継続賃料評価の基礎知識


のコーナーは、賃貸借契約締結後、当事者間で起こりうるトラブルのうち、賃料の増減請求に軸足を置き、賃貸借契約の背景、当初の賃料額を決定した要素、その後の経緯、当事者事情変更、賃料増減額請求に至る経済変動要因等を踏まえ、賃料の増減請求の当否を経て、不相当となっているならば、どのようにして価格時点における相当な賃料を求めるのかを判断するための基礎知識をご紹介します。
継続賃料評価は、専門家である不動産鑑定士の間でも高度な専門分野として扱われていますが、一つ一つの証拠を組み立て、基礎知識を習得すれば、必ず着地点は見つかります。




《目次》
1.民法改正(2020.4.1施行)…どこが変わったか?
2.現行の借地借家法について
3.借地・借家の歴史的経緯
4.賃料増減請求の行使
 ①当初契約や条件変更に伴うもの
 ②借地借家法11条1(地代)、32条1(家賃)によるもの
 ③最高裁判例の判断枠組みによるもの「請求の当否」
 ④鑑定評価基準H26実務指針
5.当事者事情分析の必要性
 ①直近合意時点
 ②賃料額決定要素
 ③事情変更と諸般の事情
6.新規賃料と継続賃料を求める方法の違いとポイント

 


1. 民法改正(2020.4.1施行)…どこが変わったか?

実に120年ぶりの債権法を中心とする大改正です。
これまでの判例法理、慣習法などを織り込んだもので、従来の法理が真逆になったというものは特にないようです。
「賃貸借」に関しては、存続期間が伸長され(604条)、賃貸人たる地位の移転が明文化されました(605条の2)。修繕・滅失した場合のルールが整理され(611条)、原状回復義務の範囲や敷金に関するルール(621条、622条の2)などについて、判例法理に従って明文化されました。
ところで、民法上の賃貸借は、動産、不動産を問わず対等な立場にある当事者間で行われる法律行為です。
賃貸借契約を締結する中で、最低限度必要な条文を列記したものですので、民法の条文のみで賃貸借契約を結ばれることは現実的にはあまりありません。
したがいまして、民法601条~622条2、契約自由の原則(民521条)、信義誠実の原則(民1条2)、公序良俗(民90条)、消費者契約法第10条等に反しない限り、当事者間で様々な契約内容(特約条項)を織り込んで賃貸借契約を締結することができます。
さらに、建物所有を目的とする賃貸借契約では、「民法上の賃貸借」に加えて「借地借家法」をも遵守しなければなりません。
(これについては、次項で説明)
民法では、今回の改正で新たに「敷金」が定義されましたが、借地借家法では、敷金等の一時金に関するものは一切定義されておりません。
一方で、賃料の増減額請求については、民法では定義されておらず、「賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて減額される」(民611条)とあり、借地借家法11条、32条にある「賃料増減請求」は全くありません。


ここで「敷金」について少し掘り下げて説明します。
622条2には、「いかなる名目によるかを問わず、賃料 債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。」とあります。改正民法で明文化された法律用語です。
一般に、不動産賃貸に基づく当初契約時に特約条項等で、賃借人から賃貸人に一時金を支払う旨の取り決めを行うことが多いですが、この一時金には、①賃料の前払い的性格を有する権利金・礼金といった名目で支払われる場合、②預り金的性格を有する敷金・保証金といった名目で支払われる場合に分かれます。
権利金・礼金は、賃貸人にいったん渡すと賃借人には戻らないところから、前払い賃料と同じ扱いとなります。
一方、敷金・保証金は、賃貸借契約解除時まで、賃貸人が預かり、解除時に賃借人の責めにより発生した費用があればその分を差し引き返還(要返還債務)するものです。


これらの一時金については、住宅地や商業地、周辺地価の高低により異なりますが、必ずしも支払わなければならないものではなく、当事者間の合意で決められるものです。
では、なぜ「敷金」だけが民法に定義付けられたのか?ですが、地方・地域により敷金や保証金といった名目がばらばらで、特に京都や大阪では、例えば敷金50万円、敷引30万円といった名目で特約された場合に、初めに30万円は賃料の前払い的性格を持つ一時金として賃貸人の手に渡り、契約解除時に敷金20万円だけが要返還債務となる慣習があり、関東その他の地域には馴染みがなく訴訟となるケースもありました。
さらに、契約解除時の原状回復義務に基づく敷金返還金額のトラブルが多かったことから、621条の原状回復義務の範囲を定義するとともに、敷金についても定義したものと理解しております。
以上から、改正民法を通じて「敷金」及び「原状回復義務の範囲」が全国統一されて、今後、これらに関する訴訟は減少していくものと思われます。


以下、民法改正 賃貸借関係の表を掲載!

