を求め、相互験証をするのが万全なのでありますけれども、これはそれぞれ必要にして十分な資料が手にはいる場合に限ってこれを適用するのでありまして、若し対象不動産の性格上必要資料を欠くとか、また何らかの事情で十分な資料が入手できないようなときには、三方式の中の一または二方式で満足するほかはありません。そして信頼度の高いものを必要なだけ選んで、これについて定められた方法に則ってこれを処理するということになるのではないかと存じます。そして一または二方式によらざるを得ない場合でも、出来る限り相互験証の為に他の方式の考え方をとりいれるように努むるべきで…あります。』(p160)

 市場のプレーヤーが値付けする仕方(三手法)を出来る限り注意深く分析することで、いわゆる適正な価格とか公正価値が見出せるということだろう。その資産の性質などから、データや情報が得られないか極小の場合、安易にその手法を切り捨ててしまったらどうか?例えば、コストの見積もりが困難だからといって、コスト・アプローチ(もしくはその考え方)を全く適用しなければ、製作者(供給者)などの気持ちや意見が価格に反映されないことになってしまう。果たして、その価格に彼は納得するだろうか?少なくとも、そのアプローチも適用しつつ、“現在の市場で、この積算価格では買う人はいないんじゃないですか?”という説得を試みる必要がありはしまいか?
 公正価値の評価ルールとして、この“三手法の併用”は重要なテーマである。例えば、H16.5.12号『無形固定資産の鑑定評価―あの『青色LED』の鑑定書』の記事で紹介したような“とんでない価格の乖離”は、この併用の倫理観があれば、起きなかったのではなかろうか?併用していれば、乖離の大きさを説明する責任があるし、調整した上で最終価格を出す段で、“ある手法を適用せずに、この手法を採用した”理由を述べなければならない。評価専門家には、その倫理と責務が課されているといえよう。
 その点で、評価ルールとしての不動産鑑定評価基準は学ぶべきところが多いと思う。不動産鑑定士は、資産評価が主な業務である。しかし、上記他士業(弁理士や公認会計士など)は、資産の内容や監査といった主要業務があるため、評価に特化して考えると、倫理や意識が醸成されていない部分もあるように思われる。評価の基本ルールは鑑定士が提供し、個々の資産の特殊性は、各資産の専門家が提供することで、資産評価はもっとわかりやすくなる。是非協力が望まれる。

 減損会計基準・適用指針においては、その109・110項で以下の如く記載されている。

  『市場価値が算定できない場合に求められる…合理的に算定された価額は…資産の特性等によりこれら(三手法)のアプローチを併用し又は選択して算定することとなると考えられる。』(109項)

『「不動産鑑定評価基準」において・・減損処理を行うにあたって時価に対応するものは正常価格・・である。正常価格を求めるにあたっても、第109項に掲げられた3手法の適用により求められた価格(試算価格)を調整して、鑑定評価額を決定する。例えば、船舶・航空機、建設機械等、同種の資産に中古市場があれば、マーケット・アプローチを基礎として、また、その資産に汎用性があれば第三者の利用を前提としたインカム・アプローチを基礎として、合理的に算定された価額を見積もることが考えられる。』(110項)

109項では、やはり資産特性で“適用可能な”もしくは“より適切な”手法を単独でまたは併用して使うことのみの記載にとどまっている。また110項で、不動産に関しては鑑定基準の正常価格を挙げて、「調整」という3手法斟酌の単語を借用しているが、「調整」自体の真意を表現しかねているし、例示も、市場資料等から“ハマる”手法をベースにしなさい、とまでしか書かれていない。説得性・納得性の点からは、もう一歩踏み込んだルール作りが望まれるところである。

 なお、International Valuation Standard (IVS)2003(国際評価基準2003年版)、General Valuation Concepts and Principles(評価の一般概念及び原則)に、これに関連する記述がある。以下に掲げておくので参考にしていただきたい。(訳は、不動産鑑定士・平峯毅氏((社)日本不動産鑑定協会ホームページ掲載)を一部借用した。)

9.5 Each valuation approach has alternative methods of application. The Valuer's expertise and training, local standards, market requirements, and available data combine to determine which method or methods are applied. The reason for having alternative approaches and methods is to provide the Valuer with a series of analytical procedures which will ultimately be weighted and reconciled into a final value estimate, depending upon the particular type of value involved. (p47)

各評価手法(valuation approach)には、その適用に当たって、代替的な方式(alternative methods of application)がある。評価人の専門知識と、各地域の基準、市場が要求するもの及び入手可能な資料が組み合わさって、どの方式、あるいは、どの方式の組み合わせが適用されるかが決定される。代わりの方式があるのは、評価人に、一連の分析手順を提供し、求める価値の種類に応じて、最終的には、ウエイト付け(weighted)を行い、試算価格の調整(reconciled)を行って、最終鑑定評価額を求めさせるためである。

9.6 Valuation approaches and methods are generally common to virtually all types of valuation, including real property, personal property, businesses, and financial interests. However, valuation of different types of property involves different sources of data that appropriately reflect the market in which the property (and/or service or business) is to be valued. For example, individual buildings are commonly sold and valued in the relevant real estate market whereas the values of the shares of stock in a property company that owns a number of buildings are reflected by pricing in the relevant shares market. (p47)

評価方式は、不動産、動産、企業、金融持分等全ての評価に事実上、共通している。しかしながら、異なる種類の資産の評価は、評価対象資産(又はサービスや企業)の属する市場を適切に反映する資料・情報を必要とする。例えば、個々の建物は通常、関連する不動産市場で売買され、かつ評価される。他方、多くの建物を所有する不動産会社の株式の価値は、当該株式市場の値付けを反映する。







  H16.6.2
「不動産」と「特許権」を同様のルールで評価するには?
 
  (特許庁H15.9調査報告より)  
   特許庁がH15.9に公表した『特許流通市場における特許価値評価システムに関する調査』((社)発明協会・特許流通促進センター報告)のp74には、『第3章 各種特許価値評価システムの分析・比較検討』と題して、知的資産の評価方法の概要(3-1)が述べられている。

『知的資産の評価については、特別な評価システムが存在するわけではなく、通常は企業価値や事業評価の算定に用いられるDCF法(インカム・アプローチ)や類似企業比較法(マーケット・アプローチ)などが用いられる。…多くの場合はインカム・アプローチが適していると言われるが、マーケット・アプローチやコスト・アプローチも利用される。』

 『(1)インカム・アプローチの概要
   知的資産の経済的寄与(インカム)の流列を推計し、経済的寄与を積み上げて知的資産の価値を計算する方法…
 (2)マーケット・アプローチの概要
   …評価を行う知的資産に類似した知的資産の取引価格を調査することで、知的資 産の価値を類推する方法…
 (3)コスト・アプローチの概要
   …現時点で知的資産を再作成する場合に要するであろう総額を資産の価値とする 方法…』

いわせてんか! 資産の評価方法といっても、特許庁が書くとこういう表現になる(参考文献の表現に近いだろうが)。ちなみに、国土交通省筆の「不動産鑑定評価基準」では、以下のようである。

 『収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である。』

 『取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法である。』

『原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である。』

 財務省管轄の日本公認会計士協会が発表した、経営研究調査会研究報告第12 号『知的財産の評価(中間報告)』(平成13年7月16日)では以下のようだ。この報告は、「FMAC 研究報告第7号"The Measurement and Management of Intellectual Capital: An Introduction"が21 世紀の当協会及び会員にとって極めて重要性をもつとの認識に至った。」(p3)(*FMAC=国際会計士連盟(IFAC)の下部組織である『財務管理会計委員会』)として、グローバル会計にキャッチアップするよう作成されたもののようである。

『II 知的財産評価の基本的な考え方
1 .知的財産の評価方法
 知的財産を評価する方法としては、他の資産の場合と同様に、次の三つの方法が考えられる。

  (1) コスト・アプローチ
  (2) インカム・アプローチ
  (3) マーケット・アプローチ

 コスト・アプローチは、知的財産の取得に要したコストで評価する方法である。この方法の長所は、客観的な評価が容易に行えることにあるとされている。他方、コスト・アプローチの短所は、知的財産がもたらす将来の利益やリスクを必ずしも反映しない点にある。すなわち、コストが高いからといって、将来において大きなキャッシュ・フローを生むとは限らない。
 インカム・アプローチは、知的財産を、その権利から得られる将来キャッシュ・フローの割引現在価値で評価する方法である。この方法は、将来の利益やリスクを反映している点で優れている。他方で、将来キャッシュ・フローの予測や割引率の設定が困難である。
 例えば、ある特許権から得られる将来キャッシュ・フローを予測するには、その特許を利用するとどのような製品が実現できるか、それらの製品がどれだけ販売できるかなどを想定しなければならない。これは容易な作業ではない。したがって、客観的な評価は難しくなる。
 マーケット・アプローチは、市場における評価に基づいて知的財産を評価する方法である。この方法は、知的財産の将来の利益やリスクを反映しており、しかも容易に客観的な評価が可能である。しかし、知的財産については活発な取引市場が存在しないことが多いため、実際には適用できないことが多い。
 以上より、いずれの方法も絶対的に優れているとはいえない。評価を行う状況や評価の目的などに応じて、各方法を使い分けたり、いくつかの方法を併用することとなろう。』(p6)

 単純な感想だが、特許庁や会計士の解釈は、割合と素直なところである。比較して、鑑定規準は“評価技術”に振った、多少判りづらい定義になっているようだ。定義の中に専門用語があり、さらに注釈が必要となる。
 三者三様な定義だが、意図するところは共通のようだ。評価手法定義は、混乱を招かぬよう、できる限り簡潔・簡明に、全ての評価対象となる資産にあてはまるよう作成して、後は、各々の資産の特性に応じて説明を加えていったらよいと思う。
 そうすれば、同様のルールで評価アプローチを行うこととなり、その結果導き出された価格は、財務諸表上、十分に比較可能な数値となるだろう。減損会計でいえば、割引率ひとつとっても、どの資産がWACCを使うのか、修正ハードルレートなのか、市場平均なのか…。インカム・アプローチとしては同様で、割引率について、資産特性に合わせて説明するなら、より説得力を増すかもしれない。





  H16.5.26
「正常価格」と「公正価値」の接点
       -「fair」「fairly」「壺にはまった」「納得され得る」
 
  (櫛田光男『不動産の鑑定評価に関する基本的考察』住宅新報社、1966.3、p98〜99)  
   『正常価格の定義中に、「・・・成立するとみとめられる適正な価格」とか、また「価格の占める適正なあり所を指摘する」とか、その他随所に適正という言葉が用いられています。この適正という言葉の意味について今まで触れることなくしてまいりましたが、この機会に私見をいささか申述べておきたいと思います。この言葉は、英語でいえば、fairとかfairlyとかいう言葉に相当するものと思われます。俗な言葉でいえば、「壺にはまった」とか、「納得され得る」とかいうことでありますが、そのものであるか、あるいはそのでないまでも許容し得る程度においてそのものに近似している、という程の意味であると思います。それで、適正な正常価格というときには、それは一般自由市場で成立する価格と同じものであるか、同じでないとしても許容し得る程度にその価格に近似していて、同じとみることのできる価格、という意味になると思います。』

いわせてんか! 櫛田先生の基本的考察を読んでいて、「壺にはまった」。
 国際的な基準における「公正価値(fair value)」を研究していて、不動産鑑定評価基準の「正常価格」との違いを悩んでいたのだが、「適正な」というところでつながっていたとは、灯台下暗しである。
 「正常」というと、(想定した)市場の「条件」に重きを置いた意味合いになる。価格の「適正性」に重点を置くと、「公正価値」に近くなってくるのだろう。同じ事を意味しているようで、価値判断の側面が異なっているというところか。
 不動産はひとつとして同じものがないので、市場を適切に“代行”する鑑定評価に寄らないと、価格がわからない。『・・・市場で成立する価格と同じものであるか、同じでないとしても許容し得る程度にその価格に近似していて、同じとみることのできる価格』。同じ、と目されるほど「条件」を整えるか?利害ある取引当事者が、両方とも「壺にはま」ったり「納得」するよう、説明するか?表裏一体のようだが、今、紛争解決が求められているなら、後者が重要視されてよいように思われる。
 会計上の「公正価値」、日本では「公正な評価額」(金融商品時価会計、減損会計、財産評定ガイドラインなど)として馴染みがあるが、この「適正性」の観点が重視されている。減損でいえば、企業固有の「使用価値」と比較する「時価」の定義で用いられているので、特に市場の声を代弁する「適正」さが求められているということになる。





