《ニュータウンの盛衰》
近年、地価に関して「都心回帰現象により、都心の地価が堅調に推移」というフレーズが専門家の中では普通に語られています。
これはどういう意味でしょうか。
このことを理解するには、日本の戦後高度成長期からの歴史的社会問題から語らなければなりません。
昭和30年代後半から40年代にかけて、日本は驚異の高度経済成長期を迎え、地方から東京・大阪を中心に労働者が集まり、都心の地価は上がり、住宅需要が逼迫、そのため、新住宅市街地開発事業等に基づく、ニュータウン(大型団地)が都心郊外に次々に開発されることでその住宅需要に応え、住宅ローンの整備もあって、宅地開発はいたる所で進められて行きました。
さらに、モータリゼーションの波もあって、欧米のライフスタイルに似せた生活様式がトレンドとなっていきました。
その後、昭和50年代に入って、高度経済成長が鈍化・低成長時代に入っても、宅地開発による住宅供給は増え続けました。
そして昭和62年以降のバブル景気を迎え、平成3年以後は、バブル崩壊で、宅地開発は一気に冷めてしまいました。
そして「失われた20年」と称させる地価下落が続き、団塊の世代も60歳を過ぎ、定年を迎える時代となったのが平成20年頃、団塊ジュニア世代も、社会人となってニュータウンから飛び出し、都心のワンルームマンションで生活を始めたり、結婚して、分譲や賃貸マンションに居住するようになり、残されたニュータウンで子育てを終えた団塊世代の夫婦が、車のいらない居住環境を求めて都心の比較的安くなった手狭な分譲マンションに買い換えしていくことになります。
これが、都心回帰現象です。即ち、若い世代も、子育て終えて「終の棲家」を求める中高年もニュータウンを捨てて、都心の便利な所へと移住しているのです。
このようにニュータウンの盛衰を鑑みる時、これは、「高度経済成長のための仮設住宅」ではなかったと感じてしまいます。
ニュータウンが出来上がった当時、同じようなニューファミリーが同じような生活を送り、そして、その役割を終えると空家が増え、急激に高齢化が進み、公共公益的施設が縮小・撤退し、オールド・ニュータウンと化してしまったところがどんどん増えていくことになり、当然の如く地価は下落し続けています。
例外的に、千里ニュータウンでは、大阪メトロ御堂筋線で千里中央―梅田間、直結20分であるため、利便性と住環境の良さで、現時点では堅調に推移しています。
《都心のマンション動向》
高度経済成長時は、車の排ガスによる大気汚染や騒音公害の影響の外、都心での住まいはもともと地価が高いこともあって都心暮らしは敬遠されてきました。昭和50年以降、核家族化が進むとともに、マンション需要が台頭し、分譲マンション価格は上昇の一途となりました。
バブル崩壊後の一定時期は売行き低調でしたが、都心の利便性、大気汚染等の改善により、都心のマンションライフが一定の市民権を取り、特に大阪市では、新婚向けの税制の優遇措置で、若い世代が大阪市内に定住するようになりました。そして、都心回帰現象を誘発して、マンション適地の都心の土地は急激に高騰していきます。
さらにアベノミクスによる超低金利政策により、不動産投資が国内外の投資家から収益物件として購入したために、需要が逼迫し、インバウンド効果により、ホテル需要と堅調なマンション需要の競合により、さらに都心の地価も高騰し、平成20年秋のリーマンショック以前の地価水準に並び、そして今、さらに上昇の過程にあります。
《都心回帰現象の終焉はあるのか》
なぜ、都心回帰現象なるものが起こるのでしょうか。
都心は、何と言っても便利であることと、暮らしやすさです。独身貴族はもちろん、老後を生きる方々も、刺激を求めています。息苦しさを感じるところもあるがそれも刺激となり、生きている証があるのです。
一方、オールド・ニュータウンは、自然環境が豊かで、静かで休息するには申し分ないが、同一時期に入った人達がそのまま年を重ね、年金生活者が多く、刺激がありません。さらに、子供が少なくなり、小中学校が統廃合され、産婦人科、小児科、内科等の医院が撤退したり、近隣商業施設も閉鎖、どこへ行くにも車がなければ不便、さらには、築後40年以上経過し建替えをするかどうか考えた時、売却して、多少狭くても、何かと便利な都心のマンション暮らしをしたい、これが大きな選択肢の一つとなっています。
私の経験値からみれば、朝は、小中学校へ行く子供たちが登校の列を作り、昼間は公園で園児や幼児が遊び、老人が散歩し、週末は家族が、車や電車で出かける姿を日常的に見ることができる街、即ち、各世代間がバランスよく活きづいて暮す街が好まれます。
そうすると、ある世代に偏ったところがある限り、そこには都心回帰現象が続いていくとみることができます。
したがって、この現象は、少子高齢化が続く限り、これに連動していくと思われ、都心のマンション価格が手の届かないところまで高騰、あるいは、今の古家付の土地を売っても都心のマンションを買えないところまでくれば、この現象が終焉を迎えるでしょう。
でも、都心回帰現象はなくならないと思います。これが私の結論です。
以上
(令和元年5月13日執筆)