 






2.現行の借地借家法について

この法律は、第1条に以下のように定義付けられています。
①建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等(借地関連)
②建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定め(借家関連)
③借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定める(裁判手続き関連)
本法は、一般法である民法の賃貸借に対して特別法として位置付けられています。
それは、「建物」が個人(法人)の所有と同時に国民の貴重な財産であるという認識から法的に保護すべきとの認識と、本法成立の趣旨は、法的弱者である賃借人に不利な特約は排除すべきところから、特別法としての扱いになったと思われます。
農地や林地、スキー場やゴルフ場の建物所有を目的としない部分などは、民法の条文+特約で賃貸借契約が結ばれ、建物所有を目的とする借地権や賃借権については、一般法である民法に優先して、特別法である本法が適用されることとなります。

本法適用の賃貸借の契約から解除までの事象をまとめれば下記のような図となります。



  ・時間軸は、左から右、上段が賃貸人サイドの行動、下段が賃借人サイドの行動です。
  ・一時金には、契約当初に支払う敷金や権利金等があり、契約の合意で定まります。
  ・賃貸借の継続中に請求される一時金には、更新料・増改築承認料・名義書換料等がありますが、契約で定めていない場合には
    必ずしも支払うべきものではありません。
   賃貸人の承諾なく賃借人が賃貸人に無断で実行した場合は、契約解除の可能性があります。
  ・賃料増減請求は、法11条、32条より双方に請求の行使が可能です。
  ・賃貸人からの更新拒絶に対し、賃借人は、正当事由により拒むことができますが、賃借人からの解約は事前通知で可能です。
  ・要返還債務である敷金の返還は、特に賃借人の責めによるものでなければ全額返還されます。

以上から、当初契約から契約解除までの様々な当事者間で起こりうる事象については、賃貸借契約書で合意しておくべきものであって、契約内容を守ることが当事者間のトラブルを最小限に止めるものとなります。
ただし、本法11条、32条の賃料増減請求の行使については、「契約の条件にかかわらず・・・」とあるように、同法が優先されることとなり、第3者の立場から、賃料評価の専門家である当職(不動産鑑定士)に一度相談してみてはどうでしょうか。
当職は、賃料評価以外にも、賃貸人からの更新拒絶に伴う正当事由における財産上の給付(立退料等)の評価、契約に定めのない更新料・増改築承認料・名義書換料の査定についても専門的知見としての意見を述べることができます。


以下、借地借家法を掲載!

 





3.借地・借家の歴史的経緯

明治29年

日本「 民法 」施行→令和2年民法大改正       
地震売買・・・「売買は賃貸借を破る」の原則は、所有権絶対の原則を根拠に土地の所有者移転により、   新所有者に対して借地人は建物を取り壊して、土地を明け渡さなければならないため、地主同士で形式的な売買契約を交わせば借地人の追い出しが可能でした。地震時には建物が取り壊されたため「地震売買」と呼ばれていました。これが日露戦争後とくに社会問題となりました。
明治42年 建物保護に関する法律」が制定→平成3年廃止
借地人が借地上に登記した建物を有するときには、第三者に借地権を対抗できることになりました。
大正10年 借地法 」、「借家法」が制定 →平成3年廃止
現行の借地借家法の前身である「借地法」「借家法」が成立しました。法的弱者である借地人の法的地位を安定させようということです。
昭和14年 地代家賃統制令 」施行→昭和61年廃止
昭和16年 借地法に正当事由制度が導入
太平洋戦争目前の軍国主義の時代、賃借人が多いであろう出征兵士の帰還後の暮らしを守るため、借地契約の更新拒絶をほぼ不可能とした改正でした。
また「国家総動員法」によってあらゆるものを国が決めていたこともあり、賃料も公定価格でした。地主にとっては受難の時代となったわけです。一度土地を貸すと、用途変更ができず、賃料増額もできなかったのです。
なお、正当事由は、賃貸人と賃借人のどちらが建物使用を必要としているか、賃貸借の従前の経過、建物の利用状況、賃貸人からの立退料支払いの有無など、総合的に考慮して判断されるとなっています。
平成3年 借地借家法 」制定
建物保護に関する法律、借地法、借家法が一本化されました。
平成4年 定期借地権、定期借家権の創設
土地神話の下で、バブル経済からその崩壊により、日本経済は低迷の時期を迎えます。バブルの反省から、土地保有(キャピタルゲイン)から土地利用(インカムゲイン)することへ価値観を移すという「土地基本法」が平成元年に成立。その流れの中で、土地の利用を阻害している借地制度が問題になり、新たな借地供給を進めるために、新たな借地、定期借地権が導入されることになりました。
なお、借地契約や借家契約については、契約当初時点の法律が適用されます。