  H16.5.19
『不動産の鑑定評価に関する基本的考察』の「正常価格」
       -不動産鑑定評価基準・創成期の書物に触れて…
 
  (表題書・櫛田光男、住宅新報社、1966.3)  
   「正常価格とは、不動産が一般の自由市場に相当の期間存在しており、売手と買手とが十分に市場の事情に通じ、しかも特別な動機をもたない場合において成立するとみられる適正な価格をい(う)」(第2、一、(一))(p339)

 『「一般の」
  公開のもので、通常の人であるならば誰でも市場人として参加できる
  「自由市場」
  その中で市場人が合理的に行動する、つまり・・極大の原則(最少の費用(犠牲)をもって、最大の効果(満足)をあげる、p34)に従って行動することについて、外部から何らの制限をうけることがない
  「相当の期間存在しており」
  物件の現状とか、用途などについて、つまり現在何に用いられており、今後何に用いられるか、最有効使用の現状と将来などについて十分にこれを確認検討する時間的余裕がたっぷりとある
  「売手と買手」
  集合名詞として理解する
  「十分に市場の事情に通じ」
  市場の動向、その背後にある需給の関係、一般的要因の変化や推移移動などについて、十分に事情を弁まえて(いる)ことで、市場についての十分な知識と情報をもっているということ
  「特別の動機をもたない」
  たとえば、売り急ぎ、買い急ぎなど、売手、買手の合理的な活動を制約し、売りまたは買いを強制する特別の内部的な事情が売手及び買手のいずれにも存しない。つまり自由であるという意味』(p41)

『…正常価格というものは、売手、買手の双方が、いずれも得はしませんけれども、同 時にいずれも損をしないような価格として、したがって、誰にでも通用し、誰もが納得す る価格として市場という仕組みをとおして、社会一般が認めるものであるということが出 来ましょう。』(p42)

いわせてんか! 櫛田氏は、宅地制度審議会のメンバーとして元祖・不動産鑑定評価基準の取りまとめをされた方であり、その「前文」と「基本的考察」を書き下ろされた起草者である。この本を書かれた理由は、『まえがき』で『(編集の)最後の段階において、…草案に大斧鉞を加えたのでありますが、あるいは加えすぎたかもしれません。その結果、論旨の展開に断落らしいものを生じて、判り難い個所が出来た…それで、この基本的考察はどのような発想に基づいてそれが展開されたものであるか、そしてその行文の行間をどのように填めたらよいのであるか、ということについての私の考え方を、この際ご披露することが必要なのではないか、これがいわば罪滅しとも申すべきものであって、私の責務なのではないかと思い直したのであります。』(p.zC)と述べられ、説明を試みておられる。

   ちなみに、現在の正常価格の定義は以下の如くである。

 『正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう』(第3節、機■院

   市場の条件がこの後続くが、正直よくわからない。
 今の文言は、数次の変遷の後のものであり、最近では平成14年に改定された。『現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす』という文言が付加されたのだが、その意味について「要説不動産鑑定評価基準」では、『…社会経済情勢を与件として扱い、(そ)の一部を捨象したり理想的な条件に置換したりしないことを要請しているのである。すなわち、不動産鑑定評価で求めるべき正常価格は、現実の社会経済情勢を所与とした上での市場及び市場参加者の合理性を前提とした市場で成立する価格であり、「あるべき価格」ではなく「ある価格」であるといえる。』(p94)と述べられている。
 それと比べると、元祖の文言は明快である。これは国際評価基準(IVS)や国際会計基準(IAS)のそれと類似している。元々、日本の基準自体がアメリカの鑑定基準を参考にしており、概念的な部分で共通のものがあっておかしくない。
 櫛田氏の説明の中で、一番得心が行くのは、「誰にでも通用し、誰もが納得する価格として市場という仕組みをとおして、社会一般が認めるものである」という段である。「あるべき価格」だろうと「ある価格」だろうと、関係者や社会一般が納得したり認めたりできないものは、適正な価格とはいえないだろう。
 また、文言は非常に大切だとおもう。日本語で記載する限り、その使用された日本語の意味は、一般的であれ、特殊であれ、その文書全体の意味を拘束する。そうすると、曖昧で多義的な意味を多く含む語を使用する場合は、細心の注意が必要であり、極力避けるべきである。定義ならなおさらだ。現基準の『市場性』『現実』『社会経済情勢』『合理的』『市場価値』という文言は、多義的で、悪く言えば“どうとでもとれる”。
 現実的には、法律や会計制度において、利害が対立する関係者の不動産の価値・価格を評価する際、「不動産鑑定評価基準」や「正常価格」が借用される場合がある。その場面で、なるべく紛争を解決し、当事者双方が「納得する価格」を鑑定士が評価することが期待されている。しかし、上記のような曖昧さが、逆に混乱を招いていることも見聞きする。早急に整理されなければならない問題である。

 具体的に、減損会計ではその適用指針(企業会計基準適用指針第6号『固定資産の減損に係る会計基準の適用指針』H15.10.31、企業会計基準委員会)の第28項「正味売却価額」では、『…市場価格が観察できない場合には、合理的に算定された価額が時価とな(り、それは)…市場価格に準ずるものとして、合理的な見積りに基づき、以下のような方法で算定される。(1)不動産については、「不動産鑑定評価基準」(国土交通省、平成14年7月3日全部改正)に基づいて算定する』と規定し、また第110項では、『「不動産鑑定評価基準」において、不動産の鑑定評価によって求める価格のうち、減損処理を行うにあたって時価に対応するものは正常価格・・である。』とする。
 会計基準としては、不動産の時価を鑑定基準へ“丸投げ”しているのだが、現状の定義のみで、制度会計の利害関係者が“納得し、認める”価格をイメージできるか?というと、疑問なしとしない。“どんな価値・価格を求めているのか”に関する射程距離(Scope)や定義(Definitions)は、特に制度に関わる評価を行う場合非常に重要であり、上記適用指針をうけて、“減損会計における正常価格”を敷衍することが必要だ。(社)日本不動産鑑定協会の『固定資産の減損会計における鑑定評価の留意事項』(H16.2)5-1「正味売却価額における時価を求める場合」(p19)では、鑑定基準以上の説明は行っておらず、十分でないように思える。

 私事だが、この基準が出され、不動産鑑定評価制度が公のものとなった昭和40年に私は生まれた。いま、鑑定士として、その起草時の中心的存在たる方の「当初の意思」を読んで、その不思議さと意気込みを感じている。不動産を含め、混乱する資産の価値を整理するため、もう一度この原点を見つめなおす必要があると感じた。





  H16.5.12
無形固定資産の鑑定評価―あの『青色LED』の鑑定書
 
  (『Evaluation No.13』プログレス、2004.5)  
   愛知工業大学経営情報科学部教授・岡崎一浩氏『青色LED訴訟における無形固定資産に関する三通の鑑定書』(p68〜79)から。

『…結果的には、判決額1,203億円は各鑑定書の平均値を単純平均した金額の7割に相当する。したがって、一部マスコミが伝えているように三村量一裁判長が極端な判決を下したのではなく、むしろ問題は、専門家が極端に金額の異なる鑑定金額を算出したことにあると思われる。』

『…トーマツの鑑定書(中村教授弁護側資料、註筆者)の最大の問題点は、鑑定書の標題を「日亜の青色LEDと青色LD事業の超過収益の価値の評価」とするがごとく、法の専門家でもない者が勝手に超過収益説を採用し、その採用理由を1冊の本に求めるのみであり、他の手法による評価の検証を省略していることにある。』

『…新日本監査法人(会社(日亜化学)側資料、註筆者)(の鑑定書につき)…判決文では、次の3つの疑問点が記載されている。

(1)   研究開発費および研究開発用固定資産未償却残高の範囲が不明確であって、青色LEDおよびLD以外の製品に関連する費用が含まれていることが疑われる。
(2)   米国法人であるクリー社の自己資本コスト率(16.61%、註筆者)を用いているが、その理由が明らかではない
(3)   平成14年以降の被告会社の売上高や市場規模が一切、考慮されていない

 そこで判決は、「これは青色LEDおよびLDの製造販売により被告会社が巨額の利益を得ている現在の実情とあまりにかけ離れた結論であり、同鑑定書の信憑性自体に疑問を抱かざるをえないものである。」と続いている。』

『…判決文で医師、不動産鑑定士あるいは公認会計士などの専門家の鑑定書に対し信憑性自体に疑問符がつけられること自体、前代未聞である。』

『ベンチャーラボ&ASGの鑑定書(中村教授弁護側資料、註筆者)…では一つの方法によらず複数の評価手法を用いて、相互チェックを行っているところを高く評価したい。また、特許の価値を5段階評価で採点するなど、会計面以外の評価ポイントが充実している。…七つの評価法の結果は、平均値から最大2.01%の乖離に収まっている。しかし、七つの評価法の結果がこのような狭い差の範囲に収まっていることにつき、筆者の乏しい経験からすれば驚かざるをえない。』

〜“Nikkei Net”関連記事(2004.1.30)

 青色発光ダイオード(LED)の開発者として知られる中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授(49)が、勤務していた日亜化学工業(徳島県阿南市)に発明の対価の一部として200億円を求めた訴訟の判決が30日、東京地裁であった。三村量一裁判長は発明の対価を約604億円と認定し、請求通り日亜に200億円の支払いを命じた。

 同種訴訟での発明対価としては、光ディスク関連特許について東京高裁が29日に日立製作所に支払いを命じた1億6300万円を超え、過去最高額を大幅に更新した。

 訴訟の対象となっていたのは、中村氏が発明し、青色LEDの基本技術とされる「404特許」。2002年9月の中間判決は「職務発明のため特許権は会社に帰属する」との判断を示し、その後は日亜側が中村氏に支払うべき発明対価の額が争われていた。

〜日経エレクトロニクスの関連記事(中村教授のコメント)(2004.1.31)

『私の発明は,「特許を取得したこと」と「特許の有効期限内に市場規模が大きくなったこと」が重なった。過去にも大発明はあるが,多くの場合は特許を取得していなかったり,特許の有効期限が切れた後に市場規模が大きくなったりしている。404特許のケースは,100年に1度の出来事だと言ってもいい。 』

いわせてんか! 最高額がベンチャーラボのFCF方式による評価手法で2,942億円、最低は新日本監査法人の▲14.9億円。その差はなんと、2,927.1億円(!)である。その差よりも、3,000億円の価値があるとした判断と、価値なしどころかマイナスの負の資産であるという判断が、同じ会計士という専門家がつけているという事実が恐ろしい。また、最終の裁判所の判断が、全体1,203億円の評価額で、開発者への対価はその50%とし、604億円とわけがわからない。最初のニュースの200億円でも驚いていたが、事実はもっとすごかった。
 単純な話だが、ある資産の価値は、そう簡単にはわからない。特に、市場で頻繁に売買されない種類の資産はなおさらである。だから、様々なアプローチでその価値・価格へ接近しようと試みる。岡崎教授の指摘で、「…超過収益説を採用し、その採用理由を1冊の本に求めるのみであり、他の手法による評価の検証を省略している」「一つの方法によらず複数の評価手法を用いて、相互チェックを行っているところを高く評価したい」という点は、そのような評価に携わる専門家としては基本的なルールであるといえる。
 その意味で、今回の裁判における2監査法人の鑑定書は疑問だ。特に「平成14年以降の被告会社の売上高や市場規模が一切考慮されていない」とは、少し考えてもおかしい。その特許から、今後一切収益を生まないことが確実なら、過去の利益累計額からコストを引いたものが価値だといってもよさそうだが、その後の期(実際訴訟進行中の期も)で莫大な利益を生んでいるのである。賃貸マンションに例えるなら、ほんの数期の賃貸収入から、敷地を取得し、建物を建てたりした開発コスト全てを差し引いたものがその不動産の価値であるといっているのである(無茶苦茶な理屈である)。建物耐用年数が20年なら、当然その間回収する収益が今の価値を構成する。特許権の存続期間も20年あるのだから、新しい特許開発で急激な陳腐化が生じるとしても、多くの将来CFを生むことはわかっている。
 ベンチャーの鑑定に対する教授の意見で「七つの評価法の結果がこのような狭い差の範囲に収まっていること(には)驚かざるをえない」というのがあるが、私も同感である。「実施料率方式」というライセンス割合(賃料収入割合のようなものか)から出した試算値と、モンテカルロ・シュミレーションといった金融理論の“乱数”から出した試算値が2%以内にあるとは…ぜひお話を伺ってみたい。
 3,000億円…。企業にとってみれば、これをどう考えるのか?開発する技術者は従業員であり、環境を整え、販売するのが企業体である。公平で適正な価値を見出すアプローチが問われている。





  H16.4.28
企業評価における不動産鑑定士の役割と減損会計−アメリカの場合を参考に
 
  (月刊『不動産鑑定』500、2004.5)  
   (財)日本不動産研究所調査企画部主任鑑定役・川村鎌三氏『アメリカにおける企業評価について(その2)』

 『…不動産鑑定士が企業評価に進出するに当たっては、まず、もっとも身近な企業不動産が考えられます。もちろん、現在も不動産鑑定士によって評価されていますが、これまでの不動産鑑定評価をベースに企業評価の考え方を取り入れることにより、より精度の高いものにすることが可能になります。次にREIT・不動産ファンド・不動産保有会社が考えられます。これらの評価には基本的には企業評価手法が適用されますが、不動産運用会社であることから、これらを構成する個々の不動産の評価も必要になります。将来、アメリカのように、REITや不動産ファンドなどのM&Aが行われるようになり、特にこれらがプライベートREITやプライベートファンドである場合にValuationが必要になると思われます。企業評価に強い不動産鑑定士であれば、これも可能になります。』
 『…評価の手順など企業評価理論は不動産鑑定理論の影響を受けていることもあって、不動産鑑定士には取り掛かりやすい面があ(り)ます。ところが、…入り口に財務諸表の分析という大きな壁があります。』(p64)

いわせてんか! 川村氏はコロンビア大学大学院不動産開発修士課程修了後、ニューヨークにてアメリカの企業評価や不動産投資・ファイナンスの調査・研究に従事されていた。氏はまた、アメリカの企業評価の団体であるASA(American Society of Appraisers)の企業評価研修プログラムを受けられており、その一端を紹介されている。
 資産の評価に関していえば、不動産の鑑定評価におけるいわゆる“3手法”はかなり普遍的なものだ。いわば、市場価値の分かりにくいものについて3つの価格アプローチをして、“もっともありそうな価格(Most probable price)”へとたどり着くことを試みる。企業価値も然りで、企業自体を、資産を複合的に利用する一団の資産としてとらえると分かりやすい。株価がそれを統合的に表現していると考えると、比較法の対象は株となる。
 ベースとしての評価手法を固める。そして、資産に合わせた特徴を加味する。これを厳守すればかなりの精度を保てると思う。指摘の通り、鑑定士が企業評価を担当するには、上記の如く研究プログラムなどでの『財務諸表分析』が欠かせない。

 減損会計では、グルーピングされた固定資産を評価する。ここで問題なのは、不動産鑑定評価基準で時価を評定するのは、“不動産”に限られる点である。今日、大阪で(社)日本不動産鑑定協会の研修会「固定資産の減損会計における鑑定評価の留意事項」が開催されたが、その留意事項でも、単体の不動産として確定・確認されるものに範囲が限定されている。至極当然ではある。
 しかし、収益を生み出す最小単位(Cash Generating Unit, CGU)として認識され、または、財務諸表の最小集計単位である『グルーピング』は重要視されるべきで、単に土地建物といった不動産だけで、そのユニットを分解していいものか?純収益を配分していいものか?“減損会計基準で企業の固定資産の時価を出す”という前提から考えると吟味が必要だ。
 そこで、上記『企業価値評価』の手法が役に立つ。会計の専門家たる公認会計士とともに、財務諸表分析と不動産鑑定手法を融合させ、日本の企業価値にふさわしい手法を提示することが求められている。





 
不動産ファンド、首都圏外に照準
 
  (日経 H16.4.28)  
   大阪、広島など首都圏以外の物件で運用する不動産ファンドが増えている。UFJつばさ証券が大阪や福岡のマンションに限定して投資するファンドを設定。ほかにも地方物件を加えて分散投資するファンドが相次いでいる。地方の優良物件に割安感が強まっていることに着目、高利回りにつなげるのが狙い。首都圏の物件が中心だった不動産ファンドが多様化しつつある。

 UFJつばさは3月末に不動産開発会社のサムティ開発(大阪市、森山茂社長)と約55億円のファンドを設定した。ファンドへの出資金や金融機関からの融資をもとに大阪市内のマンション九棟に投資し、サムティ開発がマンション管理を担当する。地域を限定した不動産ファンドは珍しい。福岡でも同様のファンドを立ち上げており、今後は名古屋などでも展開する。
 主な投資対象物件は地方都市の駅前にあるオフィスビルや一等地にあるワンルームマンションなど。比較的空室率の高い物件を購入。改装などによって空室率を改善し、物件の価値を高めて転売する。UFJつばさの場合、ファンドの予想運用利回りは10%弱と、首都圏の不動産に投資するファンドに比べ高い利回りを見込む。
 不動産運用会社のケネディ・ウィルソン・ジャパンは三月から仙台、広島のオフィスビルを購入し、都心や大阪のビルで運用するファンドに組み入れた。「物件の地域分散を進め、高い収益を確保する狙い」(財務経理部)。
 こうした不動産ファンドの販売は機関投資家向けが中心で、運用難の地方銀行などは割高感が出てきた不動産投資信託(REIT)の代替として投資している面もあるようだ。
 もっとも運用対象は地方中心都市の一等地物件などに限っている。「優良物件以外は依然、価格下落リスクが大きい」(住信基礎研究所)という。

いわせてんか! 景気、特に地方の景気にも一部明るい兆しが見えはじめたこともあり、地方都市の物件に投資する不動産ファンドが増えているようである。首都圏と比較して割安感のある物件に投資しているとのことであるが、景気の転換点を今と捉え、今が買い時と判断していると思われる。ただし運用対象は優良物件もしくは優良物件への転換が見込まれる物件に限られており、慎重な姿勢もうかがえる。
 地方の不動産市場の本格的な回復にはもう少し時間がかかりそうだが、こうした動きが広がっていくことを期待したい。





  H16.4.7 第204号
店舗家賃値下げコンサル
   ―人件費の次に大きな固定費である“家賃”の認識度
 
  (佐藤幸平『家賃値下げ成功法』中央経済社、2003.6)  
   『賃料は上がるもの、下がらないもの、と思っているあなたの常識は間違っている…。
 値下げ交渉を進めるには、事前に必要な知識を吸収して臨むことです。…賃料の増減請求は、「借地借家法」で貸主、借主双方に認められた正当な権利なのです。
 …貸主と借主が日本経済の現状を理解し、痛みを分け合わなければ、未曾有の平成大不況からの脱出は機会が遠のくばかりです。
 本書の底流には、「相互理解」と「相互扶助」の精神が流れています。そこから新たに「良好な賃貸借関係」が生み出され、後世への「美田」が残されることを願っています。』
(はじめに、p3-4)

 『不動産物件の「相場」には、わかりやすいものとわかりにくいものがあります。わかりやすいものは「借家」、「賃貸アパート・マンション」、「駐車場」、「地価」などです。
 …わかりにくいのは、「テナント料」です。その中でも店舗は、その使用目的や使用設備などがさまざまです。店舗数も少なく、情報が公開されていません。
 駅前か街中かの「立地条件」の違いがあり、新築、中古、改装、改築、修理、増築もあります。預託金(敷金、保証金、建設協力金)の取扱い約定や資金調達方法などの違いもあります。それらの条件次第で賃料が決まるのですから、特に店舗の「相場」はあいまいな状態です。
 飲食業か小売業か、または娯楽施設か事務所の利用か、それらの規模はどれだけかなど、実にさまざまで比較の対象になりにくいということです。
 …1つ例をあげましょう。同じ道路沿いに「パチンコ店」「スーパー」「コンビニ」「レストラン」があります。各店舗は、それぞれ建設費や預託金などの総投資額がまちまちです。業種業態が違いますから、「利益率」も違ってきます。土地の条件も規模や地型形状がまちまちです。
 …店舗の場合の「近傍同種」や「近傍類似」は、できるだけ似たような業種の店舗を見つけても、契約内容が把握できないため参考にすることはできないという状態です。』
(p42-43)

いわせてんか! 著者の佐藤幸平氏は、ホームセンター開発に関わり、自ら郊外型書店チェーンをつくるなど、賃料についての造詣が深く、店舗開発コンサルとして、また店舗賃料の値下げ活動について多くの実績をもたれている。
 氏は、上記著述の中で以下のように述べ、

  『不動産鑑定士は…鑑定する場合、周辺の物件の比較対照をしたといいますが、実際は 非常に困難なはずです。私は…「批准(比準、筆者注)賃料」というものは疑問視して います。』(p43)

当事者にとっての適正賃料把握の困難性を指摘されている。(耳の痛い話である。)
 その上で、家主の投下資本回収たる「減価償却」負担減少と納税増加といった家主側の事情や、デフレによる土地の財産価値の急落といった、大きな経済事情の変更という「借地借家法」の賃料増減額の正当な理由(同法第11条(地代)、32条(家賃))などから、家主・テナントの良好な関係を保ちつつ、値下げ交渉を円滑に進める指南を行っている。鑑定士は、これら精通者の方々の叱咤を十分理解し、ニーズに応えなければならない。さらなる努力が必要となる。  

 一方、企業にとっては“人件費の次に大きい固定費”として賃料は存在する。減損会計でCFの改善が求められている今、これを見直さない手はない。着手されている企業は多いと思うが、ここにはノウハウと的確な知恵が必要だ。当然、その方が“効率がいい”はずである。
 司法では、いわゆるサブリースという特殊な案件ではあるが、最高裁が賃料増額特約の入った契約当事者の減額請求を認めた(平成15年10月21日 第三小法廷判決 平成12年(受)第573号、574号)。“約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係(賃料相場とのかい離の有無,程度等)”など考慮する事項は多いが、交渉の理論武装としては“最高”クラスの提示となる。
 商売が続けたいなら、家主との良好な関係は絶対だ。“痛み分け”を如何に訴えるか?データも含め、準備しなければならない事項は多い。





  H16.3.31 第203号
知的財産権訴訟
   最高裁が弁理士など専門知識の「助っ人」140人を任命
 
  (朝日 H16.3.29)  
   知的財産権をめぐる訴訟で、最高裁は大学や企業の研究者、弁理士ら140人を4月1日付で専門委員に任命する。裁判で専門技術を説明したり、訴訟当事者や証人に質問したり して迅速で適切な審理を図る。また、4月から全国特許訴訟の控訴審が集中し、事実上の「知財高裁」となる東京高裁は、知的財産担当の裁判官18人全員による「特別合議部」を新設し、下級審で判断が分かれた場合など事実上、判断を統一する。
 …専門委員は、当事者の主張や実験結果が食い違う場合に、その背景やポイントを説明する、いわば「家庭教師」的な形で訴訟の道筋をたてるのにかかわる。

(キーワード:知財訴訟)
 特許権、実用新案権、著作権、商標権など知的財産権をめぐる訴訟。技術競争が激化する中で、件数は増え、内容も高度化、専門化しており、訴訟の使い勝手をよくする狙いで法改正が繰り返されている。専門委員が活用されるのは主に特許訴訟で、(1)特許権が侵害されたとして差し止めや損害賠償を求める訴訟(2)特許権が有効か無効かの審判で特許庁が題した審決の取り消しを求める訴訟、の二つに分かれる。

いわせてんか! 「助っ人」。頼もしい言葉だ。
 そういえば時代劇などで、大きな問屋で、刀を杖にいつも酒を飲んでいる「センセイ」は、いざとなるとその剣術で店を守る。技術が足りなければ、死が待っている。専門技術の価値は、こんなところでよくわかる。
 ビル・ゲイツを例にあげるまでもないが、いまや学生や一介のサラリーマンが“知恵”ひとつで世界一の金持ちになれる時代である。以前「無体財産権」とよばれていた「知的財産権(Intellectual Property, IP)」は、IT爆発によりその価値は無限大にまで加速中だ。その分、これを権利として認めるか否か、侵害される権利、その価値といった困難な争いが生まれてくる。
 困った裁判所が「センセイ」を招集した。これまで、医療などの「鑑定」や「補佐人」など、サブの役割にとどまっていたが、“重要性”とこれを見極める“技術”の高さで、今回最高裁直々の“ご使命”である。ADR(裁判外紛争解決)でも意識されつつあるが、その分野の専門家が、紛争当事者に“分かる言葉”で説明できれば、当然納得のもとで紛争は未然に回避できる。ケースがたまれば、スタンダート化され、共通認識となる。
 権利の価値という点では不動産も同様である。特に市場性の低いもの、売買等の取引が顕在化しないものは、その立証資料(evidence)が少なく、公正な価値評価が困難だ。
 ある鑑定士から聞いた話だが、弁理士とIPの評価について語っていたとき、その評価手法(アプローチ)の仕方が、不動産鑑定評価とほとんど同じで驚いたという。そして、両方ともに当てはめ可能な評価技術を開発しようと思われたそうだ。
 減損会計における企業の固定資産評価には、特許権などの「無形固定資産」も含まれる。訴訟という形でその手法が実現するのは時間がかかり、待ってもいられない。“公正な評価額”を出すには、複数の“できるセンセイ”が必要だ。