まとめ
不動産の賃貸借の歴史は、「所有権絶対」であった民法下で賃貸借契約が成立していきましたが、賃借人の法的弱者を救済する目的から、日本独自の法律として、「建物保護に関する法律」や「借地法」「借家法」が制定され、特に「正当事由」により賃借人の保護がさらに強固なものになりました。これらの賃借人に付与された権利が強くなり、その後「賃借権の物権化傾向」として定着していきました。
高度成長に伴って、生活様式、経済活動の進展により、借地の利用が低利用地化となっていき、地価の上昇とともに、賃貸借は、「庇を貸して母屋を取られる」と揶揄されるように特に都市部で経済発展を阻害するものとして認識されるようになりました。
そして、平成3年に「正当事由」を普通借地・普通借家に残しながらも、定期借地・定期借家制度が導入され、ほぼほぼ当事者が対等となる「借地借家法」が成立するに至りました。
平成12年(2000年)の不動産の証券化に伴って、さまざまな形態による賃貸借の運用により、不動産投資への活性化が進んでいきました。
しかしながら、これらの法律は、法以前の賃貸借契約には、契約時の旧法が適用されることから、借地借家問題は根深い問題を残したまま今日に至っています。



4.賃料増減請求の行使

①当初契約や条件変更に伴うもの
賃貸人は、賃借人に対して、その不動産の使用収益を許す代わりに、通常、土地や建物の経済的価値に応じて賃料を受領します。
賃借人は、長期安定的に使用収益することで、徐々に市場賃料の水準に比較して開差を生じて、いわゆる借り得部分を認識し、市場賃料と比較して相対的に割安な賃料を支払います。
この関係が、長期間に伴い契約変更等により、さらに有利な条件を賃借人にもたらした時、賃貸人の行動として、市場賃料開差との縮減、長期安定の延長等による賃料増額或いは一時金(増改築承認料、名義書換料、更新料等)の請求を行うこととなります。
増改築承認料は、現状仕様の床面積を増加したり、一部または大部分を改築することにより、建物の収益性や快適性を増価させ、建物の償却年数を延長させたりとするもので、通常、契約で無断増改築禁止項目が記されています。
この場合、賃借人の増改築後の収益性あるいは快適性の増価割合を測定し、一時金或いは賃料増額によって合意形成されることになります。
名義書換料は、本人の配偶者或いは子どもが相続により承継する場合を除き、第三者が包括承継する場合においては、賃貸人が譲受人である新賃借人に対する資力の有無等信頼関係を構築していけるかどうかを確認するために、契約に無断譲渡転貸の禁止項目が記されています。
この場合、前記増改築承認料とは異なり、収益性あるいは快適性の増価はないが、前賃借人が契約当初時点の一時金(前払い的性格を有する)を上限として、一定の一時金によって合意形成されることになります。
更新料は、契約期間満了後、自動更新の場合に賃借人から賃貸人に支払われる一時金ですが、これについては特に契約内容に記されていなければ、支払わなければならないものではありません。法的にも、無断増改築禁止や無断譲渡転貸禁止とは異なり、賃貸人に何ら不利益を被ることはないと考えられるからです。


②借地借家法11条1(地代)、32条1(家賃)によるもの
借地借家法11条1項は、「地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、①土地に対する租税その他の公課の増減により、②土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は③近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。」
ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
なお、借地借家法32条1項は、建物の借賃が、・・(11条1に同じ)・建物の借賃の額の増減を請求することができる。

同法11条と最高裁判例の考え方を重ねて鑑定評価の手順を整理すれば次のようになります。
ちなみに、当社では、以下の手順を「当事者事情分析」として継続賃料の鑑定評価においては最も重視しております。