  H16.3.24 第202号
プットオプションで家の値下がりリスクを軽減
   〜金融工学理論で住宅市場価格算定ソフトベンチャー起業
 
  (日経 H16.3.24「大学発VBの素顔」)  
   不動産金融工学研究所は金融工学の専門知識を基盤にした青山学院大学発のベンチャー企業だ。同社を設立した小林秀二社長は青学大大学院国際マネジメント研究科修士課程出身。金融工学や不動産鑑定の研究成果を事業化することが目的。不動産価格算定ソフトが主力製品だ。
 昨年12月に住宅価格下落による損失を軽減する個人向け金融派生商品を考案、ビジネスモデル特許として申請した。
 企画した商品は株式や債券市場などで普及しているプットオプション(あらかじめ決められた価格で売却できる権利)の住宅版。住宅には公設の取引所がないので、同社の不動産価格算定ソフトを使って住宅の市場価格を査定する。小林社長は「一生の買物である住宅の値下がりリスクを軽減できれば、もっと家を買いやすくなる」と話している。

いわせてんか! 小林氏については、平成14年11月6日・第132号『モンテカルロDCF法のソフトと鑑定評価』で紹介させていただいている。
 その後、弊社は氏のソフト(FUJIYAMA Ver.1.0(ダイナミックDCF法ソフト))を導入し、鑑定の収益還元法適用の際の「収益」や「割引率」算定の強い味方になっていただいている。どうしても、“金融工学”という特殊なツールをベースとしているため、従来の不動産鑑定理論では理解できない部分が多く、氏のご指導がないとなかなか先へは進まない。しかし、氏が鑑定士の資格及び実務をお持ちだという点、また、こちらは鑑定実務の経験という点から、相互に“いいもの”を得る面も多いのではないかと感じている。
 今回は“住宅ローン”。金融機関は、リストラが一段落し“優良な”貸し手を見つけたがっているが、不動産価格が見えないなかで、従来の“担保”では対応できないため、それに代わる手段を探している。また、長期将来の収入を予測しきれない消費者は、できうる限り“そのとき”にローンを引きずりたくない。この買う側とお金を貸す側双方の不安を、専門技術を駆使したツールで解消するという画期的なもの。ふたつの専門性を持ち合わせる氏が提供した事実は必然でもあるし、同じ業に関わるものとして誇りに思う。
 氏の言葉で印象的だったのは、『「将来は誰にもわからない」という事実から出発している』というもの。減損会計における、当該企業の“将来キャッシュフロー”も同じである。だからこそ、それを数値化するには工夫がいる。関わる専門家は、これに応えてこそ専門家だろう。
 氏のますますの活躍を期待したい。

 不動産金融工学研究所(Real Estate Financial Engineering (Refe) Institute)
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  H16.3.17 第201号
会計上の『資産』の公正な価値とは?
 
  (IVS・国際評価基準より)  
  IVS(International Valuation Standards)2003
  Valuation for Financial Reporting:
Addendum A

"Accounting Background to IVA 1/Assets", p162

 In accounting terminology, assets are resources controlled by an entity as a result of past events and from which some future economic benefits are expected to flow to the entity. The future economic benefits embodied in an assets may flow to the entity in a number of ways, e.g., through its use either singly or in combination with other assets to produce goods and services for sale, through its exchange for other assets, for settlement of liability, or through distribution to the owner of the entity. (See General Valuation Concepts and Principals, para. 3.4.1.)



いわせてんか! 会計上の用語における資産とは、“future economic benefits”(将来の経済的便益)の現在価値の塊といった把握がされている。
その資産の公正価値評価とは、この「将来の経済的便益」としての価値を評価することであり、その価値は、当該経済行為に関与する取引当事者のいずれにも偏らない公平かつ適正な(fair, impartial)ものであることが要求される。よって公正価値は、抽象的だが一義的に明白な概念としての将来の経済的便益として、その価値より多くても少なくても、取引当事者のいずれかに偏った価値として不公正にあたるため、公正価値そのもの(100%) で評価されることが要求されることとなる。
 資産には、取引市場が成熟して価値の測定が容易なものから、全く需要者などが想定できないものまで様々な状態のものがあり、その公正価値評定には困難が伴う。それゆえ、その評定技術の研究や基準作りが強く求められるわけで、関係する専門家の努力が望まれている。





H16.3.10 第200号
減損会計 『使用価値』の不動産鑑定は留意が必要
  (関連書籍よりの引用)  
  ―「減損会計適用指針の実務」(小澤善哉・橘田万里惠、東洋経済、2004.3、p203〜)

第7章『回収可能価額の算定-正味売却価額の算定方法-解説-合理的に算定された価額-不動産の場合の「合理的に算定された価額」-(不動産鑑定評価基準の)収益還元法』

  『…(不動産鑑定評価基準の)DCF法は…使用価値の算定方法と基本式は変わりません。 したがって、賃貸ビルや賃貸マンションの場合は「鑑定評価基準におけるDCF法の価格=当該固定資産の使用価値」と考えてもかまいません。

―「固定資産の減損会計における鑑定評価の留意事項」((社)日本不動産鑑定協会「時価評価対応委員会・時価評価専門部会」編、2004.3、p35〜)

10.『使用価値を求める鑑定評価の留意事項-手法適用上の留意事項-手法適用上の留意事項総論』

  『…不動産の鑑定評価として求めることとなるので、復帰価格に該当する最終処分価額や毎期の収益を予測する期間等については、不動産鑑定評価基準に即した判断を加える必要がある。また、収益の予測においては、必ずしも標準的ではない現在の所有者を前提とした事業収益に基づくものであることにも留意する。』

同.『収益還元法-賃貸事業収入に基づく収益還元法の適用-純収益の把握』

  『使用価値を求める場合における純収益の予測は企業に固有の事情による現在の使用状況に…基づき行う。ただし、不動産賃貸の場合については、不動産鑑定士等の予測能力が適切な場合もあることから、賃料についてのチェックは不動産鑑定士自身が行う。


いわせてんか! 前者著書の橘田氏は、後者委員会の専門委員でもあり、疑問がある。
 確認するが、減損の測定をする際の「減損損失」は、簿価と回収可能価額の差額である。対象固定資産が不動産である場合、最終的に「不動産鑑定評価基準による時価−処分費用見込額」と「企業独自の見積りである使用価値」のいずれか高い方を回収可能価額とする。
 企業は、その不動産を利用することで儲かっているのであれば、市場価額(=公正価値)がどうであろうと関係ない。“むちゃくちゃうまいラーメン屋”は、どこにあろうと人だかりである。本来、ハードの市場価値(特に土地)など、ソフト面たる企業経営とはあまりかかわりがない。
 ここで、何故“減損会計”なのか?をもう一度考えたい。固定資産の現在の未回収投資額と現在及び将来の可能獲得収益の予測が大きく食い違い、後者が低いなら財務諸表が当該企業の本来の力を現していないので、これを修正する手続きであろう。特に日本の場合、バブル期における“異常に高い土地”への投資は償却もできず、これに見合う負債はいつも正味価値なので、公正価値ベースでは、地価の下落によって自己資本がドンドン毀損する。
 このソフトとハードの比較を行うのが日本(及び国際会計基準)の減損会計だ。現にアメリカの会計基準では企業固有の『使用価値』の価格概念を認めずに、市場価値たる『公正価値』一本で損失を測定する。とすると、ここは厳密に峻別する必要がある。例の賃貸マンションであっても、使用価値は当然企業固有の決定事項があり、その予測に基づいた価値である。正味売却価額のベースは『時価』であり、市場平均、市場の声を代弁するものでなければいけない。その有力な基準が「不動産鑑定評価基準」であり、さまざまなアプローチで不動産の市場代行を行う。
 鑑定のDCFで当該マンションの実際収入や、企業独自の収益予測を確認するのは当然だが、事情を判断する市場チェックと標準化は欠かせない。これは、市場の、主に“通常の典型的・標準的・平均的な需要者”が想定する『公正価値』を志向するものである。一方、使用価値はあくまで当該企業の独自・固有の決定事項たる企業経営戦略を表明するものであり、事前(意思決定の前段階)に市場賃料チェックのコンサルをすることは可能だろうが、これは企業固有の『主体的価値』を志向するものである。
 上記2著書では、使用価値を鑑定評価の“特定価格”(減損会計という制度会計(具体には適用指針等)により、企業固有の価値を出せと指定されていることに基づく価格)で算定可能としており、特に前書はDCFにつき「同じ」とまでいっているが、これをすることにより、鑑定評価の“市場代行性”があいまいになりはしないか?鑑定評価の公正性が問われることになりはしないか?
 双方の価格をぶつけて、その高低を判断する。その企業独自の判断の“正否”を問うのが監査であり、これを財務諸表で見て判断するのが投資家等の利害関係者である。企業の説明が、市場の声である鑑定の説明と比較して“妥当”だと判断されれば、投資家は安心してその企業の株を買うだろう。





H16.3.3 第199号
近畿の鑑定士会 鑑定士向け『減損会計セミナー』実施
    〜早期適用直前のビジネス研修会として
  ((社)日本不動産鑑定協会近畿連絡協議会)  
 
(1)「減損会計における不動産鑑定士の役割と協議会設立の経緯について」
株式会社 アクセス鑑定 不動産鑑定士 松永 明 氏
(2)「減損会計における使用価値及び時価概念について」
株式会社 緒方不動産鑑定事務所 不動産鑑定士 杉浦 綾子 氏
(3)「公認会計士からみた減損会計における不動産鑑定士の必要性」
あずさ監査法人 公認会計士 久保田 浩文 氏

いわせてんか! 減損早期適用直前のこの時期、近畿鑑定士会が実施、西は静岡から南は沖縄まで400名弱の鑑定士が参加した。メインの話題を『減損における不動産鑑定士のビジネスチャンス』に特化して、大分煮詰まってきた各論客の講演である。

 松永氏は、単に“測定”の鑑定という“事後処理”にとどまらず、グルーピング・兆候・認識という減損決定の前段階で、コンサルティングとして『意思決定に関与する』ことをキーワードに、様々な提携先、特に協会単位・会計士協会との連携を強調して、ビジネスへの意気込みを感じさせた。

 杉浦氏は、当HPでも度々引用させていただいているが、鑑定協会本部の時価に関する「専門委員」であり、減損についても企業会計審議会を熟知する数少ない鑑定士である。氏は、直後に本会の方の「減損留意事項」が出されることから、その内容についての講義ができないと前置きをされたが、そのおかげで減損の「制度背景」と「時価概念」に特化して講義され、非常に有益だった。特に、鑑定評価基準の時系列的な「正常価格」と「特定価格」の主要な価格概念推移と、今回の減損会計の価格概念を対比させ、クライアントへの責任は、この価格概念の十分な説明に大きく依存することを述べられた。正常価格はどのような条件の下に成り立つのか?特定価格は、この正常価格成立条件の“どの部分が欠けている”ことによって、特定の価格となるのか?減損の“時価”と“使用価値”は、この鑑定における価格概念のどの部分とリンクするのか?減損で出された鑑定額が“何者なのか?”を説明する重要な視点をていねいにまとめていただいた。

 久保田氏は、日経の記事の時系列を取りあげ、最近特に記事が多いこと、また、減損を“チャンス”と捉えた企業が少なからずアクションを起こしていることを指摘した。その時期に、鑑定士が“かんで”いくためには「ビジネスを知り、ビジネスの言語で、企業に対して具体的な“提案”を積極的にしていくべきだ」。賃貸物件のCFや合理的修繕費の見積り、様々なデューデリに基づくERなどを会計士は大いに期待しているし、“できなければ、できるところに投げればいいじゃないか”と。そんな“ビジネス感覚”をしっかりもって企業にぶつかれば、まあ失敗もあるが進むのでは、と。久保田氏自身が、M&Aや株式価値評価などで“知らない”場合は競合他社へさえ聞きに行った例を引きながら、力強い激励であった。

   考えてみると、鑑定士は“ビジネス”という言葉に疎いのかもしれない。公的評価が一定程度収入を安定化させていることに一因がありそうだが、この制度導入はまさに時機到来である。“満を持して”はチャンスが逃げる。大いにぶつかってみようではないか!





H16.2.25 第198号
株損失、賠償訴訟容易に――投資家救済へ証取法改正
  (日経 H16.2.19)  
   金融庁は年内にも、上場企業が重要な経営情報を開示しなかったために損害を被った投資家を救済する規定を証券取引法に導入する方針だ。不正開示などで株価が下落した場合の損害を算出する規定を設け、投資家による企業への賠償請求訴訟を容易にする。投資家保護を強化するとともに、企業に迅速で正確な情報開示を促す狙いがある。今国会に提出する証取法改正案に盛り込む。
 現行の証取法にも、重要情報を開示しなかったり、虚偽の情報を開示したりした場合、企業が投資家に賠償する民事責任規定がある。しかし増資などで新規に株式を発行する場合に限っており、流通している株式を購入して被害を受けても対象にならない。さらに不正開示によって株価がどれだけ下がったか、開示していた場合に株式を購入することはなかったかなど、因果関係も含めて損害額を投資家が自ら証明する必要がある。
 米国は証券取引所法で、不正開示やインサイダー取引などで投資家に損害を負わせた場合、企業が賠償責任を負うことを定めている。投資家の損害額を客観的に計算する裁判上の規定もある。
 新設する救済規定は株式発行時に限らず、流通する株式の売買で被害を受けたときも対象。損害額は、開示内容が訂正された日から前後1ヶ月間の平均取引価格と、投資家が処分した時の処分価格の差額とする方向だ。企業が情報開示以外の理由で株価が下がったことを反証できれば、損害額を下げることも認める。

いわせてんか! 現行の証取法では、個人投資家にとっては立証のハードルが高すぎるため、民事責任規定を利用した裁判例もほとんどない。情報開示の徹底と投資家保護の強化が、導入される規定の趣旨である。
 情報開示に関連するトピックな話題の1つとして、減損会計が挙げられ、鑑定士も不動産評価等で関わるため注意が必要である。なお「株主代表訴訟」は、取締役が違法行為をして会社に損害を与えた場合に、その会社の株主が会社に代わって取締役(監査役にも準用)に損害賠償を求める訴訟のことなので似ているが、記事の内容とは違う話である。しかし、鑑定士の専門家責任の点で同様に注意が必要である。
 ところで、金融行政上で極めて重要な法律が本年4月から施行される。昨年5月に成立、6月に公布された「公認会計士法の一部を改正する法律」のことだ。その中に、「監査法人に対する監視・監督体制の充実・強化」という内容が盛り込まれたため、本年4月以降、当局が監査法人に対して立ち入り検査を行うことができることになった。厳密に言えば、これまでも立ち入り検査ができなかったわけではないが、規定等により、実際にはなかなか検査を実施できなかった。法改正後は「公益又は投資家保護のため」、比較的自由に立ち入り検査を行うことができるようになる。
 今後会計制度の変革に伴い鑑定士の業務も拡大していくものと思われるが、同時に金融当局や投資家の目も厳しくなり、責任が重くのしかかってくることを肝に銘じ、日々業務に邁進していきたい。





H16.2.25 第198号
減損会計の“着地点”をしっかり決める
      〜その本当の目的に沿った適用を
  (各出版物)  
   辻山栄子
〜逐条解説・減損会計基準(第2版)中央経済社、2004.1、p7〜

『…減損会計が喫緊の課題とされた背景には、米国基準(FAS121号)や国際会計基準(IAS36号)等の相次ぐ減損会計導入の動きに呼応して会計基準の国際化をはかるために、日本においても減損会計基準の導入が不可欠であるという認識とともに、「不動産をはじめ事業用資産の価格や収益性が著しく低下している昨今の状況では、それらの帳簿価額が価値を過大に表示したまま、将来に損失を繰り延べている恐れは少なくない。その疑念が、財務諸表への社会的な信頼を損ねているという指摘もある。投資家にとって有用な情報を提供する上で、固定資産の評価は避けて通れない問題になっている」(論点整理p.2)という認識が横たわっていた。その結果、将来の利益計算に反映させるために繰り越すことができる資産価値として、どこまでが適切な水準なのかという会計上の問題が、改めて問われることになったのである。』

杉浦綾子
 〜月刊・不動産鑑定2004.3月号「減損会計と鑑定評価について」住宅新報社、p11〜

『…平成14年8月に企業会計審議会が出発表した「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」で…なぜ、今、このような会計基準を整備する必要があるのかという問いかけに対して、近年整備が進められつつある国際的な調和(上記、FASやIASなどの国際的会計基準、かっこ筆者)を図るためという理由をその一つにあげています。
…国際的な会計基準のトレンドは、いわゆる時価会計を拡張しようとしているところにあります。時価会計とは…あくまでも取得原価主義会計方式の枠内で、市場性のある資産などを決算期末時点の時価によって評価する会計方式をいいます。』

いわせてんか! 導入の意図は、表面的には、国際的会計基準と平仄を合わせるということである。
 しかし、その本当の目的はなんだろう?ある会計士の方に聞いたところ「なんでしょうね?」と問い返された。減損を担当している、よく内容を知る会計士がそう応えるものなのである。いわゆる“外圧”ではないようなのだが、“器”だけ導入されてきた、というのが印象にある。
 そうだとしても、強制的な制度会計として導入することが決まった。昨年中ごろには強制延期の案も出ており、まだその可能性がなきにしもあらずだが、どうせやらねばならないのなら、これをプラスに作用させる方策を考えるのが事業家というものだ。
 そこには“適正開示”という公正な理念が欠かせない。間接金融が機能不全の今、直接投資家から資金を調達しなければならない。そのためには、ちゃんと会社の情報を提供する必要がある。また、投資してもらった資本をどう回収し、どれだけの利益を生み、そのどれだけを配分したのか、明確に提示する義務がある。今までのように“含み益”や“持合株”はもうさっぱりないのだ。
 手前味噌で申し訳ないが、弊社の社訓的存在たる“水五訓”のひとつにはこうある。

  『一、障害に遭いて激し、その勢力を百倍にするは水なり。』

甘い経営や不採算投資を一掃し、増収・増益へ転換する一歩として“減損”を位置づければ、自ずと将来が開けるのではないか?
 企業が各々、減損の“本当の目的”をしっかり認識した上で適用するなら、減損は決してマイナスにはならないと思う。





H16.2.18 第197号
「不動産の売却に係る会計処理に関する論点の整理」公表
  (日経 H16.2.13)  
   企業会計基準委員会は13日、不動産売却の会計処理について論点を公表した。
 不動産取引は企業の収益に与える影響が大きいため、会計基準委が公表した論点を元に産業界や学者などから意見をつのり、具体的な会計基準作りを目指す。
 不動産を売却する条件について考え方をまとめた。不動産の売却後も不動産を賃借するセール・アンド・リースバック取引や証券化の場合、売り手が継続的に関与しているとみなされ、売却益を計上できなくなる可能性がある。
 会計基準委は5月13日まで内外から意見を集めたうえで公開草案を作る。産業界から反対意見が出る可能性もあり「会計基準を設定する具体的な時期は未定」と慎重な姿勢を示した。

いわせてんか! 平成16年1月21日第193号「企業会計基準委員会、不動産売却で新基準づくり――「リースバック」の扱い焦点」でお伝えした「不動産の売却に係る会計処理に関する論点の整理」が2月13日に企業会計基準委員会より公表された。
 基本的な考え方は、売り手が事業投資のリスクから解放されたかどうかで売却と認めるか否かを判断するというもので、論点として、

 (1)事業投資のリスクからの解放の認識時点
 (2)売買単位
 (3)代金の回収可能性
 (4)売却後の継続的関与
 (5)買手との関係

の5点を挙げ、パブリックコメントを募集するとともに、この他にも重要な事項があれば意見を募りたいとしている。
 記事では、「産業界から反対意見が出る可能性もあり」と述べているが、例えば、過去にオフバランスした不動産の扱いなどの具体的な事項については、論点整理ではまだ記述されていない。過去の取引まで否定してB/S、P/Lを修正することは現実的でないが、かといって、適用指針等が作成され施行されるまでに駆け込みでオフバランスしてしまえ、といったモラルハザードが起きても問題である。特に減損会計の適用対象となるような不動産を有する企業にとっては大きな関心事となろう。
 論点整理では、実現主義・取得原価主義の原則に基づいているため、不動産の評価については触れられていない。しかし今後時価会計の進展にともなって、例えば、オフバランスできなかった(所有権は移転したが会計上は売却と認められず、バランスシートに残っている)不動産の評価の依頼を受けることも考えられる。しかもそれが減損会計の適用対象ということもあり得る。
 このような会計制度の変化に対して、鑑定士個人としてだけでなく、鑑定業界全体としても対応していく必要がある。

詳細は、以下を参照。

   企業会計基準委員会ホームページ
   「不動産の売却に係る会計処理に関する論点の整理」の公表





H16.2.18 第197号
公認会計士と不動産鑑定士 合同で協議会設置
  (毎日新聞 H16.2.13)  
   日本公認会計士協会近畿会と日本不動産鑑定協会近畿連絡協議会は12日、06年3月期以降から企業決算に強制適用される減損会計の事例集を盛り込んだ実務ガイドラインを作成するための協議会を設置すると発表した。不動産評価と会計監査の専門家集団が合同で協議会を設置するのは初めて。
 国内にはバブル期に購入した土地の価格が下落したのに、帳簿上の価格を是正せずに含み損を抱えたままにしている企業も多く、「会計基準の国際化」の動きから、企業の財務内容を正確に反映する減損会計の導入が決まった。06年3月期以降に強制適用となるが、早期適用が認められる04年3月期から、事業用資産に多額の含み損を抱える企業を中心に導入が本格化するとみられている。
 昨年10月末に民間組織の財務会計基準機構の企業会計基準委員会が減損会計適用指針を公表している。両会はこの指針が「実務上の疑問に答えきれていない」とみて、より具体的な「Q&A形式の実務指針を公表したい」としている。
 3月19日には企業の財務担当者などを対象に「減損会計セミナー」を日本公認会計士協会近畿会(大阪市)で開催する。

いわせてんか! 近畿発信の専門家協力が実現した。
 本HPでも提言していたように、今回の減損会計制度導入は、企業の事業用資産たる固定資産の評価という点で会計士と鑑定士の英知を集めることが欠かせない。早期適用に切羽詰った時期とはいえ、東京でも発信がなされていない現状を見ると、意義は大きいといえる。

 分野は違うが、改正会社更生法の「時価」に言及した冊子『新しい会社更生手続きの「時価」マニュアル』(事業再生研究機構 財産評定委員会編、商事法務2003.6)のなかで、東京大学法学部の伊藤眞教授いわく(pii〜iii)、

「評価についての従来からの見解の対立は、ともすれば論者が立脚する立場の違いがそのまま持ち込まれ、建設的相互批判が不十分であったところにその一因があった」 「法及び規則の立案担当者が制度の趣旨を明らかにし、それを前提として、実務法律家、 公認会計士、不動産鑑定士及び税理士という評価作業に関わる専門家がそれぞれの知見を踏まえて、資産の種類などに応じた評価の基準を研究し、さらに金融機関や商社の法務担当者が担保権者などの立場を踏まえた分析を行い、加えて研究者がそれらの研究や分析に対して理論的検証を行」

なうことが重要であると指摘している。減損に置き換えれば、この制度会計の趣旨を明らかにしたうえで、評価に関わる専門家がこれに沿った評価基準を研究し、適用する企業の立場を踏まえた分析の上に、学者の理論的フォローを加えるということである。

 実務適用の先には、株主・債権者等利害関係者の厳しい目が待っている。公認会計士法及び不動産の鑑定評価に関する法律には以下の同様な規定が存する。

公認会計士法
(昭和二十三年七月六日法律第百三号)

(信用失墜行為の禁止)
第二十六条  公認会計士又は会計士補は、公認会計士若しくは会計士補の信用を傷つけ、又は公認会計士及び会計士補全体の不名誉となるような行為をしてはならない。

(虚偽又は不当の証明についての懲戒)
第三十条  公認会計士が、故意に、虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類を虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして証明した場合には、内閣総理大臣は、一年以内の業務の停止又は登録の抹消の処分をすることができる。
2  公認会計士が、相当の注意を怠り、重大な虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類を重大な虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして証明した場合には、内閣総理大臣は、戒告又は一年以内の業務の停止の処分をすることができる。
3  監査法人が虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類を虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして証明した場合において、当該証明に係る業務を執行した社員である公認会計士に故意又は相当の注意を怠つた事実があるときは、当該公認会計士について前二項の規定を準用する。

不動産の鑑定評価に関する法律
(昭和三十八年七月十六日法律第百五十二号)

(不動産鑑定士等の責務)
第三十七条  不動産鑑定業者の業務に従事する不動産鑑定士及び不動産鑑定士補は、良心に従い、誠実に不動産の鑑定評価を行なうとともに、不動産鑑定士及び不動産鑑定士補の信用を傷つけるような行為をしてはならない。