《A》まず、賃貸借契約に関連する全期間において、当初契約及びその他の契約並びにその改定の経緯を確認して、直近合意時点及び価格時点を判定し、分析すべき「変動判定期間(直近合意時点~価格時点)」を確定するとともに、賃貸借契約の当事者が当初契約の賃料額決定の要素とした事情や、その改定経緯における更改契約等の改定額決定の要素とした事情(以下、「賃料額決定要素等」という。)その他諸般の事情を判断します。

《B》次に、変動判定期間における不動産の価格や賃料を形成する要因とその変化について分析します。その期間で一般的な社会経済情勢や対象不動産が存する近隣地域がどのように変わったか、対象不動産自身はどのような個性をもっているのか、そのような不動産が取引・賃貸される市場はどのようなもので、どのように変化したのか併せて分析します。
また、賃貸借契約の賃借人による土地利用と、直近合意時点と価格時点で最も収益を生むであろう利用方法(最有効使用)との異同も確認します。

《C》第三に、法所定の賃料増減請求に必要とされる以下の要件(経済事情の変動等と賃料額決定要素等。以下、「法所定要件」という。)について分析を行います。
1 借地借家法11条1項所定要件の分析
(1)租税等の負担の増減
(2)土地価格の変動その他の経済事情の変動
① 土地価格の変動
② その他の経済事情の変動
(3)近傍類似の地代相場との比較
① 地代相場とのかい離の有無とその程度
② 地代相場の変動
2 本件契約に係る諸般の事情の分析
(1)賃料額決定要素等の有無及びその変化
(2)その他諸般の事情

《D》最後に、以上の分析結果を総合的に勘案して、価格時点における相当賃料額の鑑定評価の手順に即して求めた鑑定評価額が、本件契約の直近合意賃料と比較して価格時点において不相当となっているか否かを判断する。


③最高裁判例の判断枠組みによるもの「請求の当否」
〇同項の法解釈として、建物の借賃につき(地代等も同様。)、平成15年10月21日最高裁第三小法廷判決(平成12(受)573)等の一連の賃料増減に係る最高裁判例は、同項が定める「減額請求の当否(同項所定の賃料増減請求権行使の要件充足の有無)《請求の当否》及び相当賃料額を判断するに当たっては、賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情《賃料額決定要素》を総合的に考慮すべきである」と判示。
〇次に、平成17年3月10日最高裁第一小法廷判決(平成14(受)1954)は、家賃の32条1項所定事項を具体的に、「租税等の負担の増減、土地建物価格の変動その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の賃料相場」と読み替えた。

〇また、平成26年9月25日最高裁第一小法廷判決(平成25(受)1649)は、「賃料増減額確認請求訴訟においては、その前提である賃料増減請求の当否及び相当賃料額について審理判断がされることとなり、これらを審理判断するに当たっては、賃貸借契約の当事者が現実に合意した賃料のうち直近のもの(直近の賃料の変動が賃料増減請求による場合にはそれによる賃料)《直近合意賃料》を基にして,その合意等がされた日から当該賃料増減額確認請求訴訟に係る賃料増減請求の日までの間《変動判定期間》の経済事情の変動等を総合的に考慮すべき」であるとした。


④鑑定評価基準H26実務指針
継続賃料とは、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料をいい、その鑑定評価額は、現行賃料を前提として、契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点《直近合意時点》以降において、継続賃料固有の価格形成要因である、公租公課、土地及び建物価格、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の変動等《事情変更》のほか、賃貸借等の契約の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容《諸般の事情》を総合的に勘案し、契約当事者間の公平に留意の上決定するものであると定める。


5.当事者事情分析の必要性

①直近合意時点
賃貸借契約の当事者が現実に合意した賃料のうち直近のもの(直近の賃料の変動が賃料増減請求による場合にはそれによる賃料)を定めた時点。平成26年9月25日最高裁第一小法廷判決(平成25(受)1649)

直近合意時点とは、多くの場合、結果として現行賃料を定めた時点になりますが、常にそうなるとは必ずしも限りません。
たとえば、契約において「賃料は3年ごとに5%増額するものとする。」と定められていた場合に契約時100であったものは3年ごとに105、110、115となりますが、法11条、32条に照らし、相当程度下がっているとして賃料減額請求の行使が認められれば「契約の条件にかかわらず・・・」相当賃料に改定することが可能で、その場合は、「賃料は3年ごとに5%増額するものとする。」という契約そのものの条件が反古となり、契約時点に立ち返って、115の現行賃料ではなく、本契約を100と定めた時点が直近合意時点となります。
したがいまして、法的判断を要する場合もあり裁判所の判断によって鑑定事項が決められる場合もありますので、常に直近合意時点=現行賃料を定めた時点とは限らなないことを理解する必要があります。