(不当な鑑定評価等についての懲戒処分)
第四十条  国土交通大臣は、不動産鑑定士又は不動産鑑定士補が、不動産鑑定業者の業務に関し、故意に、不当な不動産の鑑定評価を行なつたときは、懲戒処分として、一年以内の期間を定めて、不動産鑑定業者の業務に関し不動産の鑑定評価を行なうことを禁止し、又はその不動産鑑定士若しくは不動産鑑定士補の登録を消除することができる。不動産鑑定士又は不動産鑑定士補が、第三十三条又は第三十八条の規定に違反したときも、同様とする。
2  国土交通大臣は、不動産鑑定士又は不動産鑑定士補が、不動産鑑定業者の業務に関し、相当の注意を怠り、不当な不動産の鑑定評価を行なつたときは、懲戒処分として、一年以内の期間を定めて、不動産鑑定業者の業務に関し不動産の鑑定評価を行なうことを禁止することができる。
3  国土交通大臣は、不動産鑑定士又は不動産鑑定士補が、前二項の規定による禁止の処分に違反したときは、その不動産鑑定士又は不動産鑑定士補の登録を消除することができる。

今回、公正・中立の立場を前面に出した専門家としての役割を果たすことが求められており、その社会的責務は重い。





H16.2.12 第196号
日本駐車場開発とクリード、駐車場買い取り投資ファンド
  (日経ネット関西版 H16.2.2)  
   駐車場活用コンサルティング・転貸の日本駐車場開発は不動産ベンチャーのクリードと共同で、既存の駐車場の買い取りに投資するファンドを設立した。減損会計導入を控え、企業が売却を急ぐ遊休地の立体駐車場などを購入。日本駐車場開発が受託運営する。両社は立体駐車場について、土地と駐車設備を併せて売買する仕組みをつくることを目指す。
 このほど両社が出資して「パーキングファンド」を設立し、都内で1カ所目の立体駐車場を購入した。日本駐車場開発は既存の取引先である生損保などを中心に呼びかけ、1号ファンドで30億円規模の出資を募る方針。次いで物件や出資希望者の増加に応じ、ファンドの数を増やす。

いわせてんか! 日本駐車場開発は、主としてサブリースにより、例えば、「駐車場の三毛作」という、月極契約のユーザーが営業で昼間に外出している間に1日貸しや時間貸しで広く一般のユーザーに利用させることで稼働部分をさらに稼働させるなど、収益性を高めるといった駐車場運営を手がけてきた。2003年7月期の連結決算で、売上高が前期比60%増、経常利益が前期比2倍という実績をあげている。
 駐車場・駐車施設は必要なものではあるものの、不動産としては積極的な利用法というよりは消極的な利用手段といったイメージがある。それに対して、この駐車場買い取りファンドというのは異なった傾向のものとして関心を持った。





H16.1.28 第194号
「正常価格」「Market Value」「Fair Value」「Value in use」
  (各評価基準)  
   評価に関する各国際基準と日本の不動産鑑定評価基準の、評価の語句の定義は以下のようである。

  「正常価格」(以下では"Market Value"と訳されている)
 -不動産鑑定評価基準(2003.7.3)
正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的 と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価 格をいう。』
"M arket Value refers to the probable value that would be formed for the marketable real estate in a market that satisfies conditions associated with a rational market under actual socio-economic circumstances."
(『英語で読む不動産鑑定評価基準』(財)日本不動産研究所、住宅新報社、2003.7)

「Market Value」(市場価値)
 -IVS2003(国際評価基準)
  "The estimated amount for which a property should exchange on a date of valuation between a willing buyer and a willing seller in an arm-length transaction after proper marketing wherein the parties had each acted knowledgeably, prudently, and without compulsion."
 -IAS2003(国際会計基準)
  "The amount obtainable from the sale, or payable on the acquisition, of a financial instrument in an active market."

「Fair Value」(公正価値)
 - IAS2003(国際会計基準)(IVS2003(国際評価基準)は引用で同様)
  "The amount for which an asset could be exchanged, or liability settled, between knowledgeable, willing parties in an arm's-length transaction."
 - IVS2003(国際評価基準)注釈
  "In accounting, fair value anticipates a sale which may occur in differing circumstances and in conditions other than those prevailing in the (open) market for the normal, orderly disposition of asset. These include the possibility of a sale under short-term distress situation or other circumstances not contemplated in the Market Value definition."
"The term fair value is also used in legal actions to derive a settlement in disputes between parties, the circumstances of which may not meet definition of Market Value. Hence fair value is not synonymous with Market Value."

「Value in Use」(使用価値)
 - IAS2003(国際会計基準)(IVS2003(国際評価基準)は引用で同様)
  "The present value of estimated future cash flows expected to arise from the continuing use of an asset and from its disposal at the end of its useful life."
 - IVS2003(国際評価基準)注釈
  "It should be noted that the above definition, which applies to financial reporting, considers the value of an asset at the end of its useful life. This meaning differs from the way the term is commonly used in valuation practice (see below)."
"The value a specific property has for a specific use to a specific user and therefore non-market related. This value type focuses on the value that specific property contributes to the enterprise of which it is a part, without regard to the property's highest and best use or the monetary amount that might be realized upon its sale."



いわせてんか! 不動産の評価に関する語の定義で、厳密に英訳で比較してみると、その差異がはっきり見えてくる。元々不動産鑑定評価基準もアメリカの基準を参考としており、その趣旨・本旨を日本の文化や評価慣行合わせることは、かなり困難だったのではないか?また、時代とともにその意味合いは変化し続けている。
 昨年の「正常価格」の定義改定以降、特に周辺の制度の導入について、各制度における不動産の評価を、どのような定義のもとで行うのか?の議論が起こっている。減損会計で考えると、会計制度上では、時価は国際会計基準の「Fair Value」を意味しているようだし、これと比較される使用価値は「Value in Use」にあたると思われる。特に、鑑定評価基準により時価評価を代行させると適用指針に記載されていることから、正常価格との異同を考えないとならない。
 上記訳においては「Market Value」とされており、国際評価基準では「Fair Value」と「Market Value」の差異を明確にしている以上(下線部)、国際上の評価の語彙からはズレを生じていることになる。
 理念的なものであるとはいえ、“何を評価しているか?”の根幹であり、キチンと説明する必要があるだろう。
 ちなみに、「正常価格」という語を調べてみると、広辞苑では「(normal price) 需要・供給の関係で刻々に生ずる偶然的要因を除いた、恒常的要因によって定まる価格。自然価格。⇔市場価格」と定義され市場価格と対峙されており、日本大百科全書では「normal price 市場価格は一時的な需要と供給によって絶えず変動するが、その奥にそれが長期的に落ち着こうとする水準があり、市場価格はそれをめぐって変動するとみるとき、その中心となる価格を正常価格という。A・スミスなど古典派のいう自然価格やK・マルクスの生産価格などがその一つであり、参入の自由な競争市場において、参入が行き着いた結果として成立する長期価格などの経済分析上の概念もその一つである」とし、これも市場で発生する価格とは異なるとしている。日本語が意味するところも考え物である。





H16.1.21 第193号
企業会計基準委員会、不動産売却で新基準づくり
     ――「リースバック」の扱い焦点
  (日経H15.12.18)  
   企業会計基準委員会は2004年1月にも、不動産売却をめぐる会計処理の論点を公表し、指針づくりに乗り出す。注目点は本社ビルなどをペーパーカンパニーである特別目的会社に売却し、そのまま賃借する「セール・アンド・リースバック」取引の扱い。多くの企業が資産圧縮のために活用している不動産証券化にブレーキをかける恐れもあり、議論を呼びそうだ。
 関係者が注目するのは、どんな要件を満たせば不動産を本当に「売却した」と認定されるかという点だ。企業会計基準委員会の専門委員会では、賃貸借契約が長期間の場合には「不動産を担保に資金調達するのとほとんど同じで、売却とは認められない」との意見が根強い。また不動産証券化では

(1) 売り手に買戻し条件がついている
(2) 売り手が優先買取交渉権を保有している
(3) 買い手が第三者に物件を売る場合に売り手が売却を拒否できる

――といった様々な条件がついている場合が多い。どこまで売却と認めるか、会計上明確にする必要がある。
 売却を認定する根拠として会計基準委が想定しているのは、不動産価格の下落による損失リスクが、実質的に売り手から買い手に移転したかどうか、という点だ。実際、米国などはこうした考えに立っている。日本でも一部の実務指針ですでにこの考え方を導入しているが「抜け穴がある」(格付け会社アナリスト)という。
 現在の実務指針では、保有不動産を証券化する際、売り手に残る経済的リスクが5%以下でなければ、売却と認められない。ところが最近は、当初売り手のリスクを5%ちょうどに設定し、その後、投資家のリスクを売り手が段階的に肩代わりしていく証券化の手法が登場。現行ルールの網をくぐり抜けることが可能になった。複雑さを増す現実の取引に会計制度の手当てが追いつかず、対応は後手に回ってしまった。
 米国では、エンロンの不正会計事件をきっかけに特別目的会社を使った取引の情報開示強化が動き出した。これを受けて、日本の会計基準委も不動産取引の透明性向上を目指す必要に迫られたという面もある。
 売却の認定基準が厳しくなれば、不動産証券化による資産圧縮の道が狭まり、バランスシートのスリム化が進まないといったことにもなりかねない。それだけに産業界の警戒感は強く、具体的な指針づくりは難航が予想される。

いわせてんか!記事では1月に論点整理が公表されるとあるが、現在も検討中であり、実際に公表されるのは少なくとも第49回企業会計基準委員会(1/27)以降の見込みである。その後パブリックコメントを募集した上で検討を進め、1年程度をかけて適用指針策定の運びとなる見通しである。
 内容は不詳であるが、論点として

(1) 関連会社・関連REITへの売却
(2) 不動産の売買単位(土地建物の区分など)
(3) 売却代金の回収期間・回収リスク
(4) 売り手の売却後の継続的関与(買戻し特約・期間指定など)の条件
(5) 5%ルール 

等について検討されていると思われる。
 不動産証券化は企業の資産圧縮手法としてすっかり定着し、市場規模は拡大基調をたどってきた。2002年度までの実績は累計で約9兆円(国土交通省調べ)に達し、その後の増加も周知のとおりである。
 近年企業では、ROA(総資本利益率)やROE(株主資本利益率)など資産効率重視に移行している。証券化による資産のオフバランスによりバランスシートの改善、ROA、ROEなどの経営指標を向上させ、企業価値を高めようとする動きが活発である。この傾向は、減損会計適用の進展にともなって、更に進んでいくものと思われるが、実際には怪しいスキームも行われているという指摘もあり、注意が必要である。
 本社ビルなどの直接収益を生まない物件をオフバランスし、企業の収益を他の物件に集約すれば見かけ上は資産効率が上がり、また減損が発生していないと見せかけることも可能である。しかし、セール・アンド・リースバックのようなケースでは、実態は何も変わっていない点に留意すべきである。不動産証券化は本来、投資家サイドにたって組成されるべきだと思うが、実際には売主サイドの都合で行われているものが多い気がする。
 とはいえ、不動産証券化の進展は不動産市場にとって非常に有用であることは間違いなく、企業会計基準委員会による適用指針策定が証券化市場の透明化向上に寄与することを期待するとともに、不動産鑑定士・鑑定業界としても、評価や組成に携わる中で、チェック機能としての意識を高めていく必要があると考える。





H16.1.21 第193号
減損・・・米国・国際基準と日本基準の違い・・その特殊性とは?
  (季刊「会計基準」第4号(2003年12月号)p63〜)  
   財務会計基準機構(FASF)発刊の同雑誌、特集2『座談会、企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」をめぐって』での発言。

  「・・使用価値を求めるためには割引率が必要になるわけですけれども、米国基準では、減損処理を行う場合、時価によって測定することになりますので、使用価値を算定する必要がなく、その際に用いられる割引率についての議論は生じません。」(辻山、p82)

 「・・国際会計基準におきましては、日本と同じように理論的な側面を重視したと言われており、回収可能価額が用いられることになっておりますので、割引率の問題が発生するわけですが、見積りの困難性から、使用価値を用いる場合でも、企業における当該資産または資産グループに固有の将来キャッシュ・フローを、類似した資産に固有のリスクを反映した市場平均と考えられる合理的な収益率で割り引くものとされています。」(辻山、p83)

 「・・米国の会計士からは、なぜそんなに日本は減損問題で騒いでいるのかと言われたことが結構印象に残っています。その意味では、設備投資の意思決定における土地の比重に違いがあるとか、資産の内容を徹底的に洗い直すということを日本企業はやっていなかったというのも一部では事実・・」(持永、p84)

 「今回の基準は、・・日本基準に固有の特徴として、日本の中では、特に土地が事業用の固定資産の中で非常に大きな比重を占めるという、世界の中でも経済環境自体が特殊である事情を抱えていたことに対応するための工夫が施されていることを指摘できると思います。つまり、・・米国のように、土地を主要な資産からはずしたり、減損を適用する場合に時価まで下げるということに伴う実務の混乱を避けるための工夫が施されています。
 米国基準にあるような蓋然性基準(兆候、かっこ筆者)を取り入れて実務の負担を軽減する一方で、切り下げるときには使用価値のような概念を入れて(『使用価値』は国際会計基準の概念である、かっこ筆者)、切り下げ額についても過度の負担を避けるという、2つの意味での工夫が施されているということで、少しわかりづらい面があるかとは思いますけれども、日本の状況にマッチした基準になっていると考えております。」(辻山、p85)

 辻山:辻山栄子氏(減損会計専門委員会 専門委員、早稲田大学商学部教授)
 持永:持永勇一氏(減損会計専門委員会 専門委員、新日本監査法人 公認会計士)


いわせてんか! アメリカでは、減損の対象は“償却資産”であり、過去経営者の“投資の失敗”を引き継がないために、景気のいい時期に導入された。また、不動産に関していえば、公表データが多いため、時価(公正価値、Fair Value)一本で減損を測定できる土壌があるといえる。損失測定に妥協を許さないため、蓋然性としての“兆候(Test of Recoverability)”をまず関門としておいて、実務負担を緩和している。
 日本基準は、「使用価値」という企業固有の“主観的”回収可能価額をこれにプラスした。国際基準からの引用である。そして、審議会座長たる辻山氏の発言では「実務の負担を軽減する一方で、切り下げ額についても過度の負担を避ける」工夫として折衷をおこなったという。その理由は、日本の特殊性である“事業用の固定資産で大きな比重を占める土地”の存在であった。そのために、“わかりづらい面がある”と告白している。

 日本の“特殊な経済環境”である土地への投資が十分な収益を生まないのであれば、有効利用するか、それができないのなら売却しかない。土地神話・・間接金融・・担保・・含み益経営・・バブル崩壊・・企業価値に基づく経営・・。日本基準での減損の意味は、特殊性の上にはじめて明確になるのではないか?そして、ここに応える適用であらねばならないと感じる。





H16.1.14 第192号
ミサワのゴルフ場損失 “一気に700億円”
  (日経H15.12.27記事に対する
小石川経理研究所『企業財務記事ウオッチャー』から)
 
   ミサワホームホールディングスは26日、2004年3月期の連結最終損益が1270億円の赤字(前期は26億円の黒字)になる見通しと発表した。下期に1430億円の特別損失が生じる。
 下期に生じる特別損失は国内8カ所、海外2カ所のゴルフ場の評価損700億円、住宅分譲事業用地を含む 販売用不動産の評価損が250億円、不動産担保融資の担保評価見直しなどに伴う貸倒引当金が430億円 。ゴルフ場については、外部の不動産鑑定士の評価をもとに従来の簿価約1000億円を300億円に引き下げた。
 ミサワは10月に経営再建策を発表。不良資産は2006年3月期末まで段階的に処理 することも検討していた。しかし企業イメージ低下による顧客離れが深刻化。「一気に処理 してイメージ回復を急ぐ」(水谷社長)こととした。

コメント:
 会社の方針により、不良資産を3年間で段階的に処理することもできるし、一気に処理することもできるというのでは、誰も企業の決算を信用しなくなります。
 まず、ゴルフ場の評価損について考えてみると、固定資産の減損会計が導入されれば、あまりひどい損失先送りはなくなると思われますが、減損の適用指針では、正味売却価額の算定の際には、自社による鑑定ができない場合のみ外部の鑑定評価を使うことができるといった変に甘い規定もあり、 どうなるかわかりません。少なくとも重要な資産については、外部の独立した鑑定評価を優先するといった規定に変えないと、減損会計に対する信頼が失われる恐れがあります。

いわせてんか! 記事の一節だが、確かに“信用”からは程遠く感じられる。また、再建策を発表する企業側の(無意識の)モラルが伺われるともいえるだろう。
 減損導入もしかりで、適用指針での“宥恕的”規定は非常に多くの箇所で散見され、企業ベースで『利害関係者不在』の指針といわれても仕方がないかもしれない。ルールの早期導入が目的だとしても、今の時点で信頼されうるベース(例えば、重要な資産についての選別ガイドラインやQ&Aなど)は公表すべきであろうし、企業も自主的にこれを訴えるだけのモラルや姿勢は欲しいものである。





H16.1.7 第191号
『固定資産の減損に係る会計基準の適用指針について』
   〜会計基準委員会のセミナー講義録発刊
  (2003.12.15(財)財務会計基準機構・企業会計基準委員会事務局)  
  「…これは、平成15年11月に、東京、名古屋、大阪をはじめ日本全国9か所12回にわたって開催された「FASBセミナー」の講演内容を、企業会計基準委員会の減損会計専門委員会での討議に参画した講演者が取りまとめたものである。…」(冒頭より)

 講演録シリーズNo.6
  「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針について」 のご案内(2003.12.15)

いわせてんか! 大阪でのセミナーには参加した。
 何百人もの参加者が、専門委員の流暢な解説に聞き入っていた。
 こちらは、不動産鑑定士である。当然、会計・監査の専門家ではない。また、(減損会計に関わる)大企業の財務担当者でもない。もちろん、その人々のためにセミナーは開かれているのだから、こちらが期待している内容を聞けるわけもない。
 “視点”が異なるのである。『不動産鑑定』という視点から企業の保有資産たる“固定資産”を眺めてみると、まず価格アプローチのひとつである“収益還元法”が出てくる。その中でも、事業収益の継続性を思うと『DCF法』が重要に思われる。ここでは、良識と通常の使用能力を持つ“通常の市場人”のマネージメントが生む“標準的な収益”が取り上げられる。割引率も、市場平均的な数値が採用されよう。
 対して、適用指針を見ると、企業独自の観点から導き出された『使用価値』を求めるとする。過去の財務諸表数値経緯、事業計画などに基づいて収益が予測され、割引率はハードルレートやWACCなど企業内部の個別事情を反映した数値が採用される。指針では、そのいずれか高い方を当該固定資産(及び資産グループ)の“企業における価値(=資本投下に対する回収可能価額)”だとする。
 鑑定を“客観的な市場の声”だとすると、指針の使用価値は“主観的な企業の声”である。そこを“高低”で片付けられるのだろうか?という素朴な疑問だった。当然、強制制度としての事務負担や、国際的にも先進的な基準導入による“緩和措置”的発想は致し方ないと思う。しかし、導入趣旨を少しでも実効性のあるものにするためには、その理念を多少なりとも取り入れるべきであると感ずる。
 市場の声は、企業の主観的判断に対する牽制であると思う。
 これを十分に比較検討することで、今の投資の妥当性や将来計画を検証し、必要最低限、株主等利害関係者に対する受託責任を果たすことになるのではないか?減損損失を計上することだけが目的ではなく、その前段階で、十分に投資を有効なものにする“熟慮”を促しているとは取れないか?
 あまりに主観に過ぎると、独善におちいりがちである。セミナー、また、今回の講義録はその意味で、会計に過ぎるようにおもわれる。「結論の背景」というなら、『なぜ、鑑定と使用価値を比較するか』を、もっと描くべきだろう。作成者の視点がそこにないというなら、不動産鑑定士を大いに利用していただきたいと思う。

 

(編集後記)
 お客様のニーズに的確に応えてこそ、“サービス”である。
 問題解決、有効活用、社会貢献…。不動産は依然として重要な資産であり、その専門家である不動産鑑定士の果たす役割は大きいと思う。
 フル稼働3年を超えて、当“週刊アクセス”もさらに有用な情報提供の場として発展したい。我々が提供できる(可能と考える)“サービス”を積極的に訴えてゆくつもりである。

 今年の“週刊アクセス”にご期待ください!





H15.12.3 第187号
企業再生に果たす会計の役割
  〜不採算部門の把握と成長のための組織再編をアドバイス
  (『企業会計』2003.12、Vol.55・12、p17〜)  
   表題の座談会において、現・日本公認会計士協会会長・奥山章雄氏の発言。

『・・通常の監査をしているときに、継続企業には留意していますが、しかし、今の経済環境でいくと、継続企業の中で、どの事業がいつ危なくなるかというのはわからないわけです。そうすると、監査する立場からは、常にその企業のリスクというものを把握していく必要がある。・・例を挙げると、ロード・ショップを展開している飲食事業などは、同じようなレストランチェーン店をやっていたら、いつお客さんが入らなくなるかわからない。だから、事業展開としては、新たなロード・ショップ、新しい店の形態というのを常に考えていかないといけない
 ・・企業再生は大変普遍的な問題だと思います。それにいくつかの理由があるのですが、その1つは、通常において

  常に不採算部門を把握する

ことは、企業経営にとって当然必要である。2つ目は、その会社が成長していくためには

  組織再編を常に考えている、

ということです。
 ・・公認会計士業務が企業再生においてどのような役割を果たすか、・・を・具体的に・・M&Aにおいては、いわゆるデューデリジェンスというM&Aする相手の数値が真実かどうかの把握を行う。・・将来の会計的数値を明確に示していくという計画性をチェックしていくという意味で、役割を果たすということです。
 ・・不採算部門が非常に膨らんで、ディスクローズなしにある日突然倒れてしまったら制度の命取りです。危険性があるなら、何らかの形でディスクローズすべきではないか。そういう意味では、不採算部門を抱えている企業の実態というものをディスクローズするという、そういう透明性は必要だと思いますね。』

いわせてんか! “選択と集中”といわれて久しい。
 一番最近の会計専門誌でのこの座談会を見て感じることは、会計士が監査という立場で企業会計に関わっていて、“過去”を主題にしていたのかということ。経営に役立つアドバイザーとしての役割はいまだ半ばなのかなあ、ということである。
 さらに、開示の話になると、司会の関西大学教授・柴健次氏いわく『・・日本の開示例を見てやはり重要な情報は出したくないのだろう・・』『奥山先生は・・会計は経営に役立ってこそ意味があるんだといわれましたが、これは企業内部の会計のお話ですね。でも外部会計について、企業経営者は、知られたくないことをオープンにさせる道具だ、という意識があるように思います。どうでしょうか。』と、現状は企業側に立っていることを指摘している。
 また、これまで本HPでも取り上げてきた“減損会計”ともつながると思うのだが、国際会計・企業会計の委員を多く務める、関西学院大学学長・平松一夫氏は『こういう新しい企業再編なり事業体が全く異質なものとして生まれ変わるようなときには、やはりどうしても時価という概念を外せない、という気持ちが学者としてはしております』と述べ、“不採算部門の把握と成長のための組織再編”を考えた場合、一旦過去のリセットを必要とすることを示唆している。

 減損で、特に“主要な資産”が土地・建物の不動産の場合、過去の会計データではなく、『将来の会計的数値』をベースにしなければ実効性は少なく、そこには不動産を見てきた鑑定士が助力できる部分があると感ずる。





H15.11.26 第186号
減損会計と時価会計の違いとは?
  (辻山栄子編著「逐条解説・減損会計基準」中央経済社、2003.6、p3〜4)  
   辻山栄子氏担当「減損会計の基本的な考え方」における一節。

『・・減損会計基準の対象とされているのは、事業用の固定資産である。事業用の固定資産の減損とは、キャッシュ・フローを生み出す事業用の資産や資産グループの収益性が低下して、投資額の回収が見込めなくなった状態であり、減損処理とは、そのような場合に、一定の条件のもとで回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理のことである。
 したがって減損会計は、資産を時価で評価するいわゆる時価会計とは異質のものである。時価会計では、資産が上にも下にも評価替えされるが、減損会計では資産の簿価は下方のみ切り下げられる。しかも減損会計は、資産価値の変動によって利益を測定することや、決算日における資産価値を貸借対照表に反映させることを目的とするものではなく、あくまでも取得原価基準のもとで行われる帳簿価額の臨時的な減額である。
 ・・事業用の固定資産は、通常、市場平均を超える成果を期待して事業に使われているため、市場の平均的な期待で決まる時価が変動しても、企業にとっての投資の価値はそれに応じて変動するわけではない。・・(固定資産に対する)投資の原価は、その投資から生み出される価値の対価としてのキャッシュ・フローの獲得によって回収されていくから、事業活動の途中でその資産の時価がどのように変動しても、それによって直ちに事業の成否が判定されることはなかった。・・
 ・・つまり、投資原価の回収可能性が著しく損なわれたことが明らかな場合に、伝統的な減価償却計算とは別にその事実を帳簿価額に反映させるために導入された会計処理である。』