②賃料額決定要素
賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情 平成15年10月21日最高裁第三小法廷判決(平成12(受)573)

当初契約において最重要事項は、何といっても賃料額です。当事者双方は、何らかの根拠に基づき希望額を相手側に伝え、相応の交渉の上、賃料額が決まります。

ケース1 同種・同程度の市場賃料相場が形成されている場合、その相場によって決定される。・・・ワンルームマンション、オフィスビル、アパート等
ケース2 同種・同程度の賃貸事例が周辺にない特殊建築物や大型建築物等の場合       ・・・各種アミューズメント施設、大型スーパー、物流センター等
ケース3 その他当事者間の個人的な事情で賃料相場と乖離して合意した場合         ・・・他の条件を踏まえた親族間、他の金銭債務関係等で決定された賃料

 

これらのケースは、当事者間の合意賃料であり、ケース1は市場賃料との乖離を修正する増減請求が妥当と思われるが、ケース2、3は、必ずしも市場賃料との乖離を縮減していくものではなく、契約当初時点の市場との乖離を合意条件として、価格時点においてもその乖離を前提とした賃料改定となります。


③事情変更と諸般の事情
事情変更・・・変動判定期間の主として経済変動要因(法所定の要因)をいいます。
諸般の事情・・・賃貸借等の契約の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容の要因をいいます。



6.新規賃料と継続賃料を求める方法の違いとポイント

①賃料の仕組み
実質賃料= 純賃料 + 必要諸経費
     純賃料=基礎価格P×期待利回りr
     必要諸経費:減価償却費、維持管理費、公租公課、損害保険料、貸倒れ準備費、空室等による損失相当額 
   
実質賃料= 支払賃料 + 権… + 敷… + 慣…
    ・・・権利金・礼金等(前払い的性格)の運用益及び償却額
    ・・・敷金・保証金等(預り金的性格)の運用益
    ・・・慣習(付加使用料・共益費等の名目)として徴収している賃料

支払賃料= 実質賃料 ―(権… + 敷… + 慣…)


②新規賃料と継続賃料を求める方法
不動産の価格は、将来の全期間の使用収益の現在価値を基礎として生ずる経済価値を貨幣額表示したものです。
一方、不動産の賃料は、上記期間のうち、賃貸借契約に基づき、一定期間不動産を使用収益することを基礎として生ずる経済価値を貨幣額表示したものです。
したがって、賃料の算定期間及び契約時に当たって一時金(権利金・礼金・敷金・保証金)の授受が行われる場合も多いことから、鑑定評価においては、一時金の運用益や償却額を含めた実質賃料を把握するとともに、依頼に係る支払賃料を求める必要があります。


《1》新規賃料を求める方法
当初契約内容に即した適正な賃料を求めます。
特に、契約内容に当事者間の特別な約定を設けて特記事項に記載される場合を除き、市場賃料を指向した正常賃料を求めることになります。
いずれにしても、賃貸借契約が始まれば、以後、決められた賃料額は、両者が合意した「賃料額決定要素」となることに留意する必要があります。
以下は、鑑定評価基準に列記されている新規賃料を求める手法です。
 1.積算法
 2.賃貸事例比較法        
 3.収益分析法(あまり適用しない)


《2》継続賃料を求める方法
直近合意賃料が不相当となっている場合の相当な賃料を求めます。
これまで、借地借家法、最高裁判例、鑑定評価基準等に基づき述べてきましたように、継続賃料は、賃貸借契約の継続に基づいた現行賃料の相当性を判断するので、一律に市場賃料との差を埋めていくというものではありません。
そのためには、当事者の事情を分析する必要があり、その分析結果により、不相当になったかどうかを判定する必要があります。そして、何らかの不相当があると判断した場合、鑑定評価基準に則った下記手法を適用して相当な賃料を求めることとなります。
賃貸借契約時に決められた賃料額がどのようにして決められたものであるか、その後、これまでの経緯において賃料が改定された経緯、双方で合意した賃料交渉内容、経済事情の変動、諸般の事情、直近合意時点等を総合的判断して、賃料増減請求の行使が相当であると判断した場合、下記の手法を適用して相当な賃料を決定することとなります。
1.差額配分法
2.スライド法
3.利回り法
4.賃貸事例比較法(あまり適用しない)


以上