いわせてんか! 同著は、先週号でも述べた「企業会計審議会・固定資産部会長」たる辻山教授が編者を努め自らも執筆する、事実上の減損会計基準の“逐条解説”である。その証拠に「基準設定経緯」「財務諸表開示」「適用時期」については、執筆当時現役の金融庁総務企画局市場調査課課長補佐・平松朗氏が担当している。
 商品等の棚卸資産は“低価法”があり、時価が簿価を下回る場合は評価減をし、著しい場合で回復不能もしくは不明の場合は、強制的に減価する。数年前の『販売用不動産の強制評価減』はこれを確認したものだった。商品を仕入れた支出を回収するためには、市場で売るほかはない。決算時点で、その市価が大幅に下落しているなら、今売ってもそこまでしか回収できないわけだから、保守主義の観点から売る前に損失を計上する。
 一方、固定資産は事業の用に供しており、それを使用することによって年々収益を生み出す。売ることもできるが、その年々のキャッシュ・インフローが将来確実に見込めるなら、その固定資産の購入費用(投資額、未回収残高=帳簿価額)は、それによって回収できることになる。売る場合の市価(市場価格)は、その意味で企業独自のキャッシュとは関係がない。
 わかる話ではあるが、しかし・・・。地価の大幅下落とデフレ経済の今の日本で、採用される“減損会計基準”の意味合いとはなんであろうか?
 今回の“適用指針”では、減損測定テストが「回収可能価額」であり、その価額とは「正味売却価額」と「使用価値」のいずれか高い方の金額であるという。また、不動産の「正味売却価額」は「時価」をベースとし、「不動産鑑定評価基準」に基づいて算定することも記載されている。“売るか、そのまま使うか?”を比べるわけだが、簡単な話ではない。
 また、この基準のもとは国際会計基準(IAS)や米国会計基準(FAS)だが、欧米諸国はあまり土地が重要な資産ではない(固定資産に占める割合が低く、建物・設備など償却資産が中心となる)。これを日本に輸入する際に留意されたことは、将来キャッシュ・フローの見積り期間を20年にしたことである。“土地という非償却資産が主要な資産となる場合がある”ことがその理由のようだが、いかがだろう?
 土地は、ほぼ永遠になくならないから、永久に収益を生み出すベースとなる。減損の兆候は時価が著しく下落した場合などにするが、認識は「割引前将来キャッシュ・フローの総額」が簿価を下回っていなければ行わない。割引前だから、見積り期間が長ければ長いほど減損をする可能性は少なくなる。そうすることが日本の特徴なのだろうか?
 なぜ時価と比べるか?という点に注目したい。日本企業の正しい実態を利害関係者にディスクローズする目的は何なのか?兆候のある不動産を考えると、主にバブル期以降に高く取得した固定資産になろうから、“経済的残存使用年数”は20年を超えるものが多いだろう。20年の予測は困難であり、恣意性が介入する危険度が高い。それに基づいて“減損認識せず”と判断し、開示しないことが果たしてよいものか?時価会計と異なると説明するのは明快だが、ここにこそ“日本の特徴”をよく考えてもらいたい。





H15.11.19 第185号
FASF 減損会計の最終適用指針 各地でセミナー
  ((財)財務会計基準機構(FASF))  
   財団法人財務会計基準機構の企業会計基準委員会(ABS)は先月10月31日、企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」を発表した。
 この運用指針は、平成14年8月に公表された「固定資産の減損に係る会計基準」について、実務に適用する場合の具体的な指針として同委員会で審議された成果物である。
 同機構は、11月17日の東京を皮切りに、10日ほどかけて全国9会場でセミナーを実施。同セミナーは日本公認会計士協会のCPE(Continuing Professional Education:継続的専門能力開発)制度の対象であり、専門実務家の具体指針となる。

 各種リンクは以下。

 財団法人財務会計基準機構(企業会計基準委員会)
「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」関連ページ(H15.10.31)
   ※適用指針は冊子の購入のみ(ダウンロード不可)
「『固定資産の減損に係る会計基準の適用指針』の検討状況の整理」の公表(H15.3.5)
  『固定資産の減損に係る会計基準の適用指針』の検討状況の整理』
   ※適用指針の草案(ダウンロード可)

 金融庁・企業会計審議会
企業会計審議会・議事録
⇒企業会計審議会固定資産部会
  企業会計審議会固定資産部会の公開草案の公表について (H14.4.19)
  『固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書』(H14.8.9)
   (含む、「固定資産の減損に係る会計基準」「同注解」)

いわせてんか! 2004年3月・年度決算より早期適用が決まっていた“減損会計”の具体的運用指針が出た。
 企業会計審議会・固定資産部会長で企業会計基準委員会委員でもある早稲田大学教授の辻山栄子氏によれば「日本の会計制度において残された重要課題の1つとされていた減損会計基準と、企業結合会計基準が整えば、日本の企業会計はその質においても、また網羅性においても、国際的に見てほぼ遜色のない水準に近づくことになる」。(『逐条解説・減損会計基準』辻山栄子編著、中央経済社、2003.6、p2)
 しかし「いずれにしても、1999年以降、日本企業は海外で英文の決算書を公表する際に、『国際的に通用する基準とは異なった基準で作成されている』旨のレジェンド(警告文)を併記することが求められてきた。資金調達などにおいて、日本企業が海外で不利な状況に置かれないようにするためにも、日本の会計基準の国際化が急がれている」。(『Evaluation 8』「減損会計の影響とその対策について」作新学院大学教授・田中久夫氏、Progress、2003.3、p7)
 具体とはいっても「鉄道事業や電力事業など、特定の業種を適用指針に明記してほしいとのコメントが公開草案に対して寄せられていたが、最終的には明記されていない」(トーマツ記事)状況である。
 この最終目的は、投資家、株主、債権者など利害関係者(特に海外)に対する適正開示に尽きるだろう。時間とコストが限られているとはいえ、一定の信頼されるレベルは超えなければならない。日本の場合、特に“土地神話”の残骸が、保有資産の大きなリスクとして存在する。減価しない“土地”をどう扱うか?長期の将来キャッシュフローの見積りは、過去のデータだけでは計り知れず、将来の事業計画・転換・処分など、その適正性の証明はかなり困難である。
 不動産と企業(経営・人)。相互の働きかけが複雑な今、それぞれの専門家が緊急に知恵を出し合う必要がある。





H15.4.9 第153号
債券含み益2兆5,000億円(3月末)―大手生保、株含み損補なう―
  (日経金融新聞 H15.4.4)  
   長期金利の急低下を受け、生命保険会社の国内債券の含み益が拡大している。2002年度末の大手7社の含み益は2002年度9月末に比べ7000億円程度増え、2兆5000億円程度となったもよう。国内株式の含み損を補い、経営の健全性を示すソルベンシーマージン比率の下落に歯止めをかけている。ただ、生保の総資産に占める国内債券の割合は増加を続けており、今後は金利上昇への備えが必要になりそうだ。
 日本、第一、住友、明治、朝日、安田、三井の大手7社は昨年3月末時点で合計で約37兆円(簿価ベース)の国内債券を保有、約1兆4000億円の含み益を抱えていた。今年に入り長期金利が過去最低水準を更新、含み益は2兆5000億円程度まで膨らんだとみられる。
 一方、昨年9月末まで含み益を維持していた国内株式は、日経平均株価が8000円を下回り、含み損に転落。減損処理前で約2兆円の含み損となったもよう。通常なら各社のソルベンシーマージン比率の大幅低下が避けられない情勢だった。だが「国債などの含み益活用と準備金の取り崩しで対応可能」(大手生保首脳)となる生保が多いとみられる。
 今後は「将来の国債の金利上昇をにらんで、いかに高値で売り抜けられるか」(大手生保幹部)が生保の重要な経営課題となりそうだ。

いわせてんか! 株安による運用難から、生保の経営危機が叫ばれ、予定利率の引き下げが議論されている。また、生保に限らず、銀行、一般企業の収益が持ち合い株式の下落によって圧迫されていることから、減損会計の凍結が与党から提案されている。このように、株安ばかり注目されているが、実は、(当たり前の話ではあるが)株安の裏返しの債券高によって、生保等はちゃっかり利益を確保している訳である。
 周知の通り、新基準において、DCF法における割引率の求め方のうち「金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法」において、「比較の対象となる金融資産の利回りとしては、一般に10年物国債の利回りが用いられる。」とされており、また、「借入金と自己資本に係る割引率(還元利回り)から求める方法」においても、借入金利が長プラをベースとし、長プラの算出の基準となる利付き金融債の利回りが10年物国債の利回りを指標としていることから、10年物国債の利回りの動向を把握することは非常に重要である。
 10年物国債の利回りは、現在0.7%前後で推移しているが、昨年9月ごろは1.2%前後であった(半年で半分近く下落)。また、バブルの頃には6%前後であった(約1/10に下落)。このように、10年物国債の利回りは変動が激しく、適切な予測は困難である。しかしながら、日本経済のファンダメンタルズを反映し、不動産の還元利回り・割引率にも少なからず影響している指標として、その動向を注意深く見ていきたい。

―追記―
 イラク戦争の最中、原油価格が依然下落基調である。
 ヘッジファンド等によって吊り上げられた原油価格は、開戦直前にこれらヘッジファンド等の一転した売りにあい急落した。で、高値をつかまされたのが、日本の石油会社であろう。そして、そのツケは我ら平和な国民に回ってきている訳である。実際、近所のガソリンスタンドを見てみても、便乗値上げがまかり通っているようだ。
 新基準において、市場分析が重視されているが、よりグローバルなマーケットを考えれば、ヘッジファンド等の海外の投資家にとっては原油も不動産の代替財(もうけの対象)となり得る。それらの投資家は高度な金融技術を有しており、投資収益に対して非常にシビアである。彼らを相手に鑑定業界で戦っていくためには、生半可な知識では太刀打ちできないであろう。日々研鑚に努めたい。





H15.2.12 第145号
不良債権残高・産業再生機構・減損会計
(日経 H15.2.8・9)
 
 (H15.2.8)
 金融庁は7日、2002年9月末の全国銀行の不良債権残高が3月末より3兆1千億円減り40兆1千億円になったと発表した。

 政府は7日、今春発足する産業再生機構の社長に大和証券SMBCの清田瞭社長(57)を充てることで最終調整に入った。清田氏は企業再生ビジネスや投資銀行業務の経験が長く、経営不振企業の再建を手掛ける組織のトップに適任と判断した。

 (H15.2.9)〜NEWS反射鏡「会計改革にくすぶる不満」
まず、減損処理の影響予測が不可欠だ。時価(現在価値)の測定はグループ分けした資産の収益が基準になるが、そこから割り出された不動産(土地)価格と公示価格などの予想されるズレをどうするか。評価損を計上する減損処理だけでなく、評価益も計上する資産再評価は必要ないか。
 太閤検地と地租改正に次ぐ平成検地と戦後処理の忘れ物の資産再評価は、土地本位制と決別する日本再生の出発点にふさわしい。

いわせてんか!
 不良債権はあくまで“債権”であって、土地などの不動産を指すものではない。しかし、当該債権を最終的に回収する手段の少なからぬ部分が「担保不動産」の有効活用や処分などにかかっていることもまた事実である。記事では大手銀行の回収が進み(地方銀行は逆に査定で増えている!)、1割近くも減ったと告げているが、後9割も残っており、さらにそれは回収された1割よりも回収困難であることも自明だ。
 政府は当初、RCCの不良債権高値買取で処理しようとしたが、途中から産業再生機構で、不良債権の対象となっている債務者企業の“再建”にベースを変えた。その社長には、過去の住管と同様、民間の実務者を適用する考えだ。いいわるいは詳細を見てみないとわからないが、企業の収益ベースに視点を移したからといって、最終の不動産取扱いをどうするかをなおざりにして良いわけではない。減損会計は、その“接点”であるともいえる。
 所有から利用へと不動産の価値観が変わり、企業体に不可欠な不動産は、まさに当該企業や同種の企業が利用継続してこそ利益を生む。しかし、やむを得ず清算しなければならない場合は処分価値しかない。ホントの不良債権の処理は、これを見極めてこそであろう。そのためには、2/9のコラムの如く、資産再評価が出発点になると思う。利用・処分を判断するため、まずは、評価損が出るにしろ評価益が出るにしろ“処分価値”(第三者への早期売却価額)を確定することが重要である。



 

 ※「特集コラム」は、(株)アクセス鑑定の統一見解ではなく、執筆担当者の私見にすぎません。

     
     
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